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第2部 * 2-(2) *


 物界の駅の改札をくぐり、また精霊馬で空へと上昇。西の方角へ。

「あと30分くらいで着くから」

 日向正太郎の言葉に、小陽は、ああ、やっぱり精霊馬は必要かも、と思った。

 精霊馬のスピードは、結構速い。あくまでも体感だが、時速にして80キロは出ていそうだ。小陽の自宅アパートから心界の駅までと同じように空中を行くようだから、障害物は関係無いはずで、それなのに30分もかかるということは、と。


 宵闇に沈んだ地上の建物や街灯には灯りが点り、星屑のように足元に散らばる。

(キレイ……)

 小陽が見惚れていると、それに気づいたか、日向正太郎、

「今日は天気がいいから、もう少し時間が遅くなって空まで暗くなると、星が出て、どっちが地面か分からなくなって、スゴイぜ? 」

(…うーん、それはな……。それって、さっきのトンネルみたいな状況ってことでしょ? それはちょっと……)

 しかし心配には及ばなかった。空まで暗くなるより前に、だいぶ田舎のほうへ来たようで、足元は極端に灯りが減り、底の見えない漆黒の闇となったのだった。

(…これはこれで怖いんだけど……)

 その時、ガクンッ! 精霊馬が大きく揺れた。

(! )

 小さく叫んだ小陽に、日向正太郎、

「しっかり掴ってろ。着くぞ」

 直後、精霊馬は急降下。数分前から視界に漆黒の闇から突き出た大きな黒い塊と認められていた中へと、吸い込まれていく。




(…焚火……? 夏なのに……? それに、誰も傍にいなくて大丈夫? まあ、小さい火だし、燃え移りそうな物も無いし、風も吹いてないけど……)

 精霊馬の降りた場所は、ボコボコとした、一応、という程度の舗装をされた、僅かな傾斜のある道の上。

 目の前には、扉の無い、石柱だけの門と、門の中央の地面の上に、ごく小さな焚火。門の両端から左右へ続く生垣の向こうに、灯りの点った平屋の民家が見える。

 背後には、深く深く真っ暗な森。

 そう、精霊馬を吸い込んだ大きな黒い塊は山で、精霊馬は、その山の中に建つ民家の前に降りたのだ。

 空がまだ、それほど暗くないせいか、離れた場所から見たところの黒い塊内部にしては、意外と明るい。

「よっ」と小さく声を漏らしながら、日向正太郎は精霊馬を降り、馬上の小陽に手を差し伸べる。

 小陽は遠慮しつつその手を取り、地面へと降りた。

 途端、精霊馬がフッと跡形もなく消え、小陽は思わずビクッ。

 そんな小陽のリアクションに日向正太郎は苦笑しながら、

「ここが、俺の実家」

言って、

「行こう」

小さな焚火のある門へと歩き出す。

 日向正太郎に拠れば、この小さな焚火は、お盆初日の夕方に焚かれるもので、「迎え火」といい、自分たち心界に暮らす者が迷わずに実家へ帰って来れるようにするために、物界の親族などが用意してくれる目印らしい。

(へえ、そうなんだ……)


 日向正太郎の説明を聞きながら、彼の後について、中央で燃える迎え火を避けつつ門をくぐると、そこから左斜め3メートルくらい先の玄関の前でウロウロしている、見覚えのある男性の後ろ姿があった。日向三郎だ。相変わらずキチンとした印象の服装だが、一応、私服なのだろう。上が半袖の白いポロシャツで、ズボンにはピシッとした折り目が入っていない。

(…サブローさん……? )

 心の中で小陽が呟いたのと、ほぼ同時、

「サブロー君っ!? 」

 日向正太郎が驚いたような声を上げる。

 小陽と日向正太郎のほうを、途惑った表情で振り返った日向三郎は、2人の姿を認めたと思われた瞬間、パッと顔を輝かせ、

「ああ、正太郎! …と、小陽、さん……? 」

 日向正太郎が、小陽が連休に出掛ける予定が無く、最近、元気も無かったため、元気づけようと連れ出したのだと、小陽の一緒にいる理由を軽く説明した上で、ああ、そうなんだね、と納得した様子の日向三郎に、

「でも、珍しいね。サブロー君がお盆に帰省なんて」

「珍しい、って言うか、初めてだよ。僕、心界へ行ってから、かなり早い段階……まだ初めてのお盆休みを迎える前に案内員になって、それからずっと、お盆休み期間は仕事だったから」

 そこまでで一旦、言葉を切り、日向三郎は、ちょっと家の中を気にした感じで、バツが悪そうに作り笑いをし、

「もう姉さんたち、皆、揃ってるみたいだし、70年以上も経って初めてなんて、何となく入りづらくって」

 日向正太郎は、そうか、と頷き、

「きっと、叔母さんたち喜ぶよ」

言って、一緒に入ろう、と、まず自分が、戸を開けないまま通り抜けて左半身だけ玄関の中へ入り、小陽と日向三郎を待って振り返った。

 それを見て、

(! )

