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 城の近くまで戻ると馬車が何台か停まっていた。王家の紋章や装飾のない機能的な馬車だがヴェリコ殿下の迎えのようだ。乗り込んで、王城へと運んでもらう。

 私が城まで来る時に乗っていた馬車は伯爵家のもので、まだ私の帰りを待っている。これ以上、遅くなると心配するだろうと兄と一緒に居るからと伝言を頼んだ。

 案内されたのは武官のための棟のひとつで、建物とそれに併設された稽古場が全てヴェリコ殿下管轄のものだという。武官と文官が三十人くらいで、武官にも文官にも女性がいる。

 私への聞き取りは兄と女性事務官のマリアさん、リーネさんで、何が必要で不要かの判断がつかないため最初から順をおって話した。

 紅茶も用意してくれたし、お菓子もある。

 兄の前で遠慮する必要はないので、焼き菓子をみっつほど頂いた。

 美味しい、幸せ。

「結局、お茶会には参加していないため水しか口にしてなかったわ…」

 午後に到着し、一時間近く待たされて、サロンを出てからおそらく二時間は過ぎている。ランチはしっかりと食べているが、走ったせいかお腹が空いた。

「アルガ殿下のお茶会はもう参加しなくていいから」

「そう、ですね。殿下の好みは妖精ちゃんですし、公爵家のエディルネ様にこれ以上、睨まれるのも面倒ですわ」

 マリアさんが苦笑しながら教えてくれる。

「エディルネ様はクリス様にご執心ですからね~」

「おい、余計なことは…」

「何もかも隠し通せるものではございませんよ?それに知っていれば対処のしようもございました」

 たとえばサロンでぼんやり坐っているだけでなく、自分からエディルネ様にご挨拶を…と、メイドに根回しするとか。

「た、確かにそうですね…。私、どうせ妖精達の仲間にはなれないからと、出来る限り離れて座っておりました」

「それが取り澄ました感じに見えたのかもしれませんねぇ。エディルネ様はクリス様に近づく若い女性は家族であろうと許せない。と、公言していますから、歩み寄れたかどうかは謎ですが。うちの隊の女性はもれなく嫌われてます」

「そんな裏事情、まったく気づきませんでした…」

「当然です。我々は事務方とはいえ騎士隊の一員です。情報収集も仕事のうちですよ」

 なんだかとても話しやすくて、アーシャのことも話す。サロンに戻った後、いじめられてないと良いけれど。それからデルベント殿下の…、これ、正直に話したらお兄様がキレそうだ。

 ちょっと迷うな。

 言葉に詰まっていたら、タイミングよくヴェリコ殿下がアーシャを連れてやってきた。

 途中、リーネさんが席を外していたのだが、アーシャを呼びに行ってたのだろう。

「サフィーラ様、ご無事でしたか?なかなかサロンにいらっしゃらないので心配しておりました」

「別のトラブルに巻き込まれてしまったの。でも何もなかったのよ」

 結果的に…ではあるが、無傷なのは間違いない。これも結果的に…ではあるが、ヴェリコ殿下の騎士隊の方達が監視していたため、私の身の潔白は証明できる。男達を殴り、走って逃げたことは醜聞ではないと思いたい。

「良かった……」

 ほっと息をついて笑う。

「アーシャのほうこそ大丈夫?」

「はい…。サロンに戻る前にメイド長様にすべてお話ししました」

 意地悪をした相手は他にもいる。すべてを話し、罰も受けると話したが、自主的に退職するのならばそれ以上の処分はない、とのこと。

 問題行動があったメイドを雇い続けることは難しいけど、元凶はエディルネ様ですものね。

「アーシャからの話は私達のほうでも確認し、必要だと思えばシャウリー公爵にクギを刺しておくよ。ご令嬢同士の多少の軋轢にいちいち口出しはしないが、城内でこんな事を起こされていたらこちらの管理が疑われる」

 ドレスを汚し、笑い物にして、追い出す。実際、そうやって追い出された後、第三王子の護衛達に捕まった令嬢もいそうだ。結託していたわけではなさそうだが、気持ち的には共犯だ。本来、高位の令嬢は下位令嬢達の手本となるべき存在でなければいけない。

「アーシャをすぐに解放できないが、ほとぼりが冷めた頃に伯爵家に届けよう」

「ありがとうございます」

 アーシャが退室し、次はデルベント殿下の問題。


 デルベント殿下に踏みつけられた話はできれば兄にしたくなかったが、内偵中の方が一部始終を見ていたようで淡々と報告された。

 助けようかという話も出たが、私が意外と落ち着いていたため『危険だと思ったらすぐに助けよう』と。

「男達二人が連れ去ろうとしていたからね。護衛の馬鹿者達と離れたらすぐに救出する手筈だったんだよ」

 その前に私が動いて、逃走したのでびっくりだ。

「遅れをとった四人は鍛え直しだな。まさかご令嬢に置き去りにされるとは。情けない」

「サフィーラは特別ですから」

 何故か兄が得意気に胸を張った。いえ、そこは自慢できませんよ?

「あの…、デルベント殿下のことで少し気になったことが…」

 声が震えていたし、私を踏みつけた足もそんなに力が入っていなかった。なんというか、心の底から女性をいたぶって楽しい!という態度ではなかった。

「恐らく周囲の方々に影響されて虚勢を張っているだけかと思います」

「そうだね」

 ヴェリコ殿下が頷く。

「だけどね、私達はそれでは済まされない立場だ」

 護衛達は立場の弱いメイドや下位令嬢達に不埒な行為をし、気に入らない女性はそういった商売の男達に売っていた。

 私が初めてではない。すでに何人か犠牲になっている。

 ヴェリコ殿下の騎士隊は完全に独立した部隊で、命令系統も陛下、ヴェリコ殿下で直結している。子供とはいえ王子相手に強く出られるのは、同じ王子かうちのお父様クラス。ただ…、お父様が動いてしまったら、デルベント殿下も処分しなければ示しがつかない。

「最近のアルガとデルベントは少々、目にあまる。側近と護衛を入れ替えたほうが良さそうだ」

 人は身近な存在に影響される。精神が幼ければ簡単に染まってしまうだろう。

 アーシャのように嫌な事を強要されても、楽な方へと逃げずに踏みとどまれる者もいる。

 王子であれば、どんな甘い言葉にも惑わされてはいけない。

「その前に…、すこしお仕置きしようかな」

 ヴェリコ殿下が爽やかに笑いながら言う。

「クリス、殺さない程度に頼むよ?」

「………それは、デルベント殿下を事故と見せかけて始末しろ。ということですね、わかりました」

 いや、ダメでしょう?

 ダメですよ、お兄様、落ち着いて。

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