表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
10/328

9 N県境防衛戦

(よん)頭目のオロチが通ると予想されるルートの、住民避難が終わり


僕と灰色狼のハロ……そして僕の中の淤加美神(おかみのかみ)様のグループは、浅間山白根山ルートに陣取って居た。



「もが! もがっ!!」


あっと、忘れてた。


もう一人……元龍神のセイも、ロープで縛って一緒に連れて来ていたんだ。


僕は、セイの猿轡(さるぐつわ)を外して、忘れててゴメンと謝る。


「ぷはぁ! 何で俺まで連れて来るんだよ! 明日の同人誌即売会の用意で忙しいのに……回るサークルチェック終わってねーんだぞ」


思った以上に、ご立腹だった。


だいたい、サークル参加なんだから、他所様回って無いで本売れよ……



「いやほら……最近セイは部屋に籠りっぱなしだし、気分転換にどうかなって思ってさ」


「ロープで縛って連れてこられて、気分転換もクソもあるか!」

ご最も……


「あはは~最近、余分なお肉が付いてるみたいで……運動不足かなって」

そう言いながら、僕はセイのお腹の弛んだ贅肉を、摘まんで引っ張る


「ええい、止めんか馬鹿者。少し位肉付きがあった方が可愛いだろ?」


仮にも、食物連鎖の頂点である、龍の雄が可愛いで良いのか?


「少し位ねぇ……ちょっと考え直さないと、龍というより見た目『槌の子(ツチノコ)』みたいに成ってるぞ」


僕はペットボトルを開けると、水を操り水鏡を創ってセイを写してやる。


「うそ……此れが俺か? 格好良すぎるぜ」


「お馬鹿! 顔じゃなく、お腹を見ろ!」


「腹だぁ? ………………えっ!?」

この驚き様は、本気で気が付いて無かったんだな━━━━


「普段、あれだけ食らうて運動しなければ、そう成るじゃろうて……」

淤加美(おかみ)様が、浮いて飛んで来ると、トドメの一言を吐き捨てる。


『では、明日から、我と散歩に行ってくれ』

そう灰色狼のハロが提案をするが、出来れば即売会が終わるまで待って欲しいと、懇願するセイ。


どっちが主人だか、分からんな……


ハロとの散歩も、三日坊主で終わりそうだしね


「本当に、此処を通るのか? もう22時回ったじゃねーか」

スマホの時計を確認しながら、苛立ちを募らせるセイ


「朝までに来なかったら、龍脈移動で帰って良いからね」


「それは何か? 俺に徹夜明けで即売会へ行けと?」


「大丈夫だってば、参加者の半数以上が寝てないから……」

━━━━多分。



「のう……暇なら、『配管工作成2』で妾の創ったコース、やってみぬか?」


そう言ってセイに対戦を持ちかける淤加美様


「大婆様のコースは簡単すぎて……」


「なんじゃと!? 良い度胸じゃ若僧!」


━━━━━━緊張感が無い……


ハロちゃんなんか、欠伸してるし、緊張感無さすぎだよ


旧碓井峠に陣取ってる人達に、こんな処見せられないな……


水鏡に使った水を、少量だけ手元に残し、その他の残りをペットボトルに戻す。


手元に残した水の成分を、防虫菊から採れるピレスロイドへ変換し、それを霧状にして全員に纏わせる。


自作蚊避けの出来上がりだ。


本当は、市販のモノを使った方が、簡単なんだけど


市販の渦巻き型虫除けは、煙で狼ハロの鼻が効かなくなると、嫌がられたので


仕方なく、成分だけ霧状にして、纏って居るのだ。


それにしても、戦闘術と言うより、生活の知恵みたいな術ばかり増える気がする……


夏場は、重宝するから良いけどね


()用は出来るのに、対Goki用の殺虫は難しいんだよな……

(以降Gとする)


台所を預かる身としては、Gとの対決は避けて通れない。


あの生命力は、敵ながら大したものだ。


色々試してみようにも、直ぐに耐性が付くし、完全駆逐は無理だな。



日本には、八百万神(やおよろずのかみ)と言う言葉があり


ウチら龍神の様に、水の神も居れば、山の神も居るし


米粒1つにも神が宿ると言う考え方で、万物全てのモノに神が存在すると言うのが、八百万神(やおよろずのかみ)の教えである。


だからこそ、無駄にしたら罰があたると言う、教えなのだが……



万物全てに神が居るならば、Gにも神が存在している?


そう思い、色々調べた結果。あったんだよ……N県に……


古い神様ではなく、2000年に慰霊建立されたと言うが、案外八百万神と言うのも、こうやって増えてきたのかも知れないね。



八百万の在り方を考えながら、古い神様達に目を向けると


「うっそ! 何で意地の悪い処に、隠しブロックが!!」


「どうじゃ! 通称『孔明の縄』じゃ! くっくっく、妾の勝ちじゃのう」


「ぐぬぬ……」


「………………」


淤加美(おかみ)様……『孔明の縄』じゃなくて『孔明の罠』ですよ


僕は、軽い目眩に頭を押さえながら、ため息をつくと


セイの背中越しに大きな影が在るのに気が付く


━━━━オロチ?