 小陽は驚くが、すぐに思い出す。自分たち心体にとって、物界はそういうものだった、と。

 ほぼ1年ぶりに訪れた物界。そんなこと、完全に頭から抜けていた。

 日向正太郎・三郎は分からないが、小陽自身は、自力で目の前のこの戸を動かすことなど出来ず、中へ入るには、そのまま通り抜けるのが当然なのに……。

「小陽? 」

 日向正太郎に促され、

「あ、は、はい。お邪魔します」

 入口の戸などを通り抜けることは、以前、物界へ来た際に、普通にしていたことなのだが、あまりに久し振りなため、ちゃんと出来る気がせず、ちょっと勢いをつけ気味に、小陽は玄関の中へ。

 入れて、ホッとする。

 日向三郎が小陽のすぐ後に続き、最後に日向正太郎が完全に入った。


 玄関を入って、ほんの1メートル正面には、障子。その向こうからは、複数人の女性のものと思われる明るい笑い声が響き、非常に賑やかだ。

 靴を脱いで玄関の段差を上がった日向正太郎が、また先頭で左半身だけ障子を入って、一旦、頭部だけを完全に向こう側へ通し、

「どうも」

障子の向こうにいるであろう人たちに挨拶。再び玄関側へ頭部を戻し、小陽と目を合わせて頷く。

 それを受け小陽、明らかに向こう側に人がいる状況なため、遠慮がちに、

「失礼します」

そうっと、しかし、また無意味に力を入れてしまいながら、障子を入る。

 障子を入った、そこは、18畳の畳の部屋で、笑い声の主と思われる、外見年齢20代前半から30代半ばくらいまでの、和装だったり洋装だったり、派手だったり地味だったり、間違いなく他所行きだったり恐らく普段着と思われたり、様々な服装をした女性たちが9人いて、大まかに2グループに分かれて座り、お喋りを楽しんでいた。

 入っていきなり、普通に寛げる環境の部屋であったことを、小陽は、意外に感じる。

 現在の自宅アパートと物界の実家以外の家に足を踏み入れたことが無く、他はテレビのアニメやドラマなどでしか、他所の家の内部を見たことの無い小陽が、これまで目にしたことのある家は全て、玄関を上がったら廊下、もしくは、ちょっと広めのホール。その壁面に、他の部屋へとつながる入口がある、という造り。

 玄関を入って、たった1メートル先を、障子で遮られていた時点で、既に、変わった造りだという印象を持っていたが、障子の向こうは当然、廊下が続いているかホールが広がっていると思い込んでいたのだ。

 自分に付き添うようにして全身を部屋へ入れた日向正太郎を振り仰ぎ、小陽がそう言うと、日向正太郎、

「そうか? この辺の地域の古めの家じゃ、わりと当たり前の造りだけどな」

と返し、今、入って来た玄関は、本来、客専用で、家族は勝手口から出入りするのだと補足。それの更に補足で、

「結構便利なんだぜ? この造り。来客があった時は、いつもこの部屋へ通すんだけどさ、玄関とこの部屋さえ常にキレイにしておけば、突然の来客にも恥ずかしい思いをしなくて済むだろ? 」

(…まあ、確かに……)

 部屋には仏壇と、その手前に、低いテーブルがあるだけ。尤も、低いテーブルの四隅には笹竹が立てられ、それを繋ぐように上部に縄が張られて、ゴザを敷いた天板の上には普通サイズのキュウリで作られた精霊馬をはじめとする多種多様な物が所狭しと並べて飾られて……と、低いテーブル限定でゴチャゴチャしているが、18畳の広さのわりには物が少ないためキレイを保つのは難しくないかも知れない。

(…でも……。恥ずかしい思いって、どういうこと? お客さんを通すのに、汚い部屋だと恥ずかしいの? )

その感覚的な部分が、小陽には理解出来なかった。

 今、この部屋の中にいる人は、お盆で帰省しているのだから、ほぼ間違いなく、この家の身内である中に在って、

(わたしは、客の立場だけど……)

 この部屋は今、キレイに片付いているが、仮に散らかっていたとして、客の自分が、それを理由に、この家の人や、家そのものに悪い印象など持つだろうか?

