第八十四話 この世界とトレア
「で? 何が始まるの?」
エベリナが困ったような顔で聞いてくるが、私だってよくわからない。
そんなことを考えていると、マリアがカウントダウンを始めた。
「3……2……1……」
「お待たせー!」
すぅっとどこからともなく女性が現れた。二つの真っ白い翼。長い金髪、真っ白なローブ、頭にはサークレットが。
あぁ、初めて姿が見れた。すごく綺麗……。
「私がトレア、アストレイアーよ」
「やっぱり、そうだったんだ」
アストレイアー。トレアってこと、ね……。
「今日はね、みんなに話したいことがあったの」
ふわりと笑うそのやり方は、女神という言葉がふさわしい。可愛いけれど、どこか神々しさが感じられる。
「私……。ソフィアちゃんとマリアちゃんの元いた星が好きだった。でもね、みんな、自分のために虐殺を始めたから、どうしても、そこにいられなかったの」
それは、有名な神話だ。それくらいなら、知っている。
「で、実は、天界には、大きな、たくさんのモニターがあってね、パラレルワールドとか、違う時代の地球が一度に見られるようになってるのよ」
それは……。監視カメラのモニターのようなイメージでいいんだろうか。便利でいいな。
「そしたら、ちょうど、勇者様が魔王様を倒すところを見つけたの。でも、勇者様は、魔王を殺さなかったし、その星は、ちょっと戦争はあったけど、割と平和だった」
平和……か? だって、こんなに魔物はいるし、うちの国は結構攻められた。
「だから、ソニアちゃんについていこうって思った。彼女も、歓迎してくれたし」
ソニア……。私の先祖、勇者様……。
「そうやって、たくさんのモニターを見ることで、みんなの危険を回避させてたの。私には、仲間の神だってたくさんいたから、なんとかなった」
不幸を分けるとか、そういうこと……?
「えぇっと、未来を変える方法。人の幸福と不幸の量は生まれた時から決まっているの。だから、別のところで不幸が起これば、少しは軽くできる。それは、何が起こるかじゃなくて、量だからよ。わかる?」
つまり……。人の幸福と不幸の量は決まっているから、別のところで不幸を起こしてやれば、起こる不幸を回避できることができる……?
「大体、大まかにだけど、どこでどの大きさの不幸が起きるかはわかる。だから、そのあたりなら、修正が効くの」
つまり、例えば猶予が一ヶ月なら、一ヶ月の間に別の不幸をその文起こせば回避できるってことか。
「あ、そうそう。幸福も同じなの。だから、私、魔法を妨害したり、転ばせたりみたいな、ちょっと心の痛むようなこともしてきた。じゃないと、もっと大きなことになっちゃうから」
ああ、その程度なら、ほかの神に頼む必要はないのか。なるほどね……。
「シナモンの時は、ごめんなさい。大きすぎる不幸は、うまくいかないのよ」
「じゃあ……。どうりで不幸が集中するときがあると思えば」
「死んだりするようなことは、防がないといけないから。絶対に、ね」
そ、そんなに死ぬようなことあるのか? やだな……。もうとっくに死んでたのかもしれない。
「まあ、よかったよ。教えてくれて。私たちの前に姿を現してくれて、ありがとう」
「マリアちゃん……。なんか、ごめんね。私、一応言っておかなきゃって思って」
思ってたより、大変なんだな、神様って。トレアも、私のためにいつも尽くしてくれたし……。お礼、言わないとだよね。
「あ、トレア……。その、えぇと……。ああっ!」
滅多にきちんとお礼なんて言わないから、なんだか言えない!
「全く……。ソフィ、ちょっと落ち着いて」
「うっ……。えと、あ、ありがとう……」
「ん……? え、あ! ソフィアちゃん可愛い!」
これだからトレアは……。あまり得意ではないタイプだ。よくわからない。
「にしても、随分盛大に変えたな。大丈夫なのか?」
「えっ……。もしかしたら、まずいかも。でも、なんとかなるようにしてるわ」
なんとなく、こういう、はぐらかすような……。ちゃんと話すとか言ってるけど……。
「そうじゃなくて。まだわからないっていうことよ」
ん?! トレアも読心術を……? あ、いや、神だったらできそうだな。
「私にも、よくわからない。でも、できる限りのことはやるから」
まあ、このままではトレアを責めるみたいになってしまう。やめるか。
「あ、そろそろ時間みたい。私、そんなに長くこっちにはいられないのよ」
「そっか。じゃあ、またね。また夢で」
トレアはすうっと光のようになって消えていった。




