薄暗色パスタ
晴明が暫く車を走らせていると、ファミリーレストランを見つけた。
今はお昼時。混雑が予想される。
しかし、この先に飲食店となると、晴明に思い至る場所はない。仕方なく、駐車場に車を停めた。隣に並ぶ自家用車はぴかぴかに磨きあげられている。晴明は俯いて、そちらを見ないようにした。
「いらっしゃいませ。何名様ですか。」
「ふたりです。」
「禁煙席でよろしいでしょうか。」
「はい。」
そんなお決まりのやり取りを経て、ふたりは席についた。最近はファミリーレストランも、分煙が進んでいる。
茜は新鮮なことだらけなのか、何やら落ち着かない様子だ。晴明は机の端にあるメニューを茜に渡して、反応を見ることにした。すると、どんな定番メニューも、茜にとっては初めて見るものらしい。味が想像できず、かなり迷っている様子だ。晴明は苦笑しながらその様子を見ていたが、少し可哀想になって、茜に声をかけた。
「迷ってます?」
茜は晴明の問いに顔を上げた。その顔は絵に描いたような困り顔。だが、晴明があまりにやにやしながら話しかけるので、怒り顔になってしまった。
「すみません。
晴明さんと同じでいいです。」
茜は語尾を強めて言った。そのせいか、この言葉は晴明の胸にずんと来たのだった。
責任重大。茜のファミリーレストランを飾る料理を決めるよう仰せつかったのだ―しかも、怒らせてしまったので断ることもできない―。晴明は椅子に深く座り直して腕を組んだ。
晴明の定番と言えば、この店名物のハンバーグ定食にライスをつけると言ったものだが、女性の茜に食べ切れるとは思えない。
どうしたもんか。よし、ダメはもともと。
「いやいや。ちゃんと選びましょうよ。
私も手伝いますから。」
どうだ。これで許しちゃくれないか。出来るだけ低姿勢で言ったつもりだったが、茜は譲らない。こういう時の茜は頑固だ。
しょうがない。今日は軽めにすまそう。と、晴明は少しがっくりきながら、呼び出しベルを押した。
「パスタの単品をふたつ下さい。」
ふたりのパスタは、同時に運ばれた。写真で見るよりも少し色が暗く見えたが、ファミリーレストランのメニューなどそんなものだ。
「いただきます。」
これまたふたり同時に手を合わせて、メニューの近くにあるフォークを2本、晴明は取り出す。1本を茜に渡し、晴明はパスタを食べ始めた。
茜は晴明のフォーク使いを見ながら、同じように食べる。その様子がまた少しおかしくて、晴明はまた笑った。
ふたりは食べ終わると、談笑もそこそこに、店を後にした。
晴明はまた古びた車に戻り、茜をその助手席に乗せる。
「ここから目的地まで、少々距離があるので、寝ててもいいですよ。」
晴明はそう声をかけると、エンジンを数度かけ直しつつ、車を発進させた。
運転を任せておきながら勝手に寝ることに、抵抗を覚える人もいるらしい。そこで、晴明が思いついた気遣いだった。
そう、このファミリーレストランから夕焼けスポットまでは、高速道路を数時間走らなくてはならない。
晴明の地元には、夕焼けスポットはないのだ。
ちょくちょくサービスエリアに寄って休憩を挟もうとは思うが、急がなければ夕焼けに間に合わない。
晴明はいささか焦燥感を覚えつつ、ハンドルを握った。




