第九十三話 魔族が来たようだ
「わあ……。さっきと全然違う」
アルラウネたちはくるくると辺りを見回しながら声を上げた。
確かに、雰囲気は全然違う。物語の中から出てきたみたいなホビットと違って、黙々とものづくりをする職人、って感じの人が多いからかもしれない。
しかも、その製品はエルフを凌ぐとも言われている。まあ、タイプが違うけど。
結局、コートとフードは着なかった。そのまま歩いている。
まあ、元々人と話さないんだろう。ちらっと見られるけど、はい、終わり。ほかの場所では考えられない。まあ、歩きやすくていいけれど。
「ここ、なんか変ー。空気が、魔族のー」
「うん、魔族の空気ー」
「えっ?! どういうこと?」
「なんかね、ドワーフと違う空気が、あるの」
「多分、魔族がいるの」
魔族、ここにもいるのか……。どうしよう。このままじゃ襲われるか……。
っていうか、アルラウネってそんなことまで判断できるの? まあ、ドラゴンの栄養を吸わせてやったんだし、それぐらいはできる……のか? 魔族の養分吸ったから、かも。
「どうする? 私は小人の国は飛ばしてもいいと思うのだが」
「そうねぇ。いいんじゃないかしらぁ?」
「襲われたら、困るよね」
ということで、ドワーフのくには、一直線で港町に向かうことにした。
でも、まだ随分距離はある。これでは、しばらくは魔族に警戒しながら、になるだろう。
「おい、あれ、エルフか?」
「そうだな。一攫千金だ! いけ!」
おい、聞こえてるんだけど。盗賊ってホント頭悪いよね……。
いや、案外そうでもないのか……。一応、掛かったふりをしておこう。
「みんな、ここで戦うと街破壊することになるから、外まで逃げるよ」
「え? あ、うん!」
私たちは足を早めて街の外、一応、来た方向とは逆のところまで移動した。
で。あの様子だと、本当なら不意打ちがしたいのだろう。まあ、どっちにしろ効果はないと思うけど。
私は魔族の盗賊に気がつかれないようにそっとバリア魔法を張った。
「ありがとう。じゃ、できるだけ気づかないふりするんだよね」
エベリナが言うので、みんなも話しながら移動していく。
きぃん、と大きな音がして、バリア魔法で防がれた盗賊が大きく飛ばされていく。
「うわ、馬鹿だ! 盗賊って、あのレベル?」
「エベリナ、しっ! なにかくる。囮かもしれないよ?」
私が言うと、エベリナは頷いてすっとローブの中から小さな杖を取り出した。
私以外のみんなが大量の魔族に囲まれていたと知るのは、今なわけで。
とは言っても、慌てる必要はない。冷静に、もうちょっと近づいてくるのを待とう。
「みんな、いい? 射程距離に入ったら、殺さないで捕まえて」
「わかったよー。じゃあ、待つね」
とりあえずはアルラウネたちに任せよう。ただ、取り逃がすのもあると思うし、準備はいる。
魔族が襲いかかってきたところで、アルラウネたちは目を大きく見開く。
「ご主人様に手を出したの、後悔してね!」
濃い緑色の目が、魔族の兵士を捉える。すると……。
「うわあああ?!」
「なんだ?!」
兵士の周りには蛇のような蔓が絡み付いていった。
その数はどんどん増え、身動きができないようにがっちりと押さえつけた。
戦闘準備をしていたみんなはポカンとしてその様子を見ている。
「え……? どんな戦闘能力なの? 強くない?」
「私たちの出る幕じゃなさそうねぇ」
「私の使い魔よりずっと優秀だな」
兵士は地面に転がされ、そのまま動かなくなった。
近づいてみると、毒の類で眠らされているみたいだ。
アルラウネたちは目をゆっくり閉じて、もう一度開いた。
いつもの、可愛いアルラウネたちに戻っている。
「ご主人様、言いつけは守ったよ」
「すごいね。よくやったよ」
えへへ、と嬉しそうに笑って、ちょこっと魔法をかけて、魔族の人たちを一箇所に集めた。
「じゃあ、連れてかないとね。ギルドでいいんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「なんと、こんなにたくさんの魔族が……」
ギルドの人、それから町長が来て、魔族の兵を見ては驚いていた。
「勇者様、すみませんでした」
「いえいえ。私たちのせいでここにたくさんの魔族が来てしまったようで……」
「すみませんでした」
そう、私たちを捉えに来たってことは、当然、私たちのせいで、ってこと。迷惑をかけてしまったということだ。
「で、これ以上いると、もっと迷惑かかりそうだし、もう帰ろうかな、って思ってるんだけどぉ……」
「そう、ですか。では、港町まで案内しましょう」
思っていたより、優しい町長だった。ドワーフっていうより、ホビットだ。
「じゃあ、仕方ないよね。エルフの森に帰ろう」
「ほかの人に迷惑がかかるものねぇ」
「私も、ここまで来られると、国が心配だもん」
仕方ない。でも、また、機会があったら……。行ってみたいな、ほかの国。




