第五十七話 アークエンジェルとの戦い
先に動いたのは大天使。というか、私が動く前にものすごい速さで動いた、というべきか。
右手で作り出した白い光を、私に向かって投げるのではなく、こちらに突き出して突っ込んでくる。
避けるのでは間に合わないだろう。極力魔力の消費を抑えた防御魔法。
あ、嘘、思ってたより強い! 二階くらいの高さまで飛ばされていることに気がついた。
先ほどいたところより約五十メートルのところに落ちた。うぅ、痛い。サウルの時より酷い……。
よろよろと立ち上がってもう一度先ほどの位置まで動く。
「あらら。弱そうね。うふふふ……」
ば、馬鹿にしやがって。子供だと思って、舐めないで! 私は乱暴に涙を拭う。
これでは仕方がない。制御を解かないといけないようだな。あの宴以来か? うまくいくか、な!
ゴウっと大きな風が吹き、辺りを見えなくする。そして、次の時には、綺麗な杖をしっかり構える私。
魔力はおそらく二倍くらいになっただろう。半分位は体内に回していたはずだ。9000、全体の15%は使えないとして、7650。神級なら、七回が限度。厳しいか……?
ってか、風が止まない。いつまで構えてりゃいいんだ? 漫画みたいな登場しようと思ったら……。強すぎたか。
「な、なんだこれ? どんな魔力だよ?!」
どんなと言われましても。私の魔力ですが。ってか、おいおい、天使の魔力ってそんなもんなのか?
やっと止んだ風。大天使の驚いた顔は、なんと愉快か。私はにやっと笑って告げる。
「さあ、地獄の時間を、始めようではないか」
目の前の草が赤く染まったのを見て、私は目を大きく見開いた。口元に手を当てると、同じように真っ赤。
ちょっと油断したかな。相手は天使だっていうのに、か。
私ははじめ、蔓で相手の動きを止めようとした。でも、残念ながら、それは叶わなかった。
しかも、大天使は……。
「あ! 武器……」
可愛い白っぽい弓を取り出した。しかも、矢を持っている様子はない。自動か。
つまり、どこか離れたところ、―どこでもいい。―に魔法陣を置き、その上に矢を置いておく。
そこの上の矢が、箱に入っていようと縛られていようと、一本ずつ撃ったあとの弓の上に出現するのだ。
武器を使われる、しかも無限のものだと、私の魔力は小さなものだ。これでは歯が立たない。
とにかく。一度冷静になろう。よし。今日、適当に散歩していたわけではない。目をつぶって精霊と遊んでいたら、何か違うものがいたので、目を開けると。
「さあ、キャラウェイ。出てきてくれるかなぁ?」
この子がいたのだ。小さな小鳥が。パッと見弱そうだけど、この子は不死鳥の女の子だ。今でも、もう十分強い。
この子には、友達がいなかった。どうやら、私のところに来た理由はそんなところだ。
で、名前。人や物を引き止めたり結びつけたりする力があるという言い伝えがあるキャラウェイ。この子の姿は美しい。鮮やかな桃色。一度はあっと振り返るような姿。そんなところ。
どうせ私と友達になりたかったのだ、名前をつけるのに魔力などほとんど必要ない。もちろん、使うのにも。
彼女は火の息を噴く。一本ずつ的確に矢を撃ち墜としていった。
当たらないことにイラついたのか、大天使は戦法を変えた。剣で直々に襲いかかる。
そんな単純な攻撃、当たるとでも? ちょいと強めの防御魔法。当たらないでしょ?
ただ、それに気がついて、彼女は一度少し引いて、剣に魔力を流した。ま、まずい!
と、思ったときにはこの惨状だ。どうしようね? まさか防御魔法を解くような攻撃があるとはね……。手も芝生も、血だらけになってしまったではないか。
キャラウェイが心配そうにこちらに飛んできた。大丈夫、この程度……。回復魔法は、魔力量の関係で使えない。でも、まだ、この程度なら……。
立ち上がり、今度こそ、と思い切り魔力を込める。地獄草で……。
「! 無詠唱とは……。先ほど逃げ出した緑髪の悪魔もそうだったが……」
何をつぶやいているのか、遠くてわからないけど……。今度こそ、捉えて!
なっ! う、あぁ、痛い、痛い! 私の蔓が。引きちぎられていく。
ダメだ。直視できない。イメージするだけで悍ましい。うぅっ。
それより、地獄草でも引きちぎられちゃうか。
では、キャラウェイもいることだし、火にしよう。手伝って、くれるよね?
一度目を閉じ、魔力を集中。大丈夫、大天使の動きは、魔力の動きで見えてるよ。猛火!
これは、かわせないはずだよ? だいぶ広くとったからね。上にも、ね。
「けほ……。あ、大丈夫だよ。キャラウェイ、ありがとう」
当然人の生きられないような環境で、私はキャラウェイの力を借り、火の中を動かない。逆に、動くと魔法の制御が……。
火を制御して、自分の場所ができる限り熱くならないようにしているから。
まあ、熱いけどね。
さぁ、大天使は……?




