第三十七話 アバドンの森ってどこですか?
歩いても歩いても森なのは、この森が広大だからってことだ。にしても、森から出られないとか異常じゃん。
私たちは大きめのリュックを背負って森を歩いていた。私たちの街は森の端、海の近く。ただ、行くのは真逆の森の端だ。ものすごく遠い。何日かかるんでしょう?
「お嬢様、そろそろ休みます?」
やけに似合う茶色い淵のメガネをかけたジェイドが言った。体力が減っていたよう。
「ありがと。ごめんね、私のせいで……」
というのも、動くことなんかなかったわけで、体力が他の人よりずっと少ない。私のせいで進むのが遅くなっているのは事実だ。
「ソフィ、メガネの複製が終わった。これでいいか?」
マリアが出来たての魔法道具を渡してくれた。最初のはジェイドに取られてしまったので。
にしても、歩きながら複製って、器用すぎないか? しかも、マリアの魔力はほとんど減っていないし。
「ねぇリリ、どれくらいかかるの?」
エベリナがリリアーナに聞くと、少し考えた様子だったが、すぐに答えた。
「二ヶ月くらいじゃない? 徒歩なら、ね。ソフィにはいい相棒がいるじゃないのよぅ」
え、まさか……。あれにはもう乗りたくないんだけど。
「シナモン! さあ、早く呼びなさい! 五人くらい行けるでしょ」
あぁ。乗ったことないから言えるんだよ。ジェットコースターなんてレベルじゃないし。
でも、こんなところで時間使ってる場合じゃない。時間は三ヶ月しかないんだから。
「わかったよ……。シナモン、ちょっと手伝って?」
私が自分の横に話しかけるようすを、リリアーナも、エベリナも、ジェイドも「え?」という表情で見ている。
「気づいてたのに無視してたんですか? せっかくついてきたのに」
そう、彼は朝からずっとついてきてたのだ。それを、私は頑なに無視し続けた。邪魔だし迷惑だし。
あぁ、そうか。透明化してたから、みんなは気づいてなかったんだね。無駄に器用になりやがって……。
「どれくらいかかる?」
「半日くらいじゃないですか? 知りませんけど」
えぇ?! だったら最初から頼めばよかった。あ、でもなぁ。
「とりあえず、今日は休んで明日にしよっか。もう暗くなってきたし」
あまり遅くに動くと危ない。夜は魔物の時間なのだ。
「私が頑丈な小屋つくろっか。そのへん開けて」
私は土魔法の練習も兼ねて自分たちの周りに大きな土壁を作った。上もとじて、最後に空気穴ってことで天井に穴を開けた。青石弾で。
「雑ねぇ。もうちょっとどうにかならないのぉ?」
「えー。いいじゃん、仮の建物なんだし。頑張って作っても意味ないじゃん」
「そりゃそうだけど、どうやって出るの?」
「ドア付いてるよ。同化してるけど」
一応、取っ手も付いている。すべて同じ色だからわかりにくいけど。そこだけ不便だ。なんとかならないかな?
「じゃあ、リリ。狩りに」
「おっけー。じゃ、ソフィ、リナ、ジェイドさん。留守番よろしくねぇー」
そんなことを言いながら外に消えていった。
……ジェイドに『さん』なんかいらないのにな。
リリアーナとマリアはウサギを持って帰ってきた。野うさぎ。そんなに不味くはない。美味しいってほどでもないけど。
でも一応、私がお嬢様だからかもしれないので、黙っておく。
エベリナが綺麗に焼いている間。私はシナモンを眺めていた。なぜか蝶を追いかけている。犬なのに。
焼きあがったら食べて、おやすみなさい、という感じだった。あ。そういえば、久しぶりにシナモンと寝ました! 凄く良い、あのモフモフが。暖かいし。
「いやああああ! シナモン、ちょ、速いってぇー」
隣でリリアーナが大笑いしている。笑い事じゃないんだよ。ジェットコースターだって苦手だったのにさぁ……。
さすがにみんな乗るのは大変だから、馬車のように私たちが乗った車を引くかたちに。でも、揺れるし速いし、リリアーナは笑ってるし、私は最悪だ。
でも、不思議なことにジェイドはシナモンの上に座って本なんか読んでいる。この中で本って!
あぁ。今度こそ、二度と乗るもんか。
「ひどいって……。何でそんなに笑うの」
夜に森の外に着いた。今日は仕方ないから、この車で寝ることに。シナモンはちょっと残念そうだったけど。一緒に寝れないしね。
というか、まだリリアーナが笑ってるんだけど、誰かこの壊れたおもちゃをどうにかして?
なんとなく隣を見ると、マリアが小さく震えていた。さて、どうしたのかな……?
「マリ? どうかした……?」
「ねぇ、さっきの……」
さっきのって、馬車もどきのことかな?
「すっごく楽しかった!」
あぁ……。帰りは移動魔法のつもりだったけど、これは馬車で帰る流れのようです……。
今までちょくちょく出てきた超上級魔法ですが、紹介したことなかったですよね?
火 噴火 煮沸
水 滝 急潮
草 森林 毒草
雷 霹靂 万雷
土 赤石弾 青石弾
空 雹 吹雪




