ディスタンスSS オーク
「ディスタンス」を既読されてないとわかりにくいかもしれません。
こちらは、オークさん視点のお話になります。
ウルフの様子がおかしい。
テルーちゃんもずっとTDGにログインしていない。
ギルドオフ会は成功だったはずだ。テルーちゃんも楽しんでいたよなぁ?
SNSやオンラインゲーム(ネットゲーム)は自分の素性を隠す人もいるが、慣れてくれればリアルで会って親交を深めることもある。
テルーちゃんはなかなか慣れてくれなかった。いつも壁を感じた。よほどの警戒心の強い子なんだろうなぁ。最近ようやく、話題に乗るようになったんだ。テルーちゃん、と声をかければ、反応を返してくれるようになった。
TDGに遊びにくるヤツは、やりこみ派、適当派、仲間とつるむ派とさまざまだが、俺のギルドは適当に楽しんで仲良くやるスタンスなので、やりこみたい人はこないが、俺やウルフはそれなりにレベルもパワーもあるのでイベントペアの申込がよくある。俺もウルフも女性アバターにモテて引き抜きの声がかかる。もちろん、俺もウルフもその気はなく、イベントも適当に組んだり組まなかったりだ。
そんな中で、テルーちゃんはマイペースに一人で黙々探険しているようだ。誘えばのってくれるが誘われたことはない。ウルフが意地になってテルーちゃんを誘いまくっているのは仲間もわかっている。
テルーちゃんは欲がない。イベントをやらないからと気前よく仲間にイベントツールを譲ったり教えたりするが、逆に仲間たちが、あげるよ、といっても遠慮して受け取らない。むしろ、足りない人に回してしまう。意外にまわりをよくみている子だ。そういう子は珍しい。ついつい、テルーちゃんに甘えたり構ったりしてしまいたくなる、そんな人柄なんだな。
テルーちゃんはいつもでしゃばらないように気をはっているみたいだが、ギルドの仲間たちはテルーちゃんを構いたい、いいやつばかりだ。話が出来ただけで機嫌がよくなる。
その筆頭がウルフだ。
「ルルちゃん」というのは俺のだけ、とみんなを牽制している。それだけ、独占欲をアピールされたら、しょうがない、応援してやるか、ってなる。
ギルドオフ会から数日たってもテルーちゃんがログインした様子はない。
テルーちゃんになついていたアリスが騒ぎだした。
『オークさん、テルーさん、来てないですよ。こんなに来ないの、初めてですよ』
『そうだなぁ』
『何かあったんですよ。テルーさん、すごく、繊細ですから』
『まぁまぁ、だからと言って、来ないのに、出てこいとは言えない。本人がしたいようにさせるしかないだろう? 俺たちができるのは、いつでも帰ってこいよ、という態度だ』
『そうですけど……心配ですよ』
『う~ん、ウルフ……かな?』
『ウルフさん?』
『ギルチャを企画したのはヤツだろ。その後からだからなぁ。まぁ、様子を見よう』
ギルドチャットならテルーも参加するとウルフが張り切っていた。
あいつ、なんかやらかしたかな?
俺がギルドオフ会に誘ってみたんだけどダメだったと言ったら、『ルルちゃんを誘うのは俺の役目でしょ。オーク、何、勝手なことするんだよ』とすねていたな。
と、思っていたら、ヤツの方からやって来た。
しかも、リアルでだ。肩を落として松葉杖をつきつつやってきた。
「オーク……、俺、やっちゃったかもしれない……」
「えっ、なにをやったんだ?」
「ルルちゃん、逃げちゃった……」
「はぁ?ちょっと待て。さっぱり内容がみえないから、わかるように話せ」
「ギルチャの後、チャットしたんだ」
「うん」
「ルルちゃん、酔っぱらっててね」
「あらま。ガチで呑んでたんだ」
「でね、寝ちゃったんだな」
「うん」
まだ、話が見えてこない。じれてきた。
「ルルちゃんがオフ会に来たがらない理由、わかっちゃったかも……」
「はぁ?」
「どうしよ、俺……」
「つまり、どういうことだ?」
「ルルちゃん、耳のきこえない人っぽい」
「……あ~。」
なるほど。だからギルドチャットなら参加できたんだな。
「ルルちゃん、TDGに来ないのって俺のせいかな? つか、どうしたらいい? 聞こえない人ってどう付き合ったらいいんだ?」
「おい? おまえ、まさか、聞こえない子だから仲間やめるって訳じゃないだろう?」
「やめないよ。でもさ、リアルで会いたかったんだよ。これじゃリアルで会ってくれない……。」
「ギルチャ形式はダメなのか?」
「ギルチャ形式?」
「聞こえないから会話できないってんなら、筆談でもなんでもあるんじゃないのか? まずはどんな障害があって困るか勉強すればよいんじゃないの?」
「べ、勉強……」
「テルーちゃんを理解するための勉強だよ。イヤなら、お前の気持ちもそれまでだよな」
「う……」
「まぁ、頑張るこった」
ウルフの気持ちが、テルーちゃんの耳の障害でぐらつくくらいならそれだけの男だ。
そう、思っていたんだけどなぁ……。
どうやら、本気になったようだな。