第四十六話 ソフィアの国
エルフの森には、国は四つしかない。森の南側、クリスティションの国、森の西側、カリディの国、森の東側、ララの国と、最後、北側、レルフの国だ。
そして、私たちが住んでいた村は、すべての国の境。ちょうど中心に位置しているらしい。
実は、私たちの家は村の中心にあった。その中でも、南に昔マリアの住んでいた家、西にリリアーナの家、東にエベリナの家、北に私の家。そこが国境らしい。家は隣同士なのに、違う国に住んでいたわけだ。
「で、ここが私の国になったら、お母様、お父様の国が小さくなるってことですよね? いいんですか?」
「許可は取ってあります。問題ありません」
許可。とってあるんだね。じゃあいいけど。
「国になってのメリットはなんですか?」
「貿易が森の外ともできるようになることでしょう。また、協定や条約なども作れるでしょう」
うぅん、どうしようか。メリットないよ? 貿易なんてしないし。
「ソフィアお嬢様? 女王なんて響きいいですね……。士気も高まるでしょうし」
ジェイドが私にしか聞こえないように呟いた。「ねっ?」って笑った顔が可愛らしい。
「わかりました。条件は、なんです?」
条件その一、国に適した機能があること
条件その二、ある程度の自給自足ができていること
条件その三、住民の過半数が国になることを許可している
「と、こんな感じですかね?」
「すみません、名前教えてください、声かけられません」
「ああ、これはすみません、セサルです」
ふぅん、まあいいや。とにかく、聞きたいことがあるのだが。
「セサルさん? 国に適した機能って、どんなことですか?」
「言えません。ですが、それを今から私が見るんです」
だそうだ。仕方ないね、それは言えるわけないもんね。
「ねぇ、ジェイド、私、国になったら、女王になるわけ? お母様とお父様の国はどうしよう?」
「妹か弟ができれば問題ないんじゃないですか?」
…………。確かに。エルフの寿命は恐ろしく長いし、まだいいか。
「ええ、条件その一は何の問題もありませんね」
どのへんが? わからんな。
「条件そのニも、問題ないでしょう。貿易なんかの記録もほとんどありませんし」
そうだね、最初に苗やら種やら買っただけかな?
「条件その三は、住民を集めてもらわなければいけませんね。できますか?」
「もちろん。外でもいいですか?」
そう言いつつ、私はポケットから四角い携帯もどきを取り出す。……、形はガラケーだよ?
「クララ、今平気? あのさぁ、どこかに人を集めたいんだけど、なんとかなる?」
『うん、広さはホールでもいけると思うよ。それでいいなら、集め始めちゃうけど』
「ありがとう! じゃあ、よろしくね」
はい、私の仕事は完了。あとは待つだけ。
「ジェイド。私たちも行こうか」
「わかりました」
「―――ということなんですが、よろしいでしょうか」
セサルが言うと、あちこちから歓声が上がった。待ってましたと言わんばかり。
いや、こんなに喜んでくれるとは。どれだけ信頼されてるんだ? 私。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか? 国になったら、学校って、どうなるんです?」
あ。私とジェイドは顔を見合わせた。今はその年の子供はいないけれど、確かに、学校作ってないや。
「! そうだった。学校、ないとダメですね。とりあえず、また今度に……」
「あー、じゃあ、すぐ作りますね。ただ、少し待ってもらえます? 今、やっとアバドンの森から帰ってきたっていうのに、今すぐってのはちょっと……」
忘れてた、といったように言うセサルにそう返すと、怯えたような表情になった。「あそこから帰ってくる人がいるのか?!」といった顔かな。
「では、一応上に連絡します」
「空いてる部屋くらいあるでしょう? 誰か連れて行ってあげてね。私は戻るよー」
ローブ姿のままだったけど、もういいよね。さて、今日はもう寝てもいいだろうか。
ちなみに、どうやら、すごくパラメータが上がっているよう。
ソフィア=レルフ
体力 3000/3000 魔力 4500/4500 ダメージ 0%
攻撃力 850 魔法攻撃力 3000
体力が2000から3000、魔力が4000から4500になったよう。攻撃力は800から850、魔法攻撃力も2500から3000になっている。
魔法ばかり使ったからか、魔法関係が大幅に伸びた様子。でも、相当歩いたし、体力もだいぶ上がっているね。
ということで、さくさく行こう。土壁は中級。ラクラクなんだけど、色つけられないしなぁ。
そしたら、ジェイドがどこからかペンキ持ってきましたね。白いの。ちょこっとアイボリーっぽいかな。そういえば、寮作った時も、どこからペンキ持ってきたんだろう。
私がせっせと作っているあいだ、桃色魔法衣の人たちが色を塗ってくれました。
内装はどうしよう? 壁はできるだけツルツルに磨いて、白いペンキでいい。ただ、床は、フローリングがいいよね。草壁って、木にもなったっけ?
あ、いけそうだな。机は後でなんとかしよう。よし、もう少し。頑張ろう。
「先生はまだ生徒がいないので、いいですよね?」
「あ、はい。では、国として、認めると上に言っておきます」
――世界中で一番小さく、一番強い国が誕生するまで、時間はかからないだろう――




