第三十六話 アンハッピーバースデー
私は自分の部屋で、ベッドに座っていた。誕生日だというのに、どこにもいかず、ただただ泣いていた。
『ハナが難病』。それは、私にとって大きな錘になった。
ジェイドがどんなに慰めてくれても。クララたちがプレゼントを持ってきてくれても。スカーレットがメイド服を新調して可愛くしてきても(?)。部屋から出る気にならなかった。
「どうして・・・? ハナ、ハナ・・・」
頭がぼうっとして、クラクラする。もう何も考えられない。つい一昨日まで、誕生日を楽しみにしていたというのに。
「ソフィアお嬢様・・・」
まだ外にいたジェイドは、私の動く気配がないことと、自分が疲れたのとで、そっと扉の外でしゃがみ込んだようだ。気配でなんとなくわかる。
私の友達だったのに。私の家族だったのに。私の大切な人だったのに・・・。
ハナの病気は、治らないそうだ。あと三年で、確実に、死に至る。
「お嬢様。気持ちはわかります。私も、昔、親友亡くしてますから・・・。でも、だからって、何もしないんじゃ、ハナさんだって・・・」
「わ、わかってる。でも、私の、家族、なのよ・・・」
外のジェイドが、思い切り立つ。それから大きな声で叫んだ。
「いつまでそうしてるつもりですか! 何か行動しないと、ハナさんのそれは、何の意味も持ちません!」
次の日、私は久しぶりに家に帰り、禁止されていた地下室を開けてもらった。大量の資料を読み漁り、少しでもハナの病気に似たものがないか調べた。
禁止された、とは言っても、しょっちゅう入っていたが。こっそり、気づかれないように。でも、実際は気づいていたのかもしない。
「ソフィア、もう七時よ。上がってきなさい?」
「! うん。ちょっと待って、いま行く」
この日は、特に何の手がかりもつかめなかった。でも、ジェイドに言われて気がついたのだ。何か、私にもできることがあるはずだ。
何もしないで、このままいたら、ハナだって、悲しむはずだって。
「お母様! 来て! これ、見て!」
私の叫び声に、母が急いでやってきた。もうちょっとで階段から落ちるところだったくらいに。
「どうしたの?」
「これよ。不治の病を治すための、冒険。この子は、助かっている。鮮やかな色をした花だという。これがあるのは・・・」
「ソフィア、ダメよ!」
母が叫んだ。私は何事かと母の顔を見る。
「アバドンの森は、ダメ! アバドンっていうのは、奈落の王で、破壊の場とか、滅ぼす者って意味よ。その名のとおり、強い魔物の住処で、百万人で入っても、誰も出てこれなかったのよ」
アバドンの森・・・。どんなところでも、行かなくてはダメだ。ハナを救いたい。
「いいえ、私は行くわ! お母様、絶対に帰ってくる。死ぬ前に、絶対逃げてくるから。ね」
「ダメよ! 絶対に行かないで!」
ダメだよ、お母様。私は、後悔したくないの。
それに・・・。いいんだ、許してくれなくても。無断でだって、出られるんだから。
私はもう、子供じゃない。
「えぇ?! アバドンの森?! 本気ですか?」
「うん。ハナを救いたい。お願い。行かせて」
「ダメ、と言いたいのですが、行動しろといったのは私ですしねぇ。その代わり、私も行きますよ」
私はジェイドにお礼を言って飛びついた。まさか、ついてきてくれるなんて! なんて優しい・・・。
という事で、私は早速準備を整えた。準備というのは、仕事を終わらせ、他の者にいない間の仕事を頼むこと。
それから、綺麗な新しい装備品を買って、装備を整えること。
その日のうちに全て終わり、次の日の早朝、私は門の前でリーダーと話していた。
「行かないとなの。ごめんね。クララ、ルアンナ。寮、お願い。みんなも、ちゃんと将軍として働いて」
ダメとは言えず、黙って私の顔を見ていた。大丈夫、もう会えなくなっちゃうなんて、しないから。私が街から出ようとすると。
「待って! ソフィ、待って!」
目の前に、五人の女性がいた。よく知っている人だ。
リリアーナ、マリア、エベリナ、それから、リリアーナのお母さんジュリアーナとエベリナのお母さんイラーナだ。
「この子達も、連れて行ってもらえない? 家にずっといても、何も変わらないの」
「ソフィを助けたい。ハナさんを助けたい。」
「二人じゃ見つからなくても、五人なら見つかるかもだしね」
「ソフィが危ないことしないように見てなきゃ落ち着かないしねぇ」
ジュリアーナ、マリア、エベリナ、リリアーナが言った。
私が黙っていると、ジェイドがそっと笑う。
「いいんじゃないですか? 冒険は人を強くしますよ。ね?」
私は頷いた。目を離したくない気持ちもわかるし、助けたいという気持ちもわかる。
あれ? どうして知ってるんだろう? ってことは、母は許してくれたってことかな。
なんて考えていると、マリアがちょっと迷ったようにしながら、綺麗な箱を私に渡した。
誕生日プレゼントなのは、言われなくてもわかる。
「去年、十二でしょ? でも、特別なお祝いできなかったから、ちょっといいプレゼント、ね」
エベリナがそう説明した。私はそれを聞きながら、丁寧にラッピングをほどいていく。
出てきたのは、茶色い淵のメガネだった。
「魔法道具だよ。戦闘能力を数値化できるの」
リリがそう言った。どうやら、いきなり強い人を見ないほうがいいということなので、農民で慣れさせることにした。
平均すると、体力が五千、魔力が四十、ダメージが五%、攻撃力が六百、魔法攻撃力が三十といったところか。
体力は名前の通り。魔力も。ダメージは%表示で、百%で死だそう。
攻撃力は力といった感じで、魔法攻撃力は、打てる魔法の強さらしい。回復魔法の強さもそれで。
当然、それより弱く打つこともできるが。
にしても、これは便利だ。かけて電源入れればいいんだから。
しかも、顔じゃなくても平気。どこか一部でもいいし、何人かいても見たい人の能力が見れるのだ。
で、最後に私たちの能力も見てみた。こんな感じだ。数字で現れるから、パッと見でもわかりやすい。でも、万いったらわかりづらいかもしれないや。
ソフィア=レルフ
体力 2000/2000 魔力 4000/4000 ダメージ 0%
攻撃力 800 魔法攻撃力 2500
リリアーナ=カリディ
体力 5000/5000 魔力 500/500 ダメージ 0%
攻撃力 1200 魔法攻撃力 300
エベリナ=ララ
体力 4500/4500 魔力 3000/3000 ダメージ 0%
攻撃力 1000 魔法攻撃力 2000
マリア=クリスティション
体力 3000/3000 魔力 3500/3500 ダメージ 0%
攻撃力 600 魔法攻撃力 1000
ジェイド
体力 7000/7000 魔力 2800/2800 ダメージ 0%
攻撃力 2500 魔法攻撃力 1200




