第三十一話 初めての戦争4
残念ながら私は戦場に出してもらえなかった。「痛いなら素直に休め」と。
「それに、ソフィア嬢は魔力切れじゃ、戦えないでしょう?」
「あうぅ、だって……。じゃあ、ジェイドも出さないで、魔力切れだから」
アラーナはそれを受け入れ、私も戦場に出るのは諦めた。仕方なく治癒室の端のベッドに座って反省会。
「本気で撃ったのは、何発かな? えっと……」
ルースとの戦いで、噴火、赤石弾、矢を射った時に使った暴風。マティスの分身に撃った青石弾か。
あ、でもそのへんに転がってる人も移動魔法使ったし、それも原因かな。
「ああ、まあ、良かった。ちゃんと底があることはわかったし」
ないのも異常だし、異常なものは必ず研究したがる人がいる。面倒なことに巻き込まれるのは嫌だ。
なんて考えていると横から声がかかった。
「ソフィアさん、暇ですか?」
「ルース! 超暇!」
ルースは白髪のショートカット、薄紫の目を持つ美少女だった。男の子に間違えたのがおかしいくらい。
「凄いですね、魔法。私なんかじゃ絶対勝てない」
「ははっ! そんなことないよ。まだ伸びるでしょ? 私も頑張んないと。まだ魔力伸びるかな?」
「成人するまでは全然大丈夫だと聞いたことがあります。まだまだ伸びるでしょう」
なら良かった。この魔力じゃ魔王には勝てないだろうし。戦うかわかんないけど。
「ふう、でも多分、ほとんどルースに撃った魔法のせいだよ」
「ええ?! えっと、なんかごめんなさい」
からかうともっと可愛い。前世だったら……、ちょっと、コノヤローとか思ってたかもだけど、私だって可愛いらしいし。
でも、私的には、ルアンナとか、ナタリアとか可愛いし、マリアとかアラーナみたいな可愛さもある。クララやリリアーナなんかはかっこかわいい! だから、一概に私が可愛いとは言えないと思うんだけど。
「まあ、私も最近休んでなかったんだよね。街作りと魔法の練習に加えて剣やら盾やらやってたし」
「忙しいですねー。私は魔力切れしたらあとは暇でしたけど」
「そりゃ嘘ね。何かしらやってたでしょ?」
ルースは笑って「ホントですよ」と言っていた。そうやって言う人ほど影で頑張るけどね。
「うー、痛いなぁ。全く、あんなの不利だよぉ。もうちょっと剣やっとけばよかった」
ぽふっとベットに倒れ込み、天井を眺める。
「足のほかは、怪我、ないんですか?」
「あるよ。軽いのは戦ってる途中に適当に治療して治ってるけどね」
回復魔法は使えるし、などと思っていたが、実際動いている中での魔法は威力が格段に落ちる。
例えば、猫の引っかき傷くらいのものや小さなあざなんかは治療したが、それ以外は動くために最低限の治療程度しかできなかった。
とは言っても、実は結構やったのかもしれない。これのせいでもある?
とりあえず、今のところローブの右肩が破け、切り傷が見える。とりあえず、剣を降る事ができる最低限の治療だけは済んでいるが。ローブの腰のあたりも赤く染められているし、前髪で見えないが額にも傷がある。
「早く向こうに出たい。みんな戦ってるのに……」
「ほら、その状態じゃ足手まといになりますよ? ちゃんと休む!」
「はぁい。でもルース、私のためにみんな戦ってるんだよ? 何か悪いじゃん」
ルースは笑って私をベッドに押し倒し、布団をかけて笑った。
「もう。だったらさっさと寝て魔力回復させたらどうですか?」
目が覚めた時、一番最初に目にはいったのは隣のベッドで寝ているようで起きてこちらを見ているルースだった。
「起きましたか。一時間くらい寝てましたね」
ルースは軽く笑って言った。時計を見ると、確かに七時くらい。戦い始めたのが五時半頃で、あ、三十分で戻ってきちゃったんだ。
「外、見てくるね」
「いってらっしゃい。でも、その前に。魔力が回復したのなら、少し治療していったほうがいいですよ?」
確かに、だいぶ魔力は回復している。私は上回復をかけて外に飛び出した。
びっくりした様子のスカーレットがこちらを見ているのに気がついて、私は足を止めた。
「あ、ソフィア様。お目覚めですか。主将がさっきこの街の言うこと聞くから戦いを終えるように言いましたよ」
「あ、そう! そりゃよかった。今、みんなはどこに?」
「寮です。ホールで宴の準備中ですから」
なるほど。宴好きだな。まあ、気持ちはわかるが。
「スカーレット、今どこに行こうと?」
「ホールですよ。一緒に行きます?」
私はそれに応えてとなりに並んで歩き出す。スカーレットの左目の下には切り傷があったが、彼女の気にしていないようなので黙っていた。
「ソフィア嬢! 大丈夫でしたか?」
クララとルアンナが駆け寄ってきた。どれに対しての大丈夫なのかわからないが、ともかく大丈夫だろう。
「心配しないでね? なんともないよ? ローブ破いちゃったけど」
破いたどころではないが。あちこち切れている。もはやボロ布。
「その格好じゃいくらなんでも困るので、たしか向こうにワンピースがあったと思います、着替えてきてください」
「うん、わかった。ワンピースね?」
私は言われたとおり隣の部屋でふわふわのピンク色をしたワンピースに着替えた。
なんだかいつものローブっぽい。あのローブ、お気に入りだと気づいていたんだろうか?
「ソフィア! 大丈夫だったの?!」
懐かしい、綺麗な声に、私は振り向いた。間違いない。
「お母様、お父様!」
そういえば、一度もここに呼んだ事がなかった。ハナも何も言わなかったし。
「ハナが家に飛び込んできたんだ。ソフィアの街が戦争を始めたとな」
「ふっかけられたんですわ。私は戦いたかったわけではありませんから」
私が言うと、二人は笑いながら「ソフィアが戦い仕掛けるなんてありえない」と言っていた。
にしても、久しぶりだ。とても安心する温かさがある。
「そういえば、ジェイドはどこでしょう? 見てないけど……。スカーレット、知ってる?」
近くで話に混ざるタイミングを見計らっていたスカーレットに話を振ってやる。
「え? そういえば。ジェイド、どこかしら……。あの子のことだし……」
ブツブツと一人でつぶやいていた。このまま放っておくわけにもいかないので、紹介。
「私の悪魔。スカーレットです。メイドなわけではありません。少なくとも私の認識では」
「は! ソフィア様のご両親ですね。スカーレットです」
ついでにこちらを覗いているインディゴも。こっちに来るように合図してスカーレットと並んでもらう。
「この子はインディゴ。スカーレットと友達です。もうひとりいるんですが……」
「私がどうかしましたか?」
また、なんて完璧な登場するんでしょう? いつの間にか母の隣にいました。




