第八十六話 小人の国到着
船酔いに悩まされながらも、なんとか大陸についた。
「ああ! やっと着いた」
エベリナが大きく息を吸いながら言った。にしても、エベリナは割と強かったな。
「もう、本当に乗りたくないわぁ……」
リリアーナが一番酷かったかもしれないし、当然だろう。
「にしても、ソフィ、大丈夫か?」
「ダメだよ。どんだけ戦ったと思ってるんだ」
結局エンドレスで戦い続けた。多分、魔王からの差し金だろう。船の人たち、迷惑だったろうなぁ……。ごめんなさい。
「で、ここは漁港の街なんですね」
「みたいねぇ。なんか、お土産屋さんが目立つわぁ」
「確かにな……。なんだ?」
マリアが指した方を見ると、何人かの兵士がこちらに向かってきたところだった。
「君たちは誰?」
「え、えと……。本名でいいの?」
「いいんじゃないか? 私はマリアだ」
そういうことか。私もソフィアとだけ名乗る。それを聞き、リリアーナとエベリナも名乗る。
「ん、エルフの国の勇者さんだね?」
「知っていましたか」
ジェイドがホッとしたような声を出す。うん、なんとなく、最初の雰囲気的には『牢屋に連れてくぞ!』って感じだった。
でも、今のこの人の声の感じはそんな感じじゃない。割と優しい。
にしても、この、兵士のリーダー……? なんか見たことある気がするんだよね……。
でも、ホビットなんて見たことあったっけ?
「あ、ああ、あああ! ニコだ……。」
「え? ニコ知ってるの?」
そうだ、マリンがいなくなった時、拾ってくれた……。あのホビットそっくりだ。
「ニコは僕の弟さ。そっか、エルフの国までいったんだ?」
ってことは、旅? でも、ホビットって、定住して、旅しないんじゃ……?
「あいつ、変わりもんだからね。旅するのが好きなんだ」
そんなことを言いつつ、くいくいと手招きした。
「おいで。国中移動できるようにしてあげるから」
「国王様。よくお帰りで」
「ふん、僕が帰ってこなかった試しがあるか」
「そうですが、ニコ様は消えてしまうので」
こく……?! えぇ?! どういうこと?!
「僕は国王なんだ。でも、そんなことはどうでもいい。それよりも、君たちが気をつけたほうがいいと思うよ」
「な、何にですかぁ?」
「魔族さ。最近、やけに大人数来るんだよ」
魔族。魔王の手下か。見つかっても返り討ちにするつもりだけど。
「ともかく、自由に行動できるようにするし、できる限り援助する。何かあったら連絡をくれればいいよ」
「どうやって?」
「遠距離念話のナンバーを教えておこう」
遠距離念話。
基本、念話は近くの人としかできない。
ただ、携帯の番号的なものを教えておくことで、遠くにいても念話が可能になる。それが、遠距離念話。
「でも、まあ、何もないだろうね。君たちの方が、うちの国の兵士より強いだろう。助けてもらうことになりそうだ」
「どうでしょう……。それより、ニコさんには、私のいも……、いえ、友達を助けていただきました」
「え、あいつそんなことするっけ? 他人に興味なかったはずだけどなぁ」
「ともかく、ありがとうございました」
国王様はちょっと困ったような顔をしたけれど、頷いてくれた。
「じゃ、気をつけて。僕も、見守るつもりだけどね」
まず、街の散策だ。背の低い人が多い中、ジェイドはやたらと目立つ。
「あ、あの、ソフィア様、帰っても……」
「ダメだよ。ちゃんとついてきてよ」
「えぇー……」
そんな会話をしつつ、マリアが目をつけた店に入る。
綺麗に整った武器屋だ。リリアーナが明らかに目を輝かせる。
「すごい立派な弓……。エルフのものも性能はいいけれど、ホビットのものはまた別ねぇ」
店員もちょっと嬉しそうな顔をした。それほどリリアーナの機嫌はいい。
「どれか、買ってやろうか?」
「え?! いいの?」
「ああ。それも、ずっと使ってるだろ?」
リリアーナは持っている弓に視線を落とした。確かに、同じものをずいぶん前から見てる気が……。
「思い出の詰まった、大切な弓だからぁ……。私の宝物なのよぉ。でも、そろそろ休ませてあげたほうがいいかも……」
「そうだな。部屋に飾るとでもしておけ。きっと喜ぶだろ」
「えっ?! マリって、そういうこと言ったっけ?」
マリアは真っ赤な顔で困ったような素振りを見せて、後ろを向いてしまった。
で、リリアーナは笑いをこらえながらゆっくり言う。
「い、いや、いいんだよぉ。ただ、珍しいなって。やっぱ、同じこと考えてたんだ」
「……え? リリ……?」
「使わなくても、自分のそばに置いときたいなって。大切なんだもん」
リリアーナは弓をそっと撫でた。愛しいものを見るような目で。
「なんか、いい考え方ですね」
「は? ジェイドだって、その剣、随分大切にしてるじゃない」
「ソフィア様の作った剣ですよ? そりゃ、大切ですよ」
……? なんかおかしくないか? んん……?
「じゃあ、これがいいな!」
「おお、割といいやつだな。の割には、値段は高くないのか」
「ありがとね。にしても、随分上手そうな射手さんだね」
リリアーナが嬉しそうに笑って弓を受け取った。随分可愛い顔してるな。
「大切にするね! ありがとう!」
「特別に矢のプレゼントだ。頑張れよ」
なんか、楽しそうだなぁ。リリアーナは武器が重要だもん。杖よりも、ね……。
いつもと違ったリリアーナと、ホビットの朗らかで優しい性格がよくわかった日だった。