(だって、突然来てしまったのは自分なんだし、もし前もって言ってあったとしても、自分のためにわざわざ片付けとかされたら、申し訳ない気持ちになると思うんだけど……)

 つい考え込んでしまった小陽の隣で、日向正太郎は、おもむろに後ろを振り返る。

(何だろ……? )

 小陽がそちらに気を取られる形で考えるのをやめた直後、

(! )

 日向正太郎が、顔だけを玄関との境の障子に突っ込んだ。

 自分だって障子を通り抜けて部屋に入っていながら、また驚いてしまい、小陽は溜息。

(……ダメだ、全然慣れない……)

「サブロー君? 」

 障子の向こうで、日向正太郎が口を開く。

 それで初めて、

(あ、サブローさん、まだ玄関にいたんだ)

小陽は、サブローが部屋に入って来ていないことに気づいた。

 日向三郎は、日向正太郎の呼びかけに答える。

「やっぱ、ちょっと気まずくてね……。うん、今、行くよ」

 分かった、と返し、顔を部屋のほうへ戻す日向正太郎。

 ややして、日向三郎が静かに、辺りを窺うように、俯き気味、目だけを落ち着きなくキョロキョロ動かしながら、障子を通り抜けてきた。

 瞬間、

「サブちゃんっ!? 」

 部屋の中の9名の女性のうち、外見年齢30代半ばくらいの、和服をちょっと緩めの印象で小粋に自然に着こなした強面の女性が、吸っている、物界の物とは全くの別物であるため煙の出ない煙草を口から離したタイミングで目を見開く。そして、手にしていた、携帯用灰皿という名のケースに、タバコを仕舞いつつ、立ち上がり、

「ねえ、サブちゃんなんだろう? 久し振りだねえっ! 」

日向三郎に歩み寄った。

 繰り返された「サブちゃん」の語に反応したようで、他の8名の女性の中で7名までが、

「サブちゃん? 」

「サブちゃんだって」

わらわらと日向三郎の周りに集まって来、取り囲む。

 残り1名・20歳前後で飾り気の無い外見を持つ小柄だが活発そうな女性は、低いテーブル近くに陣取って座り、精霊馬などと一緒に飾られている、あんこのついた団子を食べるのに夢中のようだ。

「今、サブロー君を囲んでる人たちが、サブロー君のお姉さんたちだよ」

 日向正太郎が、小陽向けに説明した。

(へえ……! )

 小陽は驚く。

(お姉さんが8人! 店長のお父さんがサブローさんのお兄さんだって言ってたから、お兄さんだっているわけで……)

「サブローさんって、何人兄弟なんですかっ!? 」

「あの8人のお姉さんたち以外に兄貴が2人いるから、サブロー君本人を合わせて11人だよ」

(11人っ! すごいっ! 男女混合だけどサッカーチームが作れちゃう!! )

「長寿の血筋なのかさ、お姉さんたち皆が皆、高齢になってからの心界行きだったから、わりと若めの外見年齢してんだ」

(高齢になってからだから、若い外見……? そういうものなの? ……って、そっか、そう言えば、わたしが肉体の死を迎えて心界へ行くのに迎えに来てくれた時、サブローさんが、自分のお姉さんたちのことじゃなく一般論として、そんなこと言ってたっけ。

 肉体の問題は肉体の問題でしかないから、肉体から解放された瞬間、肉体に関する不自由は無くなる。高齢で肉体を失った人の場合は、まだ元気に動けていた若い頃のものに、動きだけでなく外見も戻ったりする、って……)

 最初に日向三郎に気づいた女性が、

「心界も広いから、全然会わないしねえ……」

日向三郎の正面で、懐かしそうに目を細める。

 日向三郎は、自分の正面のその女性の顔を見つめ、

「…末子まつこ、姉さん……? 」

「『? 』って、なんだい。見てのとおりだろう? あれだけ面倒みてやった、わたしの顔、忘れたのかい? 」

末子、という名らしい女性は、ちょっとムッとした様子。しかし、作っている。嬉しそうに、口元が笑っている。

 返して、日向三郎、

「だって末子姉さん、随分と擦れ……じゃなかった、雰囲気が変わったから」

わざとらしく言い間違えて、甘えを含んで上目遣いにイタズラっぽく笑った。

「言ってくれるじゃないか」

末子の口調は相変わらず怒っている風。それでも、どうしても口元は笑っていて、弟との再会が嬉しくて堪らないのだと、実に素直に語っている。

 それを隠そうとしたのか、末子は再び煙草をくわえた。

「まあ、97年も物界で生きてりゃ、色々あるさ。平和な心界と違って物界ってやつは、まったく。…ねえ……? 」

 そこへ、

「正太郎」

 小陽から見て右手方向から、日向正太郎に向けて声がかかった。

 見れば、玄関のほうでない、その向こう側から賑やかな複数の人の声が聞こえることから他の部屋とつながっていると思われる障子の前に、これまで部屋の中で見かけなかった、和服をキリッとキチンと着た20代後半の外見年齢の凛とした女性が立ち、小陽と日向正太郎のほうを見ていた。

 女性は真っ直ぐに日向正太郎の前まで歩いて来、ニッコリ笑顔だが険を含んで、

「こちらのお嬢さんは、どなた? 」

 日向正太郎は、珍しく慌てた様子。

「あ、いや、そういうんじゃなくて、俺の店のバイトの子だよ。物界に帰る場所が無いから、連れて来たんだ」

(…なんか、ホントのことなのに言い訳みたい……。大体、『そういう』って? )

