表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
5/59

晴明の食卓

 (あかね)怪訝(けげん)な顔をしたが、晴明(はるあき)は笑って誤魔化(ごまか)した。

「あの……お茶っ葉ないんで……。ちょっとコンビニ行ってきますね。」

 話題を変えよう。動揺する度にこんなようじゃ、いつかこの良く分からない人にべらべらと昔話をしてしまいそうだ。

 晴明は、()られて困る金目のもの……ないな。この家で1番高価なものって言ったら、冷蔵庫くらいだ、と一案して、サンダルをひっかける。

 コンビニに行っている間に、ぜひとも頭を冷やしたい。晴明の頭はそれでいっぱいだ。不用心かもしれないが、彼女が茜ではなくただの(ぬす)()かも知れないという心配よりも、本当に茜かもしれないという期待の方が大きかった。それなら、丁重にもてなすのが俺の仕事だ、とも。


 一方茜は、居間の真ん中で意味もなく正座して、辺りを見回していた。

 晴明の部屋は殺風景である。居間にあるものと言ったら、エアコン―さすがの晴明も、暑さには敵わない―、ラジオ、電子レンジ、積み上がった新聞紙、シミの入ったコーヒーカップ、冷蔵庫。そのくらいなのだ。

 ラジオを聞こうとするも、茜には最近の流行りの歌など全く分からない。静かに音量をゼロにした。部屋に静寂(せいじゃく)が降り注ぐ。部屋にはミカンの匂いがほのかに漂っている。

 茜は金属製のドアを見ては、床を見ることを繰り返した。


 数分して、鍵の開く音がした。続いて、サンダルを脱ぐ音、ビニール袋特有のガサガサ音。

「お帰りなさい。」

「ただいま戻りました。

 あ、ついでにお弁当買ってきたので、一緒に食べましょう。」

 晴明は、湯を()かし、電子レンジのスイッチを入れた。茜はその後ろ姿を見つめている。晴明はその視線を確かに感じながらも、(たしな)めようとはしなかった。


「出来ましたよ。

 確か……卵焼きが好きでしたよね。」

 茜は、少し嬉しそうに、はい、と返す。

 晴明は、自分の弁当を電子レンジで回し始めた。茜は、玉子焼きを頬張り始め、幸せそうな顔をしている。

 好きなものは先に食べるなんて、そんなこと書いたっけな。と、晴明は、思い出そうとするも、諦めることを選んだ。


 チーン、と、小さなアパートには不釣り合いな大きな音が鳴る。晴明は、電子レンジの扉を開け、海苔(のり)弁当を取り出した。

「よっと。」

 晴明のポリシーだ。俺は何歳になっても、よっこらしょとは言わない。端から見れば気づきもしないかもしれないが、この一件に関して、晴明は非常に気を使っていた。

「晴明さんは、いつもこのお弁当屋さんに行くんですか?」

 茜は苦手な梅干しを(はし)(もてあそ)んでいる。

「いやぁ、弁当屋だなんて、そんな。

 コンビニ弁当ですよ。

 これでも結構美味しいでしょう?」

「えぇ!?」

 晴明は、思わずうひゃっ、と声を裏返させた。

「ダメですよ!

 これからは私が作りますから!

 最寄りのスーパーはどこですか?」

「あぁ、スーパー・スターというところなら5時頃にいくとポテトサラダが安いんですよ。」

「もしかして、晩御飯(ばんごはん)はそれだけ、とか?」

「はい。」

「晴明さん!」

 晴明は、思わず(こうべ)を垂れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