第五十話 インディゴの過去
国としてどんどん成長していくのに、私の手は一切関わらなかった。
なにせ、スカーレットやクララなど、しっかりした主に女子がどんどん進めてくれて、私が何かする前に終わってしまったのだ。女王なんて名前だけじゃないか。
まあともかく。私は住民票を眺めています。人数多くて大変だよ。だから、見てるんじゃなくて、眺めてるの。
「あ、今年度で小学生になる子、結構いる。先生いないのに」
し、仕方ないなぁ。とりあえずは、私が出るしかないよね?
「先生? 緋色悪魔に出てもらえばいいですよ」
スカーレットが普通そうに言った。え、ダメなの? くらいだ。
「いいの? いいなら、出てもらいたいな。文房具は、支給でもいい?」
「ああ、問題ないでしょう。ノートと、筆記用具ですね。あと、制服……」
あ! 制服忘れてた! 今すぐデザインを考える。お嬢様、お坊っちゃま学校のイメージで。私は近くのペンを手に取り、軽くスケッチ程度に書いていく。
「こんな感じで、いいかな?」
とまあ、デザインを出したので、やりたい人が引き受けてくれるだろう。こういったすぐやらなくてはいけないものはポイントが高いので。
にしても、子供が少ない。学校に入っていた子の家族は、転校は困るから街に来なかったのだろう。
人数は少ないけど、でも、楽しみだな。可愛い小さなエルフがたくさんいるだろう。遊びに行こうっと。
「あ、そうだ。心配だったんですが、ジェイド、ソフィア様に手ぇ出してないです?」
「……は?」
なんでそうなる。ジェイドが何をするって言うんだよ。
「え、だって、よくあるんですよ、人間と、悪魔って」
……。おいおい、どうしてそうなった? まあ、気はあるみたいだけどさぁ……。
「だって、ジェイド、インディゴに相談してるみたいですし」
「……インディゴ?」
スカーレットは驚いたように目を見開いた。
「聞いて、なかったんです?」
「だからぁ、何を?」
「インディゴは、結婚してたんです」
……?? あのインディゴが? ちょっと、どういうこと?
悪魔と人間はよくあることです。でも、悪魔は死にませんから、子作りの必要はないでしょう?
でも、人間と恋に落ちると、体が少し変わって、人間に近くなるんです。相変わらず寿命はありませんが。
インディゴは見ての通りかっこよかったので、女子はみんな寄っていきました。性格も、明るくて……。
でも、悪魔ですから、大抵は見てるだけです。でも、一人だけ、熱心な子がいて。毎日のようにインディゴを追いかけてたんです。
そんな風に追いかけられているうちに、インディゴもその気になって、恋人になって、やがて結婚し、子供もできたんですけど……。
その子は人間だったから、当然死んでしまうでしょう? その子は、病気で四十くらいで亡くなっちゃったんです。
その時のインディゴを慰めるの、私とジェイド、二人がかりでもすごく大変でした。一年以上もかかったんですから。
毎日毎日インディゴの家を訪れました。だって、何もしなかったら一日中ベッドで過ごしちゃうんですもん。
もう、純粋な悪魔じゃないから、ほっといたらおそらく死んでしまいますし。
インディゴの子供は小さな羽と牙を持ったハーフ悪魔です。といっても、ほとんど悪魔ですが。寿命を持たないんです。
悪魔ですから、死んでも復活する、といったほうがいいでしょうか?
女の子なんですけど、彼女が私たちに助けを求めてこなかったら、もう……。
インディゴ、死んでたかもしれませんね……。
スカーレットは苦笑いして続けた。
「一年して、ようやく生活するに困らない程度元気にはなったんですけど、性格が、あまりにも変わってしまって……。本当は、明るかったのに。もう、私、悲しくて……」
インディゴ、そんなことがあったんだ。悪魔と人間が付き合うのって、難しいんだなぁ。
「その子どもって?」
「ブランシュです。インディゴの相手はアンカって言うんですけどね、インディゴ、当然名前がなくって、その子には青い髪で青さんって呼ばれてたんですが、AncaとBlueで、Blancまで組み合わせて。Blancheになったって聞きました」
ブランシュ、だね。会ったらインディゴのこと、言わないと。元気だよ、って。
「ソフィアさん、おめでとうございます」
私は飛び上がるかと思った。窓枠にまた天使が座っていた。
「あ、ありがとう? どうしたの?」
「国ですよ。あ、そうそう。ブランシュって、覚えがあるんですよ。機会があったら、行ってみてください」
そう言って天使は地図のようなものを手渡してきた。
ちょっと遠いみたいだな。いつか行ってみよう。そう思って丁寧にしまっておく。
「……それだけ?」
「まさか。忙しくなりそうだよって、言いに来たんですよ。これから、国になったから、もっとたくさんの軍が来ることでしょう」
……ん? どういうこと?
「まだ小さい国ですよ? 弱いんでしょう? しかも、もし、レルフィアを自分の配下にできれば、エルフの森が手に入るんでしょう?」
……あー! これって、いい鴨ってことじゃん! なんだよ、それ!