 慌てている日向正太郎が可笑しくて、小陽は、その姿を楽しみつつも、女性からチラチラと向けられる視線が何となく居心地悪く、

(…帰ろっかな……。歓迎されてないみたいだし……)

溜息をひとつ。

 その時、

「大丈夫だよー、良姉よしねえー」

 遠くから、明らかに小陽のいるほうへ向かって、不愛想な声がかかった。先程から1人で団子を食べていた、小柄な女性だ。

 その声に、日向正太郎を慌てさせた凛とした女性が、そちらを向く。この女性が「ヨシネエ」らしい。

 小柄な女性は陣取っていたテーブルの近くから全く動かず座ったまま、団子で口をモゴモゴさせたまま続ける。

「正ちゃん、全然もてないじゃん。せっかく自分のものになった久姉ひさねえに、ストーカー並みにゾッコンなのが証拠だよー」

 ヨシネエ、と呼ばれた女性は、そうよね、と頷き、険、とまではいかなくなったが微妙に姑根性的なものが感じられる笑顔を小陽に向け、

「失礼しました。私は正太郎の姉の良子よしこです。正太郎が、いつもお世話になってます」

 小陽は、その姑根性を敏感に感じ取り、なんだかなあ……と思いながら、

「こちらこそ。あ、あの、野原小陽といいます」

 良子は満足げに頷き、続いて、小柄な女性を上に向けた掌で指し、

「そして、あちらが妹の幸子ゆきこです」

 良子の手の動きに合わせて、小陽が、幸子、と紹介された小柄な女性を見ると、目が合った。

 幸子が、ニカッと明るく笑う。

(店長のお姉さんのヨシコさんに、妹のユキコさんか……。『ヒサネエ』? は誰だろ? この部屋の中にいる人? どの人だろ? 何か、店長にとって特別な人っぽい言い方だったけど……)

 この部屋の中にいる人だとすれば、日向三郎の姉たちのうちの誰か。答えを求めて、小陽は、日向三郎を取り囲む女性たちに目をやった。

(この人たちは、ユキコさんにとってお姉さんじゃなく叔母さんだけど、わたしも、お母さんの妹のこと、15歳しか違わないから、『ネエネ』って呼んでたし……)

「ちょっと! 」

 突然の大声に、ビクッとする小陽。

 思考を遮られ、反射的に声のほうを見れば、良子が幸子のもとへ早歩きで移動しているところだった。

 幸子の正面まで行った良子は、腰を屈めて、ズイッと幸子と目線の高さを近づけ、

「それは皆で食べるお団子でしょうっ? どうして1人で食べているのっ? 」

(…さっきから食べてたけど、気づかなかったのかな……? )

 良子は身を起こし、

「皆さん、お団子いただきましょう! 」

部屋の中を広く見回しながら全体に声をかける。

 良子の注意が完全に自分から逸れ、ホッとしたようにも見える日向正太郎、

「精霊馬を知らないくらいだから、あの団子のことも知らないだろ? 」

 小陽相手に団子の説明をする。

 団子の名前は「お迎え団子」といい、お盆の初日に物界親族が用意してくれる供物で、2日目にはおはぎ、3日目にはそうめん、最終日には「送り団子」と呼ばれる白い団子が用意されるのだという。

 へえ、色々決まりごとがあるんだ……。きっと、昔からずっと続いてることなんだよね。それって、スゴイな……などと、感心しつつ、きちんと日向正太郎の顔を見てフンフンと頷き、聞き入る小陽。

「ちなみに、それらの並べてある、あのテーブルは、『精霊棚しょうりょうだな』」

 と、日向正太郎が仏壇前の低いテーブルを指さしたため移動した視線の先で、目にした光景に、

(!!! )

小陽は衝撃を受けた。

 それは、再び身を屈めた良子の手元。

 精霊棚の上の団子の載った皿の端を掴んでいるように見える形で片手を添えた良子が皿を持ち上げるような動作をすると、物界の物である皿や団子そのものは当然、動かないが、良子の手に実際に端を掴まれて、若干透きとおっているようにも見えるが全く同じ形・同じ大きさをした皿と団子が、精霊棚の上に飾られたままの状態の、もともとの皿と団子の上に現れたのだ。

(…分裂…した……? )

 そう、まさに、数年前に院内学級で見たDVDの中の、細胞分裂のイメージ。

 良子は、その動作を繰り返して、新たに団子を出現させては、良子の呼び掛けで精霊棚の近くへ集まってきていた日向三郎の姉たちに手渡していく。

(…どういう仕組みっ……? )

 小陽の見守る中、団子は姉たちに行き渡り、もう3回、同じ動きを繰り返して現れた3つを器用に全て持った良子は、玄関側の障子付近に立ったままの日向三郎のもとへ歩き、うち1つを、

