第七十三話 地球との関係は?
「えっとね、ソフィアちゃんが生まれて五年くらい? この街に、来るはずだった魔王軍が来なかったのから、かな」
アニーシャはハーブティを啜ってから言った。さっき葉を摘んでいたところを見ると、自家製のようだ。
「それから、魔王軍は、ホントはもっと大きな軍政になるはずだったんだ。でも、ソフィアちゃんが返り討ちにした、あの軍。あれが主戦力を連れ去るはずだったから、もう狂っちゃったんじゃない?」
ああ、桃色魔法衣もみんなか。あの時、うちの村の人が奪われてたら、まずかったってこと? 知らなかったけど、随分良い道を選んできたみたいだ。
「それで、今、すごい小さいみたいね。だから、多分、世界を救うのは何年か前のソフィアちゃんだよ」
あ、ちなみに、敬語を使うな、とマリアが言ったのでこうなった。
「うん、でも、これ以上放置すると、大きくなるかも。あと十年以内に、みんなから攻め込んだほうがいいよ」
「なるほどねぇ。放置したら、大きくなるかもしれない、と。十年後、ホントは何が起こるはずだったの?」
「えっと……。エルフの森を乗っ取って、全員ダークエルフにしたあと世界を乗っ取った」
なるほど。それはまずいな。私の国にも被害が出る。
って、それはいいんだけど。勇者の私が何とかしないと。
「で、その時、勇者は何をしていたんだ?」
「早々に暗殺されたわ。もちろん、血族全員。たしか、今生きてるのは、九代? みんな地方にいるはず」
あ、そんなに生きてるんだ。これ、魔王を滅ぼした勇者も生きてるんじゃ?
「まあ、寿命も千年くらいあるしね。見たことないけれど、いても不思議じゃないわ」
「そうねぇ。でも、どうして教えてくれなかったのかしらぁ?」
「言ったところで。もう勇者の家のものというのは過去の話なのだから」
アニーシャはふうっとため息をついてから、私たちの顔をよく眺めた。
「いい目ね……。あの時の勇者は、こんなだったかしら?」
「あの、その時の勇者って、私たちだったんですかぁ?」
「リリアーナちゃんと、エベリナちゃんは。雰囲気、別人みたいだったけど。マリアちゃんはマリーナ、ソフィアちゃんはソフィーだったわ」
「別人、かぁ」
私とマリアは顔を見合わせた。言いたいことは分かっている。
「こんな感じかなぁ? あら、そろそろ娘が帰ってきちゃうわ」
「あ、いきなりすみませんでした。では、また、機会があれば」
「うん、それじゃあ。あ、応援してるから。可愛い勇者様たち」
「ソフィ、今まで黙ってて悪かったな」
「ううん、やっぱ、マリは日本人?」
「そうだ。ソフィもだな? 私は、癌で、余命半年と言われ、結局一年後亡くなった」
「そう、なんだ。私は、事故。下校中にね」
マリアは目を見開いて私を見た。
「下校、中? そんなに、小さかったのか?」
「え? 高校生だけどね。じゃあ、マリは?」
「私は、娘がソフィくらいだな」
マリアは懐かしむように目を細めた。そうか、親くらいだったか。どうりで大人びてるわけだ。
「娘は、可愛かったな。絹みたいな黒髪と、大きな眼……」
「なんか、ごめん。思い出したくなかった?」
「いいや。そういうわけではない。ただ、もう一度会えたらいいがな」
マリアはそう言って杖をちらと見た。やっぱり、望みはそれだけだよね。魔法、か。
「それはさて置き。この世界、地球との関係はなんだと思う?」
私が聞くと、マリアはもう予想はついていたようで、スラスラと答えた。
ちなみに、私も大体の目星はついている。
「まず考えられるのは、遠い未来。もう一つは、ずっと遠いパラレルワールド。
なんといっても、言葉は日本語と英語を合わせたみたいだしな。エルは円とドルを合わせたんだろう。50円くらいと考えられるしな。それに似せて、銭やらセントで、セル」
「そうでしょうね。あの時代から、ずっと経って、亜人が革命を起こした可能性は考えられる。何らかの理由で日本とイギリスかアメリカが代表に選ばれた」
「ただ、それだと、少し違和感がある。だって、記録が残っていないはずがない」
「そうなんだよね……。そんな大きな革命、記録が残っていないって、変だもん」
未来か過去は、想像してた。でも、パラレルワールドは、あるかもしれないな。そんなの、考えもしなかったや。
でも、もしかしたら本当に関係がなくて、召喚されたり、転生した人が教えたってこともあるだろうけど。
「そういえば、どうして召喚とか転生は、日本人が多いの?」
「最初に召喚術を成功させたものが指定したのが、ちょうど日本だったんだろう。同じ術式を使っているのなら、当然日本人が呼ばれてしまう。そして、一度召喚すれば、歪みができる。異世界転生はそのせいだ」
なるほど。そういうことか。
「できなくはないと思うぞ。関係があれば。つまり、パラレルワールドか、未来だったら、大丈夫だ」
「じゃなかったら、厳しいって事?」
「あ、ああ……。悪いが、そういうことだ」
うう……。私はいいけど、マリンは本当に会いたがってる。行きたい。行けるようにしたい。




