第二十二話 男の子たちとソフィア
あらら、私ったら、何言ってるんでしょう? なんか、起きたら目の前で暴れてるジェイドを見て、うっかり頭に浮かんだ事しちゃったけど……。
まあ、おかげでジェイドは元に戻ったし、いいか。いやいや、良くない。どうしよう……。
「ソフィア! 大丈夫?」
フェリオスの声がしたので、私は冷静な顔を装ってそちらを向く。
「フェリオス! みんな! どこ行ってたの?」
「ソフィアの部屋に、ドラキュラが入ろうとしてたんだ。そのインキュバスは囮だ」
私は、そこで転がっているインキュバスを見た。生きてはいるみたいだけど……。
フェリオスの後ろにいるこの中のヴェリが、男の子を連れている。ドラキュラはその子だろう。
「とにかく、みんな無事でよかった」
私が言うと、レオンが小さく頷いた。
「お姉ちゃん、ドレス」
マリンが小さく言った。確かに、血でドロドロになってしまった。もう着ることはできないな。
なんだか、パーティやるたびにこうやってなるのは、どうしてだろう。
もうやりたくなくなっちゃうな。良い思い出が無いんだもん。こういう時に襲撃してくるの、もう止めて欲しい。
「インキュバスとそちらのドラキュラは、どうする?」
サウルが聞いてきた。普通だったら死刑だけど……。
「まあ、死刑だろうな。ここまでやられちゃ、ね」
ニコライが口を開く。わかってるけど、なんか嫌だ。
でも、私が言う前に、マリンが言葉を発した。
「じゃあ、明日、処刑だね」
家に帰ってからも、マリンのあっさりと言った言葉が引っかかっていた。
「マリンは、平気で人を殺せるのかな」
今は、それが普通なところで暮らしている。でも、結局、そんなことは出来なかった。
そもそも、殺人ってなんなんだろう。自然では、同じ仲間でも殺すし、強いものが生き残るのは当然なのだ。
でも、それが人間だと、おかしく思うのはなんでだろう。結局、同じなのに。
「ソフィア、入って平気?」
「うん、いいよ」
エベリナの声だ。私は入ってくるよう言った。
「大丈夫? 怪我したって聞いたけど」
リリアーナが心配そうに言ってきた。でも、もう痛くないんだよなぁ……。
「平気だよ。ここまで来てくれたんだ。ありがとう」
そう言うと、眼帯をしていないマリアがぼんやり私の体を眺めた。
「大丈夫だ。嘘は言っていない」
マリアが言うと、二人はほっとしたように息を吐いた。すると、思いついたようにエベリナが言った。
「そうそう。私たちのこと、『リリ、マリ、リナ』って呼んで?」
「……、リリ、マリ、リナ……?」
少し目を細めて、嬉しそうな顔をしてから、リリアーナが口を開いた。
「ソフィ。もう。仲間なんだからね? ……頼ってくれなきゃ、嫌だよ?」
「……、わかってるよ。ありがとうね」
「ねえ、ソフィアのこと、呼び捨てで呼んでていいの?」
「え?」
エベリナたちの後に部屋に来ていたサウルを除く八人の中で、クララが聞いてきた。
「だって、住民と、長、だから」
確かに、ちょっとおかしい……か? 今日はやたら呼び方について言われるな。
「別に、どう呼んでもいいんだけど……」
「私たちは、敬語を使いたいなぁって」
さっきまで黙っていたルアンナが言った。
「な、なんで?」
「私たちだけ、浮いてるんだもん」
そういうものだろうか。別に気になるほどじゃないと思うんだけど……。
「男の子は、ちょっとまずいみたいよ。気があるんじゃないかって、大喧嘩になりかける」
ああ、そういうことか。まあ、喧嘩になったら困るな。でも、いきなり変えるのもどうだろう? って、ああもう! よくわかんないよ。
「好きにしてもらって構わないよ」
「ありがとうございます。ソフィア様」
それもどうかと思うけど……。
「ところで、迷惑じゃないですか?」
「全然。むしろ、暇だからいいんだけどね」
にっこり微笑むと、男の子組が頬を少し赤く染めていた。あれれ……?
「ソフィア様は、俺たちのこと、友達だと思ってたんですか? 身分違うのに?」
「だって、友達は友達だよ? 身分とか、関係ない」
実際、命令に従わない使い魔もいるし。あんまり実感ないんだよなぁ……。
「よければでいいのですが、欲しいものがあるんです」
「ん、なあに?」
フェリオスは、後ろに飾ってあった私の似顔絵を指差した。
……。えっと、どういうことだろうか。あれは、絵が上手いという桃色魔法衣のうちの一人が書いてくれたものだ。大量に書かれて、処分に困った代物。
「……持っていけば?」
「おお! ありがとうございます!」
なんだか、関係がわからなくなってきたぞ?
「ソフィア様! フェリオスがソフィア様の絵を持っているというのは本当ですか?!」
みんなが帰ったあと、サウルが飛び込んできた。さっきの絵のことかな?
っていうか、サウルは仕事してたんじゃなかったの? なんで飛んできた。
「なんで……? フェリオスなんかに……」
私って、どういう立場なんですか? エルフは女の人が多いし、奪い合いになるのは男の人だ。
「欲しけりゃあげるから。ね?」
困ったな。ジェイドにフェリオスにサウル。たしか、ヴェリもそんなようなだった噂が……。
ちょっと! どうすればいいんですか、これぇ?!