「はい、三郎さん」

手渡す。

「ありがとう」

 日向三郎からの礼に対し、良子は、余計なものを全く含まない非常に感じの良い笑みで返し、座って食べるよう勧めてから、いかにもついでなふうに、小陽と日向正太郎にも渡し、座るよう言った。




(うん、見た目はちょっと透きとおっちゃってるけど、普通のお団子だ)

 良子から勧められるまま……と言うより、雰囲気的には、言いつけを守って(? )その場に座り、日向正太郎・三郎と一緒に、普通に美味しく団子を食べる小陽。

 と、3人の中どころか部屋の中にいる人の中で真っ先に食べ終わった日向正太郎が、おもむろに立ち上がり、

「サブロー君。ちょっとの間、小陽のこと頼める? 」

「ああ、うん。『ヒサちゃん』のとこへ行くの? 」

 日向三郎の問いに、日向正太郎は、はにかんだ様子で頷いてから、他の部屋とつながっていると思われるほうの障子を通り抜けて行った。

 小陽は目で追う。

 障子の向こうは、ここ数分の間に、先程よりかなり人数が増えたようで、更に賑やかになっている。

(『ヒサちゃん』……。ヒサ……。さっきも聞いた名前……。ホント、誰なんだろ? )

 小陽の視線の方向に気づいたらしく、日向三郎、

「だいぶ賑やかになってきたね。物界の親族の人たちも、もう揃ったのかな? 」

(そっか、障子の向こうにいるのは、物界の人たちなんだ。…じゃあ、『ヒサ』さんも、物界の人……? )



                 *



(美味しかった……)

 普段、自分では団子を買わない小陽が、必要以上に味わっていたために……いや、それはあくまでも小陽自身の実感であり、実際には、『ヒサ』なる人物について思い耽っていた間に完全に手も口も止まってしまっていたために時間がかかった部分が大きいのだが、とにかく、ようやく食べ終えたところへ、突然、日向家の物界の親族たちのいる部屋との境の障子が、スパンッと、大きな音と共に開いた。

(! )

 小陽は、ビクッ。

 開いた障子から、湯気の立つ温かそうな料理を載せたトレーを両手で支えた、40代半ばくらいの体格の良い女性が入ってきた。

 女性の体越し、向こうの部屋の畳の上に腹ばいになってゲームをしている小学校高学年くらいの少女が、

「もう! うるさいっ! もうちょっと静かに開けてよっ! 」

ツッコみ、すぐ隣で同じく腹ばいでゲームをしていた、若干年下と思われる少女に、

「ねえ? 」

 相槌を求められた少女は、チラッと女性のほうを窺う素振りを見せてから、困ったように曖昧に笑った。

 女性は振り返り、

「あんたたちが、私だけにやらせないで、お手伝いしてくれれば、静かに開けれるけどね? 」

言って、器用に足を使って、ピシャリと、また大きな音をたてて障子を閉める。

 その閉まるか閉まらないかの瞬間に、女性のすぐ後ろについて、苦笑しながら、日向正太郎が戻ってきた。

 女性は精霊棚の前まで進み、手にしていたトレーを、一旦、畳の上に置きつつ膝をついて、棚の上を手早く整理し手前中央にスペースを作って、トレーを置き、合掌する。

 ビクッとしたのから、やっと立ち直った小陽が、

(…びっくりした……。心臓止まっちゃうかと思った……。…って、随分前に止まってるけど……)

溜息を吐いている隣へ、日向正太郎は、腰を下ろした。

「まったく、相変わらずだな。万寿美ますみちゃんは」

 そして、小陽と日向三郎向けに、料理を運んできた合掌している女性が自分の孫の妻であること、怒られていた少女2人のうち大きな子のほうが、今日華きょうかという名前の小学6年生で、万寿美の娘、小さな子のほうが、里桜りおという名前の小学4年生で、また別の孫の娘であることを説明する。

 日向三郎は感慨深げに、

「…僕は直接、自分の子孫を遺すことは出来なかったけど、僕が全然、帰省しないでいる間に、僕の知らない間に、僕と血の繋がりのある人が、何人も生まれていたんだね……。

 さっきから、隣の部屋が賑やかで、そこにいるのが、この家の物界の親族の人たちだって分かってたけど、考えてみれば、単純計算で、そのうち半数以上の人が、僕と血の繋がりのある人なんだ……」

(孫……)

 小陽は、心に隙間風が吹いたのを感じた。よく分からないけれど、何となく寂しくて、何となく虚しい。

(孫がいるってことは、子供がいるワケで……。子供がいるってことは……。…店長、結婚してるんだ……。知らなかった……)




