第八十一話 どうしようっ・・・!
ブランシュと会ってから、五ヶ月が経った。
相変わらず、挑まれた戦いには全勝、魔物には楽勝、何事もなく冒険を続けてきた。
ただ、急に大問題発生。ある村に宿を見つけ、森に入って魔物と戦っていた帰り。
「なんて霧なの……? 前が見えないわ」
一面真っ白で、うっかりしたら、数歩分前にいるリリアーナも見失ってしまう。
前から、マリア、ジェイド、エベリナ、リリアーナ、私だ。マリアとジェイドで帰りの道を探し当てているよう。
実を言うと、私、軽く魔力不足なので、歩くの辛いんだけど、そんなことを言っている場合ではない。
しかも、12月。すごく寒い。この状況で止まるわけにはいかないだろう。
「!」
急に視界が揺れた。左足首に激痛が走る。
慌てて地面に右手を着くと、何かが刺さる感触に襲われる。
声を出すことすらできず、私はなんとか左手で体を支える。
しかも、これはまずい……。完全にはぐれてしまった。転んだこと、気づかれなかったんだ。
とりあえず、少し早目に歩けば追いつくだろう。そう思ったが、立つことすらできない。捻挫か。
「まずいわね……。状況最悪だわ……」
私は木の根元に座った。この状態では、動かないのが一番だ。気づいた誰かに、迎えに来てもらうのを待つしかないだろう。
とりあえず、手を着いた時にざっくり切れた右手はなんとかしないと。といっても、私の回復魔法じゃ、血は落とさないと不具合が起きる。左手から、水弾。
こんなんじゃダメだった。次から次へとあふれる液体に、私は困り果てて左手を下げる。これ以上威力を上げると、右手ごと吹っ飛ばしそうだ。
コツン、となにかの感触があり、私はローブのポケットに手を突っ込んだ。そうか、瓶入りの回復薬。
私はそれを右手にかけた。もう一度水球を撃つと、大丈夫、治ったようだ。血を洗い流す。
でも、捻挫とかは、回復薬で何とかするものではないし……。かと言って、見た感じ状況は重そうだから、自然治癒も見込めない。連絡、移動系の魔法はこの霧で妨害されてしまう。どうしよう……。
「寒い……」
ぶるっと身震いして、私は震える手で近くにある枝を集め、火球で火をつけた。
木の根に躓くなんて私は馬鹿か。しかも、よりによってこんな時……。
半泣きの私は、困り果てて顔を上にやった。
その頃の四人は――
「ん……? おい、リリ、リナ、ソフィはどうした?」
「ふぇ……? あ、あれ?! えっ、ちょ、え?!」
「気づかなかったよ! まずいね……。どっかで転んで怪我してるんじゃ……?」
リリとリナの反応を見たマリアは、少し顔をしかめたが、ゆっくり言い聞かせるように言う。
「今、この状態で私たちが入るのは、もっと危険だ。霧が消えるまで待つべきだろう」
「明日は、霧ないって言ってたわよねぇ?」
「そう、だな。大丈夫、ソフィだって魔女だ。一日、いや、半日ちょっとくらい、なんてことない」
本当はもう少しありそうだが、マリアはあえて半日といった。彼女たちが、パニックになってはいけない。
「急がないと、私たちが行方不明になったて騒がれるぞ」
日は、もう沈みかけている……。
「もう。真っ暗になっちゃった……」
私は俯く。わかっていた。この状態で助けに来るなど、危険なことを犯すはずがない。
でも、こんなに暗くなるなんて……。まあ、とっくに真っ暗だったのだが。寒いし、怖いし、心細い。
霧は相変わらず晴れない。そのせいで湿った空気も嬉しくない。
と。ポツリ、と目の前に雫がたれた。私は「え?」っと上を見る。――雨だ。
「きゃっ、雨……?!」
このままでも寒いのに、濡れるなんて。ずっと動かないつもりだったけど、この状況じゃ……。
パニックになった思考じゃ、強く願えない。雨を晴らすなんて絶対に不可能。そうじゃなくても、魔法なんか使えない!
たしか、森を抜けてすぐに、救護のログハウスがあった。あそこまでたどり着けたら……。
「えっと……。森を抜ける方向は……?」
《あっちだよ、ほらほら》
精霊が教えてくれる。けど、ごめんね、そんな早くは進めないよ?
左足が痛い。私は必死に木を探し出して体を支える。右足と手で体重を支えて、精霊にも助けてもらって、なんとか進む。速くなんて、不可能。
そうしてるあいだに、雨はますます強くなる。冷たいのも合わせて、雨が痛い。
しかも、地面が濡れて滑るから、こんな体じゃ、これ以上進めない……。前もほとんど見えないし。唯一の明かりは、杖につけた、消えそうなくらい小さな点灯魔法の光のみ。
もう、どうしようもない。
誰か、助けて!
寒い、痛い、暗い、怖い、寒い、痛い、暗い、怖い……。
「……、ソフィ?! ソフィ?! いるのかっ?!」
「マ、マリ……?」
私はとてもゆっくりだけど、声の方に向かい出す。もう、すぐそば……。
急な眩しいほどの光に、私は思わず目をつぶった。でも、この光。
「マリ、来てくれたの?」
「話はあとだ。寒いだろ? 大丈夫か……?」
こういう時、一番信頼できる! 私はマリアの出した手をしっかりと掴んだ。
って、あれ……? 視界がおかしいな? なんか……。
「お、おい……? そ、ソフィ? 大丈夫か? ソフィ?!」




