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一から始める友達作り  作者: アフロ先輩
4/5

彩が洋一に詰め寄る。

さっきまでは十メートル程離れていた二人の距離は三十センチも無いだろうか。

彩の怒号に驚き固まってしまい弁当を仕舞う事を忘れて弁当を持ったままの右手を彩が掴む。

掴みそのまま乱暴な手つきで右手を鞄に突っ込む。


「これでいいだろ? 行くぞ」


低い声にゆっくりとした口調で洋一を脅し威圧した。


「ああ…。わかった行くよ」


二人は教室を後にする。

階段を上がり屋上へと着く。

屋上には鍵が掛かっていたが彩は慣れた手つきで鍵を開ける。

彩が指差す。そこには一つのパイプ椅子があった。


「座れってこと?」


洋一は彩にパイプ椅子を指差した意図を確かめようとした。


「まさか・・・。座るのは私」


そう言い捨てパイプ椅子へと歩き出す。そして座る。偉そうに足を組みながら。

その光景に洋一は少し不満だった。教室での件もこの屋上での彼女の態度にさすがにヒドイ。

言いたいことの一つや二つはあった。しかしそれを言わせない独特な雰囲気が彩にはあった。

彩が口を開く。


「あんたが転校してきてからなんで誰も話しかけてこないと思う?」


足を組み、ブレザーのポケットに手を入れ、ダルそうに背もたれにもたれ掛かり聞く。


「分からない。でもわざわざ聞いてきたって事は霜山が関係してんの?」


「そうだよ」


彩の回答を聞いた洋一は理由を知りたかった。


「なんで?霜山が命令すればクラス中がそれに従うって事?俺の事を無視しろって言えばその通りになるって訳?」


「それは違うよ。全てが私の思惑通りになるとは限らない」


「どういう事?」


「少なくとも今回洋一君が誰からも話しかけられないのは、私が原因であることは間違いないって事」


答えが出たようで出てないもどかしい状況。洋一は聞き手に徹する。


「みんな勝手にビビってるんだよ。私はなにもする気は無いんだけど。気付いてた?クラスの人たち洋一君の事見てたけどそれと同時に私の事もチラチラ見てたの」


咳払いを二、三回挟み続ける。


「私さ一年前にここに転校してきたんだけどなぜか前科持ちって嘘の噂を流されたの。それでみんなビビッて私を避けるんだ」


まさかのカミングアウトに驚く洋一だったが、あくまで平静を装い聞く。


「クラスが霜山にビビってるのは分かったけどそれでも別に俺が話しかけられないのとは関係ないだろ?」


「みんな様子見てるんだと思うよ。私がどう動くか。様子を窺ってるんだよ。前科持ちの行動を。いつもそうだもん。クラスでの決め事ってあるでしょ?委員会とか。何も言ってないのにまず私に聞くんだよ。何がいいですか?って」


「前科持ちって事は否定しなかったのか?」


「ダメダメ、みんな聞く耳持たないよ。誰が流した噂か分かんないけど迷惑だよホント・・・。まぁでも自分の希望が通るっていいよね。ラクだし。私、裏でなんて呼ばれてるか知ってる?番長だよ。」


彩は自嘲気味に笑ってみせた。


「なんで番長?」


思いも寄らない事実を打ち明けられ困惑している洋一は短い質問を返すので精一杯だった。


「さぁ?前科持ちとか言ってたらイジメになるからじゃない? もしくは、私に苛められるのが怖いのか、分からないけどぼかしてるよね」


「さっき職員室で清水先生がうちのクラスに番長がいるって言ってたけど、霜山の事だったんだ」


気になっていた先程の職員室でのやり取りが、ようやく繋がる。


「あの先生そんな事まで言ってたんだ。結構警戒されてるね」


「うん。かなりね。実害無いって言ってたけど」


「そりゃね。だって私なんもしてないもん」


今まで溜まったものを洋一に打ち明けられた事によって少しは心が軽くなったのだろう。

ここで初めて彩が笑った。白い歯を見せて。昔を思い出すような。屈託のない。


「あっ、あとさっき怒鳴ったでしょ?あれワザとだから。クラスの人からは怖い人でいた方がラクって事に気付いたの」


「マジで!?結構迫力凄かったぞ」


「まぁね。たま~にやるんだ。勇気出してね、嫌われる勇気ってやつ?」


両手にピースサインを作りおどけて話すが洋一には無理しているように見えた。


「無理してる?」


無理しているのはこの短い会話だけでも感じ取ることができた。洋一は核心を突いたのだ。


「かなり。正直しんどい」


そう言うとピースサインを壊す。


「でもいいんだ。もう決めた事だし。一年後には卒業だから。それまでは番長やらさせてもらうよ。ラクさせてもらうよ。友達はもう出来ないだろうね」


「クラスに友達いないの?」


聞きにくい事だった。でも聞かずにはいられなかった。根拠のない噂を流されクラスから腫れ物扱いされているだろう彼女の現状を。


「いないよ。いると思った?」


「作らないの?」


「今更ね。だれも私に関わろうとしないよ」


「霜山の方から喋りかけたりしれみればいいじゃないか」


「無理」


キッパリ言い切る。ラクに残りの学校生活を送る決意の表れだろうか。

それでもこの現状を彩は良く思っていない、洋一も事実には気付いている。


「無理しても喋りかけてみればいいじゃないか。今も無理してる訳だし」


この状況をなんとかしてあげたい気持ちは洋一にはあった。しかし彩にその気が無ければ無意味だ。


「同じ無理なら今のままでいいよ」


重症である。確かに彩は一年程番長を決め込んでいる、今更どうにもならないのかもしれない。

お互い話す事がなくなった。沈黙が続く。

先に沈黙に負けたのは洋一だった。


「なんで俺をわざわざ呼び出してそっちの方から全部話してくれたの?」


沈黙にこれ以上の話の広がりを期待できなくなった。締めに入ろうとした。


「洋一君には私の口から言いたかった。変な誤解をされて勘違いされるのが嫌だったから」


彩が椅子から立ち上がった。もう教室へ戻るのだろう。


「そっか」


洋一は聞こえるか聞こえないぐらいの声量で短い言葉を久々の再会を果たした同級生との会話の最後とした。

もう昼休みも終わりが近い。五時限目の授業へと二人向かうのだった。


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