 日向正太郎の孫の妻・万寿美の手で精霊棚にトレーごと供えられた料理のメニューは、白飯・ナスの味噌汁・アジの開き・カボチャの煮物・キュウリのぬか漬け。

 団子を食べてから、まだあまり時間が経っていないが、せっかくだから温かいうちに夕食として食べるべく、団子と同じ要領で良子がトレーごと分裂させ、部屋の中の心界在住者13名、全員に行き渡らせた。

 これは団子とは違い、キチンとした3度の食事のうちの1回なのだから、ちゃんと皆で食べようと、誰からともない意見により、13人で大きな円を描くように座り、揃って、

「いただきます」


「このナスもカボチャもキュウリも、この家の畑で育てたものなんだ」

 隣に座った日向正太郎の自慢げな調子に、小陽は、

「へえ、そうなんですね。何がどうって言われても困るけど、うん、何か、全然違います。美味しいです」

正直、良い意味の言葉ほど、実際に口に出すと薄っぺらく嘘っぽくなってしまう気がして褒めるのはあまり得意ではないのだが、頑張って口に出して褒める。しかし嘘やお世辞ではなく、本心。

「だろ? 」

日向正太郎は、満足げにウンウンと頷く。

 日向正太郎が頻りに話しかけるため、まだ思い耽る材料は変わらずあるものの、箸が止まってしまうことなく、小陽は、他の人たちと同じくらいのペースで順調に食べ進められていた。

 その時、それまで小陽の、日向正太郎とは反対隣で食事に夢中だった幸子が、ハッと顔を上げ、鼻をクンクンと鳴らす。

 直後、パッと顔を輝かせ、

「花火! 花火のニオイだ! 久姉たち、花火始めたみたいっ! 」

立ち上がり、外へ出て行こうとしたのか、玄関方向へ1歩、踏み出す。

 それを、

「待ちなさい」

小陽とは反対側の幸子の隣に座っていた良子が、ガッと手首を掴んで止めた。

「まだ皆、食べているでしょう? それに、あなただって、まだ途中じゃない。全部食べちゃいなさい」

「はーい……」

 渋々座る幸子。

 外見は若くても、いい大人なはずの幸子が、花火で、こんなにもはしゃぐのは、心界には物界のような花火が無いためだ。

 そもそも、火が無い。

 料理をしない小陽には関係の無い話だが、雛菊のような飲食店でも一般の家庭でも、調理はIHだし、先程、末子が吸っていた煙草も、吸ったタイミングで先端がキチンと赤く光るように作られているが、火は使っておらず、小陽の雛菊の同僚で物界時代から喫煙者であった人に言わせると、「煙草を模した電池式玩具」なのだそうで、非常に味気ないとボヤいていた。

 花火も、あるにはあるのだが、評判は良くない。小陽は、個人向けの手持ち花火に関してはテレビCMで、イベントなどに使用される打ち上げ花火も、やはりテレビの情報番組やドラマの中で見ただけなので何とも言えないが、心界製も物界製も間近で見たことのある煙草を思い浮かべてみると、その再現度の低さは容易に想像がつく。

(あ、でも、ついこの間やってた新製品の手持ち花火のCMで、『音と香りを忠実に、そして何と! これまで不可能とされていた煙まで再現!!! 』って言ってたっけ)

 幸子のように良子から怒られないよう、小陽は、しっかりモグモグと口を動かしながら、そんなことを考え、

(花火、か……)

箸で挟んだ最後のひと口の白飯の塊を口に入れ、茶碗の上に箸を揃えて置きつつ、外を気にする。

 一昨年の夏の実家への外泊の際に庭先でした花火が思い出された。

 自分が物界で生きている時で最後の花火。家族の笑顔。幸せな時間。

 …自分が死んで、全て壊れた……。

「小陽? 」

 日向正太郎から声がかかり、ハッとする小陽。

(ヤダ、ボーッとしてた……)

「俺らも行くぞ」

(へっ!? )

 言われて周りを見れば、いつの間にか、皆、食事を終え、ゾロゾロと外へ出て行っているところだった。




 日向正太郎の後に従って障子と玄関を抜け、庭を通って門を出ると、門の外では、老若男女合わせて15名の、全員親族と思われる物界の人々が手持ち花火をし、その回りを囲むようにして、日向三郎をはじめとする、先に外に出て行った日向正太郎の心界親族たちが立ち、花火を楽しむ物界の人々を眺めていた。

 日向正太郎は、日向三郎の隣へ。

 小陽も、そのまま日向正太郎に従い、彼の隣で花火を見る。

 夕食前に日向正太郎の孫の妻・万寿美に怒られていた2人の少女・今日華と里桜、それに今日華に似た顔立ちの15歳くらいの少女が横一列に並んで立ち、やっている花火が終わる度に、年上の少女を差し置いて、今日華が、「次はこれ」「今度は、こっち」と、自分のやりたい花火を手に取ると同時にあとの2人にも手渡して仕切っていたり、少し離れたところでは、高校生と思われる少年が、ひとり、しゃがんで小さくなり、花火の火で地面に絵を描いていたり、2歳くらいの男の子相手に、娘たちを怒っていた時とは別人のような万寿美が、火の点いていない花火を片手、「あーい、イチくん。おばちゃんといっちょに、花火ちまちょーね」などと甘ったるい声を出していたり、と、花火そのものをを見ているのも、もちろん楽しいのだが、それ以上に、花火をしている物界の人々を見ているのが楽しかった。

