表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ



私は求めていたのかもしれない。"変事"を─────。




3時間目の数学はお腹が空く、そんなことを考えながら秋晴れの空をぼんやり眺めた。窓際の席はなんとも言えない居心地の良さがある。ぽかぽかと暖かい。


数学なんか嫌いだ。授業なんて嫌いだ。高校だって行けるところに行って適当にやっていればいい。彼女は軽く目を伏せる。

そのまま、こつんと頭を机に置いた。


苦しい。どうしてこんなに窮屈なんだろう。



彼女は中学3年生、若干15才。少々冷めた性格をしている。

熱中できるものも、特技もない。そもそもそんなものはいらないのだ。友達だって適当にそばにいて、当たり障りない話しかしない。


だが、至って平凡。

思春期に入り、親との隔たりを感じて部屋に居る時間が増えた。友達も、少し悪ぶる奴くらいの方が好ましくなった。


ただの15才。きっと平凡に生きて、平凡に死んでゆくのだ。

そう彼女は知っていた。

世界はくだらなくて、自分はそのくだらない物の一部だと言うことを。



「五十嵐さん、どうかした?」


声のするまま、のったりと顔をあげると数学教師が心配しにきたようだ。若い女で、なかなか話のわかる人。

「具合わるい?保健室いく?」

特に具合が悪いはずもないが、ただ、はい、とつぶやき四角い箱から抜け出した。そのまま屋上へ。二階にある教室から三階の階段を通り過ぎた向こうにドアがある。窓から差す光が穏やかで気分がいい。


そっとドアをあけ、真ん中で寝転ぶ。窓越しにみた空は、直に見るとなお綺麗だった。

すぅっと息を吸い込み目を瞑る。


その時だった。


体が左右に揺れた。


とっさに起き上がる。

地震だ。

しかも大きい、建物は崩れはしないだろうが、教室の軽い机などでは30秒程あれば端から端まで動くのではないか、とさえ思った。


とりあえず教室にいかないと、そう思い、揺れ動く地面を歩いた。階段の手すりにつかまり、なんとか転ばないように踏ん張った。


三階の踊場まで出たとき。


ふっ、と世界が落ちた。


感覚でいうと、停電のような感じだろうか。生き物すべてが、存在する全ての動きが止まり、色素が落ちたように見えた。灰色のヴェールを被ったような、無機質なものに変わった。

だが、彼女の体だけは色を保っていた、彼女だけが"生きて"いるようだった。


───なんだこれは。


有り得ないことが起きている。人も、まるで銅像のようだ。


呆然としていた彼女の後ろから声がした。


「──お前か。」


反射的に振り向いた先にいたのは奇妙な男だった。

長身で、年は二十歳になるなならないかくらいだろうか。

髪は銀色のかかった青で、目は薄い青。服装はアラジンが着ていたようなズボンのもっとシャープなものを履き、上はランニングシャツのようなものを着ていた。

なんとも場違いな男だった。こんな人間はこの世に存在するのかさえ疑問だった。


「あなたは…だれ、ですか。」自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。安心したのだ。どんなに奇妙だろうと、孤独には適わない、それになんだか懐かしい匂いが彼からしたのだ。

「俺はユウ。お前の、世話役みたいなもんだ。」

「世話役って…なんのことですか。あなたは…日本人、じゃあないよね。今何がおきているか知ってるんですか?」

質問責めだな。とユウと名乗る男は笑う。なんとも美しい笑顔だ。容姿がいいとなんでも様になるのだと思った。

「まぁ待て。後でゆっくりその質問には答える。とりあえず来てもらわなきゃならない。お前、名前は?」









「…五十嵐、圭、です。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