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7話

 

「ふあ……流石に眠いな……」


 自分の席に座りながら大きな欠伸をする。

 昨夜、ストレス発散の為ラスト・ラグナロクに熱中していたのだが、少々のめり込みすきだ。


 まさか、気づいたら朝日が昇ってるなんて……


 徹夜明けの登校は中々に堪えた。

 ゲーマーの中には何人も徹夜してプレイする猛者もいるが、俺はしっかりと睡眠をとるのがポリシーだ。

 その方が徹夜続きの時よりも、動きが鈍らない。

 実際に試したから間違い無い筈だ。


 今は現代文の授業なのだが、教師の説明が子守唄にしか聞こえないレベルで眠い。

 しかしここで眠ってしまうと、また放課後に説教を受ける可能性が生まれてしまう。


 それは出来る限り避けたい。

 何故なら今日は、憂国さんと会おうと思っているからだ。


 いつもの通りで待ってれば、通りかかるかもしれない。

 待ち伏せしてるみたいで……いや実際問題待ち伏せているのだが、俺にチャットを通して彼女を呼び出す勇気は無いので仕方がないのだ。


 だから俺は、必死に己の睡魔と戦う。

 一時間目、二時間目と授業が終わる。

 昼休みに入ると、昼食も食べないで仮眠をとった。


 この状況で何かを食べたら、確実に寝落ちする。


 そんな涙ぐましい努力の結果、五時間目と六時間目、共に何の問題も無く授業終了のチャイムを聞けた。

 俺は全ての授業を眠らずに乗り換えたのだ!


 仮眠のおかげか、眠気も今朝よりかはマシである。

 これなら憂国さんとの会話にも支障を乱さない。


「起立、礼」


 日直の号令で無事にホームルームも終わる。

 クラスメイト達は各々の活動の為散らばっていく。

 とは言え殆どは帰宅している。

 残ってる生徒は進路相談などを教師にするらしい。


 そんな中、俺は早足に教室を出る。


 そんな時。

 俺は突然声をかけられた。

 何だよもう……と思いながら振り向く。


 そこにはいつぞやの体育の授業で、俺を散々使えないと罵ったクラスメイトがいた。

 名前は寺島烈矢。

 クラスでは若干やさぐれている。


 不良になりきれない中学生って雰囲気だ。

 そんな事は口が裂けても言えないけど。


「おい、お前」

「何、かな……」


 お前って酷いな。

 俺でさえクラスメイトの名前は一応覚えているぞ。

 何人か怪しいのはいるが。


 俺のそんな思いを踏み潰すように、寺島烈矢は不遜な態度で傲慢に言い放つ。


「掃除当番、代われよ。オレ今日、部活あんだよ」

「え、どうして俺が?」

「お前、どうせ暇なんだろ? お前と違って、俺は部活で推薦受けてんだよ、だから練習してんだよ」


 呆然とする。

 こんな奴、現実にいるのか。

 それこそ漫画に出てくるようなキャラクターだ。


 寺島の言い分はこうである。


 自分は部活の推薦を受けており、大学から期待されている。

 そんな輝かしい未来のある自分が、掃除当番なんて事で練習時間を減らされるのは納得いかない。


 だから暇そうかつ進路すら決まってない道端のゴミである俺に、掃除当番を代わってもらう。


 ……以上、終わり。

 全くもって意味不明である。

 掃除当番くらい全うしてくれ。


「普通に嫌なんだけど……」

「あ、いいだろ別に。少しは人の役に立ったらどうだ?」


 寺島は本気で俺に掃除当番をやらせるつもりらしい。

 今まではこんな事無かったのに、何故だ。

 ……推薦か。

 三年生になってから、皆んな進路で大忙し。

 そんな中、大学から進路を貰えて、心に余裕が出来たのだろうと憶測する。


 で、先日の体育のバスケットボール。

 俺が誰からも信用されておらず、また一切の興味を持たれてないモブキャラだと分かり、コイツなら無理難題を吹っかけても誰も気にしないと思ったのだろう。


 その慧眼、恐れ入る。

 事実、誰も彼を注意しない。

 寺島の声はデカイ、教室中に響く程だ。

 なのに全員無視……気にも留めない。


 加えて俺は、学校側から問題児と認定されている。

 この時期なのに進路が一切決まってないからだ。

 だから教師も、俺を助けようとしないだろう。


 まさに八方塞がりだった。


「寺島ー、何してんだよー!」

「部活行かねーのかー」

「おう、今行く!」


 行くなよ!