 物界の人々を見回す流れで、たまたま日向正太郎の顔を見上げた小陽。

(? )

 日向正太郎の視線が、どの花火にも向いていないことに気づき、その先を追う。

 そこには、車椅子に座り、ニコニコ穏やかに笑む、他の物界の人々に比べて目立って高齢の女性。

 その小陽の視線に、今度は日向正太郎が気づいたようで、

「ああ、あれ? 俺の奥さんの『久子ひさこ』」

(…『ヒサコ』……。ああ、さっきサブローさんの言ってた『ヒサちゃん』とか、ユキコさんの言ってた『ヒサネエ』って、きっと、あの人のことなんだ……。奥さんか……。やっぱ、特別な人だった……)

 初めて知ったことがあった時にいつもそうするように、久子のことも、新しい情報として処理しようとして、

(あれっ? )

小陽は自分の心に違和感を感じる。

(…何だろ……? 何か……)

 先程の隙間風が再び吹き、しかし、胸が詰まるように苦しくもあって……。上手に処理できない。

「美人だろ? 」

 日向正太郎の問いに、小陽は、処理が未完了のまま、平静を装って頷く。

 日向正太郎は、エッ? と驚き、

「いや、いいって、無理しなくて。あんなバアちゃんだし」

(別に、無理なんてしてないんだけど。顔のパーツひとつひとつが上品な良い形をしてるし、表情も、さっきからずっと笑ってて、本当に、印象の良い美人だと思うけど)

「でもさ、若い頃は、そりゃあ美人だったんだぜ? 」

(……いや、だから、今も美人だって……)

「俺、長男だから、出征前に大急ぎでの見合い結婚だったんだけど、ひと目で気にいっちゃってさ。で、いざ結婚生活が始まると、外見がいいだけじゃなくて、メシは美味いし、よく気がつくし、あまり長いこと一緒にいられなかったけど、すげー幸せだった」

(…そっか、随分前だけど、戦争で亡くなったんだって話を、サブローさんとしてるのを聞いたっけ……)

 小陽は、続く正体不明の苦しさを紛らすべく、分析に励む。

(だから、あんまり長く一緒にいられなかったんだ……)

「心界へ行ってからも、時間の許す限り会いに来たけど」

 日向正太郎の声のトーンが急に落ちる。

「年数の浅い頃は、切なくなるばかりだった。

 俺が心界へ行った後、息子が生まれてさ、ひとりで小さな子供を抱えて大変そうで……。会いに来たって、一方通行だからな。向こうからは俺が見えねえし。

『お疲れさん』って声かけて、茶でも淹れてやって、肩を揉んでやることすら出来ねえ。……まあ、大正生まれの俺が物界で生きていたからと言って、そんなことしてやるとは到底思えねえんだけど、出来ない立場だからこそ思うことだな。

 70年前のお盆に泊まりで来てた時も、夜、息子が高熱を出して、久子は心配で目が離せなくて……。『俺が見てるから大丈夫だから寝てろ』って言ってやりたかった。出来る立場なのにしないヤツらに腹を立てたりしたよ。物界で生きてる友達とかさ、同じように子供が病気で奥さんが看病に明け暮れてる時に、奥さんが自分のメシの用意をするのが遅れたことで怒ってたりして、『そうじゃねえだろ』 みたいな。俺は、したくても出来ねえから。

 ホント、俺は何もしてやれねえ。俺は無力だ、って、切なくなった」

(うん、よく分かる。その気持ち……。…って言うか、店長も、わたしと同じだったのが意外なんだけど……)

 小陽は物界の自分の家族のことを思う。

 自分が死んだせいで壊れてしまった家族。星空を悪い仲間から救ったのは、結局、物界の友人・桐谷だった。

「大きくなったなら大きくなったでさ、ほら、あれ」

 言って、日向正太郎は、その場の中心となって物界の親族の人々を仕切っている、70歳代と思われる男性を指さす。

「あれが俺の息子の静夫しずお。今でこそ、皆から慕われる立派なジイちゃんしてるけど、少年時代は、とんでもねえ悪童だったんだ。

 久子は、しょっちゅう学校へ呼び出されたり、警察へ迎えに行ったり、迷惑をかけた相手の家へ謝りに行ったりしてた。

『お父さんは兵隊さんに行って、お国のために立派に命を捧げたのに、その息子が、どうしてこんななんだ』なんて、敗戦から10年経っても、田舎だからさ、まだそんな言い方するオッサンとか、いや、ハッキリ言っちまうと俺の親父なんだけど、息子が悪さばっかすんのは息子自身のせいであって、全然、久子のせいじゃねえのに、いつも責められてた。

