第二十話 みんなのためなら
今日は振り分けが決まったので、パーティらしい。
おかげで、どこの目立ちたがり屋の女王だよ! というような派手なピンクのドレスを着て、舞台の袖で動けなくなっている。
ちなみに、となりにはナタリアとニコライ。私の召使いみたいになっている。
「ねえ、これ、どういう状態?」
「あはは。ソフィアはいいんだよ。主役だから」
「ソフィア様! お綺麗です!」
すごい嬉しそうに飛んでくるジェイド。なんだか知らないが、常に一緒にいる。わかる? つまりだよ、部屋にまで入ってくるんだが?!
別に凄く嫌で出て行って欲しい、ってほどじゃないんだけどさ。偶には一人にさせてくれ。
「ねえ、ジェイド。私、ジェイドの主人だけど、一緒にいてなんて命令してない」
「ふふふ。ソフィア様と一緒にいるのは、主人ですから当然です」
まともに聞いてくれません。
「それより私、ちょっと狩りに行ってきますね。離れますけど、大丈……」
「大丈夫に決まってるじゃない! さっさと行ってきなさい?」
笑いながらシナモンを連れて狩りに行った。仲いいな。結構いつも一緒にいる。
「じゃあ、ソフィア。そろそろ会場入りしようか」
私はあのあと、会場に連れて行かれ、クララが演説をして、拍手され、みんなにお祝いを言われ、大きな椅子に座らさせれ、おしゃれな料理が運ばれ、なんだかわからぬまま歌を見せられ、踊りを見せられた。
なんとなくその歌を聴いていると、急に大きな音で警報がなった。この音は、確か。
「侵入者だわ!」
クララが叫んだ。ちょっと待て、今?! 私、まともに動けない!
「あぁ、もう! 私も行く。ナタリア、手を貸して!」
ナタリアは少し困った顔をしたが、私の手を引いて走り出した。
「あれれ? パーティやってたのに、来てくれたんだ」
綺麗な顔をした男の人。私はすぐに違和感に気がつく。
「す、素敵……!」
「なんてカッコいいの……?」
コイツは魔族の夢魔、インキュバスだ。女の人を虜にしてしまう。
どうしようか……。え、私? ずいぶん前にジェイドがくれたお守りの効果みたい。
『ソフィア様は、私が守りますけど、傍にいられないときは、これを』
『何? これ』
『私が魔法をかけたんですよ。効くと思います。魔族に気をつけて』
その時は『魔族』の事、ダークエルフのことだと思ってたんだけど、インキュバスのことだったんだ。
男の人はほとんど狩りに行ってしまったし、サキュバスがいないとも言い切れない。サキュバスは、逆に男の人を虜にしてしまう。
「男の人も、下がっていて。サキュバスがいる可能性もある」
私は言って、みんなを下げさせた。
「さて、と……。随分荒らしてくれたじゃない」
「なんのことだい? 俺は命令に従ったまでだ」
とりあえず、みんなにお祓い。
「あら、私たち、今何を……?」
で、まともに動ける私がさっさと倒してしまおう。私は魔力を解放する。
「みんな、下がってて」
最近練習している超上級魔法を試してみようではないか。
「噴火」
下からマグマが吹き出して、インキュバスは大きく吹き飛ばされた。
「雹」
直径五センチの大粒の雹を大量に降らせる。ガラガラと大きな音がしていつの間にかマグマが消えて雹が降る。
「滝!」
大きな滝を出現されたように、大量の水が降ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。どうよ?」
「こ、これは、すごい嬢ちゃんがいたもんだな」
よろよろと立ち上がったインキュバスを見たとき、私はドキっとした。
私の、一番の弱点だと思うもの。大切だけど、ここでは困る。人が殺せないこと。人にとどめが刺せないこと。
傷ついた人を見ると、ドキっとして、可哀想って思っちゃって。これ以上痛めつけたくないって思って。もう終わりにしたいって、思っちゃうから……。
「どうした?」
「もう、こんなことしないって、約束できるなら、殺さない」
約束すると、言って欲しかった。
「バカ。主人に殺されるよ」
インキュバスは、何の迷いもなく私の脇腹をナイフで刺した。
一瞬のことで何が起きたのかわからない。気がつくと、返り血で染まった顔をぺろっと舐めてにやりと笑うインキュバスの顔があった。
脇腹を触ると、ねとっと嫌な感触が伝う。これが嫌だったのかな? なんか、そこまで嫌じゃないな……。
「けほっ、かはっ」
口から赤い液が溢れる。でも、私が守らないと、この子達じゃ……。両手でくっと血を拭い、力を込めて立ち上がった。
「あ、んた。何を、考えてるの……?」
「なんにも。いや、主人の命令は考えてるさ」
「可哀、想、な、やつ……」
いけない、フラフラしちゃって、立ってらんない。ガシャっと大きな音がした。私が寄りかかった先の音だ。なんだか、水の中にいるみたいに、声が遠く聞こえる。
「あんたなんかに……、この子達、渡さない」
色素の薄い髪が首に張り付いて。いつもなら、気持ち悪いって思う。でも、今はなんとも思わない。それくらい、感覚が無くて。
いつも隣に居て、守ってくれるって言ってたのに、こんな時に限っていないなんて、ほんと、馬鹿……。
「ジェイド、早く、帰ってきてよ……」
「何? 恋人?」
首を縦にも横にも振れなかった。なんて言っていいか、わからない。
「ジェイド……。どうして、こんな時に、いない、の……? 助、けて……」
私の意識は、そこで途絶えた。




