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もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
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Da Capo

 結局のところ、晴明(はるあき)(あかね)の目を見ることに成功していない。

 また明日、また明日と先延ばしにするうちに、罪悪感だけが積み重なっていく。

 このままではまずかろう。

 そうだ。リサ。リサだ。彼女に相談しよう。


 テレビ電話を呼び出して、リサが狼男だ男狼だの話をする前に、晴明は切り出した。

「リサ。実は、相談に乗ってほしいことがあるんだ。」

 そう言うと、リサの顔が(こわ)ばったのが分かった。恐らく、そう言ったことにあまり慣れていないからだろう。

 聞き流しているリサとの会話の中で、何故か耳にこびりついたのが、

「実は私は孤立している」

という文句だった。

 魔物だ幽霊だの話ばかりしていたら仕方ないのかもしれない。だが、晴明が聞き流してなお、リサとのビデオ通話をやめないのには、彼女のもつ不思議な魅力にあった。話していると、何故か落ち着くのだ。もしかしたら、俺は取り憑かれているのかもしれない、と、写実的な作風で知られている晴明にしては珍しくそう思ったほどだ。


 そんなリサだが、

「どうしたの?」

 と、にこやかに聞いた。

 特に無理に詮索(せんさく)しようだとか、聞き流そうだとか、そういう意思は見受けられない。

 ああ、こういうところかな。と、晴明は思いつつ、ペットボトルの水を飲んだ。

「俺が、小説家をしているのは知っているよな?」

 そう言うと、リサは(うなづ)いた。

 リサとテレビ電話を始めたばかりの頃、職業も含めて自己紹介したことがあるが、それでも一応聞いておかねば心配だ。

「信じてもらえるかわからないが……。

 いや、半信半疑でいい。

 実は……。その、小説の登場人物と、同居してるんだ。」

 そう言うと、リサは、はっと息を飲んだ。晴明が()く嘘とは思えない。何より、嘘にしては、顔が真剣すぎる。だから、リサは言葉を失った。

 晴明は、返事を待たず続けることにした。

「それで、その子が、小説の中身をずっとなぞってるんだ。

 それはいい。でも、その小説、最後にその子死んじゃうんだ。」

頭をがしがしと()く。リサは、黙って聞いていた。


 リサは(しばら)く黙ったのち、覚悟したように口を開いた。その口は幾度か音もなくぱくぱくと動く。

 晴明は、その一挙一動(いっきょいちどう)にびくついた。

 何を言われても構わない。ただ、笑われなければそれでいい。リサはそんな人ではないと思うのだが。


「それ、は。

 もう少し、様子を見なくちゃ。

 次は、何が起こるはずなの?」

 晴明は、いつもの挙動(きょどう)が嘘のように、素早く『木枯らし』を手に取る。

 そして、加藤と公園に出かけた辺りまでを斜め読みし、溜息(ためいき)()いた。

「ドライブをして、夕焼けに感動するらしい。」

 晴明は、車が嫌いなのだ。


 リサは、少し考えたのち、こう言った。

「彼女が本当に本の世界の人なら、まず夕焼けに感動する。

 そして、未来のことは分からないはず。

 少し先に起こることを、それとなく聞き出してみるといいかも。

 それでかかったら、偽物だよ。」

 晴明は、なるほど、と膝ポンした。

 問題解決―といっても論点はすり変わっているが―の糸口がようやっと見つかったのだ。

 その頭にあった栓が音を立てて抜けたような爽快感(そうかいかん)が、車を運転しなくてはならない、という億劫(おっくう)さに勝つことはなかったが。


 晴明はリサにお礼を言って通話を切ると、電話帳をパラパラとめくって適当なレンタカー会社に電話した。

 決行の時は来週の月曜日。さあ、それまでに、今度は綺麗な夕焼けスポットを探さねば。


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