 心の中で叫ぶ。

 しかし、本当にマズイな。


 このままでは掃除当番を押し付けられる。

 そして、これかも押し付けられ続けるだろう。

 そんなの嫌に決まってる。


 となると是が非でも断る必要があるのだが……


「おら、任せたぞ」


 そう言って去って行く寺島。

 彼が背後を振り向いた瞬間ーー


「っ!」

「あ、オイ!」


 俺は全速力で逃げ出した。

 寺島は俺の逃走に気づくがもう遅い。

 狭い廊下を走り抜け、隠れるように階段を降りる。


 彼もわざわざ、掃除当番を押し付ける為だけに俺を追うなんて無様な真似はしないだろう。

 俺はそのまま下駄箱へ向かい、何事も無かったかのように靴を履いて下校した。


「……はあ」


 溜息を吐く。

 今日は酷い目にあった。

 同時に改めて俺の学校での立ち位置が分かった日でもある。


 居ても居なくても、どっちでもいい空気。

 主役を引き立てるモブキャラ。

 教室の片隅で蹲る、哀れな陰キャラ。


 ……くそ。


 予定変更だ。

 今日、憂国さんと会うのはやめよう。

 酷い顔をしているし、こんな気分で会いたくない。


 そう思いながら歩いていると。


「どうしたの?」

「え……ええっ⁉︎」


 凛とした優しくも鋭い声音。

 慌てて振り向く。

 するとそこにはやはり、憂国さんが佇んでいた。


「酷い顔ね、何かあったのかしら?」

「あ……な、何でもない、よ」


 当初の予定が成就してしまった。

 またまた予定変更。

 憂国さんとの会話を全力で楽しもう。


「えーと、良い天気、だね」

「……何かあったのね」


 はあ、と溜息を吐く憂国さん。

 全てお見通しのようだ。

 そりゃまあ、俺が彼女の立場でも気づくな。


「けど、話したくない」

「……っ」

「図星ね。それなら、まあ別に構わないわ」

「え……いいの?」


 あっけからんと彼女は言う。

 ジッと俺の目を見ながら、憂国さんは続けた。


「私、嘘は嫌いだけど、何かを隠したいって想いは否定しないわ。それは悪い事かもしれないけど、朝よりかは相手を傷つける事は少ないから」

「憂国さん……」


 嘘は嫌い。

 だけど、何かを隠そうとする想いは、否定しない。

 矛盾してるようでしていない、ような気がしなくも無い……ダメだ分からねえ。


 と、とにかく。

 彼女が俺を気遣ってくれてるのは、理解出来た。


「あ、ありがとう、憂国さん」

「ふふ、どういたしまして」


 微笑む憂国さん。

 ああ、やっぱり綺麗だなあ。


「ところで、どうしてここに?」

「偶々よ、下校中にね」


 そう言いながら、彼女は俺の手を引く。

 白く柔らかな指が俺の手首を覆っていた。

 な、なななななんですとおおおおおっ⁉︎


「ゆ、憂国ひゃん!」

「何処かへ行きましょう? 私、君の事をもっと知りたい」


 ニコリと笑う憂国さん。

 一方俺は呂律がおかしくなってしまう。

 何が起きてるのか理解しようとしても、動揺で脳がショートしてしまった。


 こ、これはまさか。

 デート、なのか……?

 あの伝説の放課後デート⁉︎


 ま、まて早まるな夕張幻冬!

 ただ友人同士で遊びに行くノリかもしれない!

 うん、きっとそうだ。


 しかしここで重大な事に気づく。

 俺、リアルで友人同士で遊ぶ事すら初めてだった。

 蒸気した気持ちが落ち着いてくる。


 ……悲しい奴だなあ、俺って。


「もしかして、嫌だったかしら?」

「そ、そんな事ないよ。少し驚いただけで……うん、何処かへ行こう!」


 こうして憂国さんとのデート? が始まった。

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