いや……月明かりに照らされた姿は━━━━



「く……熊!?」


「あん? 隅? ここの処寝不足だからな……そんなに目立つ?」


「違うよ! 熊だってば!」


「ただの熊等放って置いて、此方の妾のコースもやってみよ、自信作じゃぞ!」


「望む処よ!」


━━━━ええぇ……焦ってるの僕だけか?


そりゃあ、世界へ目を向ければ、上には上が居るけど


ここ日本に置いては、最強の大型肉食獣だぞ……


セイの後ろで涎を垂らす熊……最近、駄肉の付きが良いから、狙われたか!?


「セイ! 後ろ~」

僕の呼び掛けに


「「ええい! 邪魔をするな!!」」

セイと淤加美様が、同時に叫び熊を睨む


━━━━と、熊は殺気を感じたのか、立ててた耳を伏せるようにして、逃げ出した。


睨んで熊を追い払うとか……あんな成りでも、龍なんだなぁ……


携帯ゲーム機に没頭している姿は、とても強そうに見えないけどね。



そんな時、僕のスマホが震えだす。


西園寺さん?


通話ボタンを押すと、西園寺さんの声の向こうで無線機が、非常事態を告げているようだ。


『千尋君? すまないが、此方で当たりを引いてしまった』


「その様ですね……無線機から銃声と悲鳴があがってるみたいですし」


『あぁ、聞こえたか……現在旧碓氷峠、軽井沢方面入り口のバリケードを突破され、(たける)君が自衛隊のジープを借りて、オロチを追い掛けて居るところだ』


おそらく、そのままオロチ追いやって、碓氷第三橋梁……通称『めがね橋』から狙撃を試みるのであろう


と言うか、尊さん免許持ってたんだ……


まあ、大学生だし。年齢的に持っていても不思議は無いけど



「分かりました、此方は直ぐに向かいます」


そう言って、電話を切ると、やっと出番が来たと大きくなるハロ


いや、此処で大きくなっても、龍脈に入れないから



そう言ったのだが━━━━━━



ハロは、僕の襟元を咥えると、自分の背中へ放り投げた


「ちょっ! ハロどうすんの?」


『知れたこと……走るのよ』

そう言って、携帯ゲーム機で遊んでるセイも、僕同様に背中へ放り投げると


大地を蹴って走り出す。


「ちょっと! 淤加美様は……」

と言い掛けて止めた。


空を飛んで追い掛けて来てるのが見えたし、何より外に居るのは思念体であって、僕の中に『光』か『闇』か、どちらかの淤加美様の片方が、必ず残ってるからね。


僕らはハロの背に乗って、国道146号線を軽井沢へ向かって南下する。


もっと遅いかと思いきや、巨大化している為、一歩で進む距離が大きい。


その分、背中の乗り心地は最悪だけど……


地面を蹴る度に、振り落とされそうになる。



ここの処、祭りの準備が忙しくて、散歩に出て無かったので


久し振りの運動で(はしゃ)ぎたいのだろう


「俺……こんなの散歩に連れて行く自信無いぞ……」

そう言って、振り落とされぬよう、必死に背中へしがみ付くセイ


頑張れ! お腹のお肉減らす為にも……



乗り心地は最悪だけど、スピードを落とさすカーブを曲がって行けるのは、さすが四本足で地面を蹴る四駆と言ったところか


カーブの度に、ハングオンをして、重心を出来るだけ低く傾ける。


そうする事で、スピードを落とさず、曲がっていけるのだ。


ようやく軽井沢の街が見えてくるが、ここから旧碓氷峠へ入らねば成らない。



旧碓氷峠までの直線区間で、西園寺さんにスマホで連絡を取る。



『千尋君? 今何処に……』


「すみません、事情が変わりまして……N県側から、旧碓氷峠へ走って入るところです」


『走って!? 今、自衛隊のドローンを借りて、空中からオロチを追跡撮影していますが……峠を3分の1下った処をオロチは走って居ますよ』


追い付けそうですか? との問いにウォーンと甲高く遠吠えすると、ハロは更に速度を上げる。


「大丈夫みたいです」


『分かりました。ご武運を』


スマホが切れると同時に直線区間が終わり、旧碓氷峠へ突入する。


さて、此処からが綴折りの本格区間である━━━━━━が!


谷の狭そうな処を、ジャンプしてショートカットした!


「「うああああ!」」


僕とセイの悲鳴が同時にあがる


(はしゃ)ぎ過ぎだよハロちゃん!


