表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
10/59

斜眼子

「木枯らし」を読み返した日から、何となく晴明(はるあき)(あかね)と目を合わせられないでいた。

 茜は、痛いほどに人の目をみて話すのだ。それが彼女が人に好かれる要因であることも分かっている。晴明は、そんな視線を(こば)むことが申し訳なく思えて、茜と話す時は、なるたけ目を合わせてやるようにしていた―リサと話す時は、晴明はあまり目を合わせない。真剣に聴いていないとも言う―。


 そんな晴明だったが、彼は今、無意識に目を逸らしている。何故か。単純明快(たんじゅんめいかい)

 彼は、怖かった。目を合わせると、必然的に、相手の顔を見ることになる。すると、当然、記憶の中に残ってしまうのだ、相手の顔が。

 高校時代、晴明はその恐ろしさを知り、人からの好意をかなぐり捨てて、目を合わせることなく生きてきた。それを今更、変えた自分が悪かったのだ……。

 晴明は、溜息(ためいき)()いた。


「晴明さん。」

 2度のノック―といっても居間と晴明の仕事部屋との間に(ふすま)は無いので、床を叩くのだが―の後、茜が仕事部屋へと足を踏み入れた。晴明は、振り返ることなく、―特に何を書いているでもないのに―適当にペンを走らせている。茜は、邪魔をしては悪いと思ったのか、足音を忍ばせ、そっと机に近づくと、お茶を置く。

 晴明は、

「ありがとうございます。」

と言うと、湯のみに手を伸ばした。茜は、はい。と返すと、部屋を後にした。湯のみに入ったお茶を口に含むと、晴明は溜息を吐く。お茶がやけに苦いからではない。俺はあといくつ、嘘を()けばいいのかな。なんて独り言は、心の中にしまったままにしなければならないからだ。


 やはり、茜の視線を感じながらそっぽを向くのは、なかなか辛いものがある。何となく、悪いことをしている気分だ。

 いつかは、元のように目を見てやらねばなるまい……。

 怖くてくじけるようでは、男が(すた)る。と、晴明は考えていた。しかし、そう思った直後、明日からでいいや……。とも、思う。


 そう、茜はずっとそばにいてくれる、死んだりなんかしない……。

 晴明はそう、今度は口に出して言い、湯のみに今一度手を伸ばした。湯のみのお茶は、室温のせいか冷え切っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