第八十二話 無事でよかった・・・。
目が覚めると、心配そうなマリアの顔があった。
「大丈夫か? 今、宿に向かってるから。ちょっと待ってろよ?」
マリアは私を抱いているわけだ。もうすぐ宿ってことは、そんなに長いこと寝てたわけじゃないんだ。
まだ、雨は降っている。それに、周りは暗い。今、何時……?
「な、なんの音ぉ……。って、マリ?! え、ソフィ?! どういうこと?!」
リリが叫ぶと、その声で滅多に起きないリナも起きた。二人共慌てているようだ。
「落ち着いて、よく聞け。リリはソフィの着替えを隣の部屋から持ってきて。リナは私のベッドを少し温められるか?」
「う、うん、出来るよ」
リリはすぐに部屋を飛び出して行き、リナは火壁でベッドを囲った。
マリは来ていたレインコートを脱いで、バスタオルで私の体を拭いてくれた。リリが到着すると、すぐに着替えさせてくれる。
「とにかくベッドに入って。話はそれから」
そう言われたら、従わないわけには行かない。だって、それからって言うし。従わないと進まないんじゃね……。
「まず、ソフィの症状は低体温症。幸いまだ軽度みたいだから、ソフィは気にしなくていい」
そう言いながら、マリはコップに何かを入れた。何か、透明な、トロトロしたもののように見えるけど……。
「それは?」
「くず湯。別空間にストックがあってな」
そうか。別空間のいいところ。冷めたり、温まったり、そういうことが一切ない。腐ることもないから、食べ物を保存するにはとても便利。
まあ、作れる空間は小さい人が多いからどうだか。
と、そんなことはどうでもいい。あったかくて、ちょっぴり甘い。
「落ち着いたか? まあ、こうやって普通に会話できてるなら問題ないが。一応まだ寝てろよ?」
「今、何時?」
「えっとねぇ……。12時半くらいかなぁ」
え? 私、そんなに起きてたの? どうりで真っ暗なわけだよ。
って。このまま寝れない。足が痛いんだもん。なんとかできないのかな?
「そういえば、さっき見たが、ソフィ、足、捻挫か?」
「え、あ、うん。これのせいで、歩けなくって」
さすがマリア。よく見てるよね……。にしても、本当についてないなぁ。
「じゃあ、とりあえず、固定する。魔法だと、痛みを取ることならできるが、治すとなるとまた別だからな」
そう言ってマリアはチラリとエベリナを見た。エベリナはそれに気がついて、私に回復魔法をかけてくれた。
「じゃあ、ちゃんと寝ろよ。私はソフィのベッド借りるからな」
そう言ってマリアは部屋を出ていってしまった。私のベッドは、ジェイドと同じ、隣の部屋だもん。
マリア視点で――
隣の部屋に入ると、ジェイドがベッドに座っていた。ものすごく驚いた。飛び上がるほどに。
「ソフィア様、どうでした?」
「なんだ? 気づいていたなら、手伝ってくれればよかったのに」
「着替えさせてたでしょう?」
あ、そうか……。いつから気づいてたんだ、こいつ。何考えてるのかわかりづらいから嫌いだ。読心術使えば一発だが。それはあまりにも無礼だろう?
「雨降ってすぐ、飛び出していきましたね。私が動くより早く、レインコート掴んで」
「な?! そんな早くから見てたのか?!」
「おお、珍しく感情が」
な、なんなんだ……。からかわれてるような、そんな気がする。本当に読みづらいな。
にしても、やはり少し疲れた。ソフィを見つけるのに小一時間かかったからな。本当に焦った。あのまま放っておいたら、死んでしまうだろうから。
本当に、無事でよかったな……。
「あのー? マリア様? そんなにソフィア様のこと、大切です?」
「は? 何言ってんだ? 当然だろ……?」
いつの間にか後ろにいたジェイドがぐいっと私の額に手を当てる。そのまま私は後ろに倒れそうになったが、当然そこにはジェイドが。
「ほら、熱がある。今日、寒かったからでしょう。気づかないくらい、ソフィア様のこと、大切なんですね」
え……。何も考えていないようで、小さな質問の一つにも大きな意味があって、よく観察してるんだな。
全く、すごいやつだ。私なんかでは、到底及ばないな。長年生きてるだけのことはある。
「とにかく寝なさい。それが一番ですよ。さあさあ、早く」
ジェイドは私を抱き上げて、強引にそのままベッドへ。ばさっと掛け布団をかけて、さっきのようにベッドに座った。
「ソフィア様、無事でよかった。本当は、感謝してます。なんか、意地悪ですみません」
「なんだ……。変わった奴だな。私は、そんなつもりはない」
「はは、そうでしょうね。まあ、ゆっくりお休みなさい? ソフィア様、マリア様が風邪ひいて、なんて、悲しみますし」
そう、だな。自分のせいだって言い出すだろう。それは、ダメだな。
「じゃあ。私はもう寝ることにする。起きなかったら、起こせよ?」
「わかってますって。おやすみなさい」
誰にでも、あんな態度なんだな……。ソフィアにだけかと思っていたが。
こいつは一体、誰の事をどう思っているんだ?