まさか、ショートカットジャンプするなんて思いもよらず、必死にしがみ付く


だが、それ一回で終わる訳もなく……連続でショートカット


一歩間違えば、谷底へまっ逆さまだ。


命懸けの絶叫マシーンで、声が枯れるほど悲鳴をあげる


こんなの体験しちゃったら、今後遊園地の絶叫マシーンは、面白さが半減しそうだ。



だが、危険を犯しただけあってか、前方にオロチを追うジープのテールランプが見え始める。


(たける)さんかな?


僕はペットボトルの水を使い、水のロープを作るとハロちゃんの胴体に巻き付け、手綱にする。


その、水の手綱で僕の身体を固定し、もう2つのペットボトルの水で和弓と矢を創ると、水の矢をつがえて弓を構えをする。


「おい……大丈夫なのか?」

セイが心配して聞いてくる


「大丈夫……だと思う……」


「しかし……おっと!」


セイが、何か言おうとして居たようだが、水のロープで固定している僕と違い、振り落とされそうになって、言葉を飲み込んでしまった。


大丈夫、普通の弓と違って、能力で創った水の弓だから、多少の軌道修正は効くはずだし……多分ね


実際には、射った事無いけど。



構えから、打起こし……引分け……


オロチの肆頭目の姿が視界にはいる


━━━━━━捕らえた!



僕は、指で抑えて居た弦を離すと同時に、打ち出される水の矢と━━━━



僕の胸!!


声に成らない悲鳴をあげて、ハロの背中で蹲る僕に、セイが


「だから、胸は大丈夫かと言おうとしたのに……」


早く言ってよ……


まさか、弦で胸を打たれるとは……胸が()げたかと思ったわ。


和弓、恐るべし



「痛つっ……矢は?」


僕の問いに、セイが『龍眼』を使って、暗視するが……


「どうやら、外れたようだな……」


胸の痛みで、軌道修正出来なかったか……せっかく、粘性の強い水の矢を創ったのに、残念



さて、此方の装備は、ペットボトルの水が後2本。


射てても、後1回かな?



ハロちゃんの頑張りもあって、尊さんのジープに並んだ。


「お前!? 雨女!」


いくら前回の『武甲山』で浄化雨を降らせたからって、『雨女』は無いんじゃない?


そりゃあ、龍神の水神は、雨降らせるのが仕事の1つだけどさ……



「今回の相手。肆頭目のオロチは、脚速いですね」


「とんでもない、韋駄天(いだてん)野郎だ!」

そう言いながら、カーブをドリフトで曲げて行く尊さん


車高の高いジープを、よく横転させないものだと感心する。


だが━━━━━━


既に、旧碓氷峠も半分を過ぎ、もうすぐ『めがね橋』の狙撃ポイントだった。


やはり、まだ試作段階のライフルだと言うし、前回も避けられたせいで、実戦データも無いのだ


そう考えると、不安で仕方がない。



「セイ、ハロちゃん。二人は『めがね橋』まで追い込んだら、オロチが仕留められなくも、そこで待機して」


「それは良いが、お前はどうすんだよ」


「僕は、万が一に備えて、碓氷湖で待ち受ける」


碓氷湖なら、水も沢山在るからね。


「だが、今回は操られてたりする訳じゃ無く、自分の意思による行動なら、『浄化雨』は効かんぞ」


「大丈夫。今回は『光』である高淤加美(たかおかみ)様の力じゃなく、『闇』の闇淤加美(くらおかみ)様の力を、お借りするから」


「闇だと? 何するつもりだ? 勿体振らずに教えろよ」


「秘密だってば、失敗したら恥ずかしいし」


とにかく、碓氷湖に近寄り過ぎると巻き添えに成るから、絶対終わるまで近寄らないように! と釘を刺し、ハロの背中から飛び降りる


勿論、水のクッションを創って、落下の衝撃を緩和するのも忘れない。



早速、龍脈を開いて、碓氷湖の湖畔(こはん)へ移動すると、水の上を歩いていく



簡単そうに言うが、水の上に立てる様に成るまでも、かなり大変だった。



淤加美様の、鬼のような指導で、出来るのに成るまで、約1ヶ月費やしたのだ。



まあ、地獄の特訓の日々を思い出したく無いので、この辺にして置こう



この碓氷湖での待機も、杞憂(きゆう)に終われば、言うこと無いのだけどね。


出来れば『めがね橋』の処で、(かた)がついて貰らいたい。



その時、丁度スマホが鳴り出した。


噂をすれば、何んとやら……西園寺さんだ



『千尋君、済まない……1発肩へ当たったが、止めるには至らなかった。オロチは、そちらへ向かったので……頼めるかな』


「了解です。ちょっと広範囲の術を試しますので、終わるまで碓氷湖へは、来ないで下さいね」



そう言って電話を切ると、碓氷湖で()()()()の準備を始めるのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