 久子が一生懸命頑張ってるのを俺は知ってるから、責められてるとこへ出て行って味方してやりたかったけど、もちろん出来なくて……。すげえ後悔した。結婚しなきゃよかった、って。俺と結婚しなかったら、子供を作らなかったら、久子はこんな苦労しなくて済んだのに、って。

 久子が息子を置いて家出して、既に両親が心界へ行ってる、どこかの優しい男と一緒になってでもくれねえか、って、心の底から願ったりしたよ」

(店長……。ホントに好きなんだな、ヒサコさんのこと……)

 未だ続く正体不明の苦しさは、紛らそうとしても出来ずに苦しくて苦しくて、小陽は意識が遠のいてきた。周囲の景色がかすむ。

「でも久子は、そんなことはせずに息子を育てあげて、俺の両親を看取って……。ホント、苦労かけた。全く頭があがらねえよ。

 ……俺が指導階級になったのは、実は、これが理由なんだ。指導階級になって出来るだけ長く心界へ残って久子が心界へ来る日を待って、物界で出来なかった分まで幸せにしてやりたくてさ。

 そろそろなんじゃないかと思って、半年前に、2人で暮らすための新しい家も買ったし」

「ホントに正太郎って、ヒサちゃんのことが大好きなんだね」

 日向正太郎の隣で、それまで全く会話に参加していなかった日向三郎が、聞いていないようで聞いていたのだろう、口を開く。

「ずっと何十年も、ひとりの女性を想い続けるって、スゴイと思うよ」

 小陽は、もう限界だった。

「そう言えば、聞いたことなかったけど、サブロー君が指導階級になった理由は? 」

「正太郎みたいなカッコイイ理由じゃないよ」

 すぐ隣にいる日向正太郎・三郎の会話が、小陽の耳には遠く聞こえる。先程からかすんだままの視界が、一瞬、大きく揺れた。

 その時、

「コハ! 」

 女性の明るい声が響き、小陽はハッとする。

 ハッキリ戻った視界の、数メートル先の真正面、3人並んで花火を楽しんでいる、向かって左から今日華と里桜、それに今日華に似た顔立ちの少女の陰、ちょっと無理な態勢で、今日華の後ろから、幸子が、明らかに小陽に視線を向け、左手で手招いていた。

 右手は、今日華の花火を持つ右手に重ね合わせるように入り込ませて、一緒に持っている感じになっている。

「コハも一緒にやろーっ? 」

 小陽は思い出す。今、幸子のしていることは、昨年のお盆休み前にテレビで紹介していた、「物界の親族の遊びに同行した際に、より楽しむ裏技」の1つだと。

(…っていうか、『コハ』って、わたし……? ユキコさん、わたしのほう見てるけど……)

 かなりの確率で自分だろうと思いながらも、もしも違うと嫌だな、と考えたのと、自分だったとして、一緒にやっていいものかどうか判断に迷ったため、小陽は、日向正太郎に視線を送って、無言で意見を仰ぐ。

 しかし、日向三郎と会話中の日向正太郎は気づかない。

 そこで、遠慮がちに袖をクイクイッと引っ張ると、気づいた日向正太郎、一旦、小陽を見、それから軽く周囲を見回して、幸子の手招きを認め、頷いた。

 それを受け、小陽は、本当はそんな必要無いのだが、物界の人々にぶつからないよう避けつつ、幸子のもとへ。

「ほら、コハもやってみー? 」

 幸子に言われるまま、小陽は恐る恐る、幸子が手を重ねている今日華の隣、里桜の、花火を持つ右手に、自分の右手を入り込ませる。

(……! )

 驚いた。本当に自分の手で花火を持っているような感覚がある。

(…花火……。2年振り……)

 手元でパチパチと微かな音をたて弾けて映える光の粒、立ちのぼり夜の闇をボンヤリと白く柔らかくする煙の、その香り……。

 感動している小陽の顔を、幸子が覗き込み、ヒソヒソ声で、

「いいタイミングだったでしょ? あんな長々と正ちゃんのノロケ話を聞かされて、厭きちゃうよねー? 」

(厭きる……? わたし、ユキコさんの目から、そんなふうに見えてたんだ……。…店長の話を聞いてて苦しかったのは、厭きてたから……? でも、話はそれなりに興味を持って聞けてた気がするし……。…だけど……)

 小陽は、幸子の言っていることが的外れであると感じながらも、気遣いが素直に嬉しかった。

 気持ちが、フワッと自然に解けたのを感じた。

「楽しいねっ! 」

 幸子が、ニカッと笑う。

 小陽も、

「はいっ」

 自然とつられた。


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