カウントダウン
洋一がこの学校に来て初めて話し掛けてきてくれたのは女の子だった。
細身で黒い髪、目線は一切こちらから離さない。まっすぐ洋一を見つめている。
「私のこと覚えてる?」と今言っていた。どうやらこの女生徒は洋一のことを知っている様だった。
「私だよ、霜山彩、覚えてない?」
彼女は少し笑みを浮かべなから言う。
「あっ・・・」
洋一は声にならない声を出す。久しぶりの再会に声が上手く出せなかった。
霜山彩、洋一の小学校時代の同級生、クラスメート。
「久しぶりだね、ごめん気付かなくて。」
言われてみれば面影はあった。目や口の辺りとか。
それでも最後に会ったのは七年前だ。正直、言わなければ卒業まで洋一は気付かなかったかもしれない。
「少し話あるから時間いい?」
彩は先程浮かべた笑みを崩さず話していた。
「先に弁当食べてからでいいかな?」
洋一は転校初日という緊張もあったのでお腹が空いていた、先に昼ごはんを済ましておきたかった。
「うん、いいよ。じゃあ十秒で済まして、ここで待ってるから。」
「・・・!?」
洋一は驚いた。
彩は前の席の椅子の背もたれにもたれ掛かり腕組みをしながら洋一を見つめている。
「十秒あれば食べれるでしょ?男の子のなんだし。」
彩がさっきまで浮かべていた笑みをより一層深くする。まるでイダズラっ子が笑うように。
「十・・・九・・・」
問答無用で彩のカウントが始まる。
洋一は急いで簡単に食べれそうなものを選び口に運ぶ。
「三・・・二・・・」
洋一必死に食べる。
「一・・・ゼロ・・・」
彩のカウントが終わる。
洋一はそれに従い箸を置く。どっと疲れた表情で。
「じゃ行こうよ」
彩がもたれ掛かっていた椅子から立ち廊下へと歩きながら振り返り洋一を見る。
しかしまだ洋一は弁当を鞄に仕舞っていた。
「早くしろ!! これ以上待たせるんじゃねぇ!!!!」
彩の怒号が教室中に響く。教室の時が止まる。
洋一も止まった時の中にいた。