最終話
「ソフィア嬢、お手紙ですわ」
「ゆきちゃん、ありがとう」
「ダイアナ様と、娘さんからですわよ」
フェリシアから? 久しぶりだなぁ。ダイアナも久しぶりだ。
まず、ダイアナからと思われるゴージャスな紫色の封筒を開ける。
ソフィアさんへ
お久しぶりです。ソフィアさん。今日わざわざ手紙を書いたのは、わけがあって。
うーん、ソフィアさんは、もうたくさん子どもがいるから忙しくて来れないかな? でも、一応。連絡したいから。
結婚式をやるんだ、私の。
遅くてごめんね。もっと早ければ楽だっただろうけど。
使者が詳しい日時を伝えに行くから、待っててね。
じゃ、来れたらよろしくね。
親友ダイアナより
ああ、ダイアナ、やっとか。
ずっと前から恋人がいたのに、恋人のままだったんだもん。
にしても、結婚に踏み切ったのにはわけでも? まあいいか。
ダイアナが幸せになったら、私も嬉しいし。
さて、次はフェリシアか。私は桃色の封筒の封を開け、同じく桃色の便箋を取り出した。
親愛なるお母さまへ
お久しぶりです、お母様、フェリシアです。お元気ですか?
前に送ったのは三年前でしたっけ? その時は、拠点の家を買った報告でしたよね。
今度は、もっと大きな報告なのです。
実は、恋人ができました。結婚前提でお付き合いさせていただいてるんです。
もしかしたら、そのうち、招待状を送る事になるかもしれませんね?
ニッキとシナは元気ですか? もう四十? 獣人では、おじさんとおばさんじゃないですか。あ、これ、見せないでくださいよ?
私ももうすぐ三十です。やっと成人ですね。でも、まだ子供みたいな気分です。
お母様が結婚したのは、もっとずっと前なんですよね。まだその年じゃ、結婚なんて、考えてもいなかったのに。
でも、転生者だったから、私とは違うかもしれませんね。私には、良く、分からないけれど。
ああ、あまり長く書くと、久しぶりに会いたくなってしまうから、この程度にしておきます。お返事は良いです。また、冒険に出てしまうので。
お母様の愛娘フェリシアより
「ふふ……。元気でやってるみたいね」
「どうしたんです? ソフィア」
「フェリシアからの手紙。そうね、ニッキとシナはもう……」
「まあ、エルフではありませんからね」
ニッキがいじめる、なんてシナがよく騒いでたあの時から、もう三十年も経つのか。早いなぁ。
本当だったら家を継ぐはずの、私そっくりなフェリシアは、冒険に出ているし……。なんだかなぁ。
『私は、この国の女王にはなりません! レルフィアの女王は、永久に、お母様ソフィアが務めるべきです!』
こんな事を言って全国民の度肝を抜いたのはもう五年前か。あの時はびっくりしたけど、死なないし、それも可能なんだよなぁ、なんて思ってしまった私もいるわけだし……。
それに、結局行けなかった獣人の国に私が行けるように、と言って、拠点を獣人の国に構えたフェリシアの優しさ。ちょっと変わってるけど、本当にいい子だと思う。雪女の大陸へのツアーチケットも手に入れて送ってくるしね。他の勇者の分も含め。
フェリシアは、私そっくりのクリーム色の髪が特徴の子。青い目も、私と同じ色をしてる。けど、黒い翼があるのは、ハーフだからだね。
私と違うのは、フェリシアが可愛らしい『淡い』桃色の魔力を持っている事と、垂れ目だ。何処から来たのかなぁ……。
あ、あとは、性格も。おっとりしててマイペース。にもかかわらず、言うべき事、言いたいことははっきりと言う。
「そう言えば、ゆきちゃん、年数重ねても、姿変わらないよね」
「あの子は、戦場に連れて行きましたから。多分、一緒に」
「そう、だね。シナが必死にゆきちゃんの真似しようとしてた時の事が懐かしいよ」
ああ、シナと言えば。フェリシアが冒険に出る時に言った言葉は、今でもはっきり覚えてる。
『私、フェリシアが羨ましいですわ。私がどんなに頑張っても、所詮、養子だと思われてしまうのですから』
『えっ? シナお姉さま?』
『いえ……。ああでも、忘れないでくださいまし、私の事。本当は私、フェリシアの事怨んでいましたけれど。今は、ちゃんと愛していますわよ』
気づかなかったんだけどなぁ。シナ、私の本当の娘になりたかったんだ。みんなからは『女王様の養子』って言われるの、嫌だったんだろうな。
だからあんなに、王女らしく、お淑やかな女の子を目指してたのか。本当の娘に見えるように。
それに、どんなに頑張っても、先に死んでしまうのは、分かってた。でも、せめて。短い間だけど、私を喜ばせたい。
「母上? どうかされました?」
「あ、シナ。シナは、これでいいの?」
「はい? 何の事ですの?」
「いや……。獣人で、いいのかなって」
エルフになることだってできる。使う事を許可できるのは、私だもの。
シナはしばらく考えた末、そっと笑って言った。
「えぇ。私には、このほうが向いていると思いますわ。ニッキがどう思うかは別ですが」
「……そうだね。なんだか、ごめんね」
「いえ、母上のお心遣いだと言うのは、分かっていますわ。でも、お心だけ頂戴いたします」
シナ、本当に良い子になって……。誇らしいよ。本当に。
それに比べて、ニッキは未だにヤンチャなんだ……。大人なのに、時々子供っぽいって言うの? もうこれ、どうしてくれよう。
「父上、永久に母上の事、愛してくれますわよね?」
「え? あ、えっと……。ソフィアが望むなら、もちろん」
「ふふ……。では、報告いたしますわ。私、妊娠しましたわ」
『え?!』
え、今!? 嘘……。もう作らないのかと思ってたよ。
私たちは慌てていると、そっと微笑んで言う。
「もしかしたら、亡くなってしまうかもしれません。この年ですから……。ですが、私には、おろす気はありませんわよ」
「シナ……。そう、そういうことね」
「ですから、愛すると言った以上、守らなければ、祟りますわ」
そう言い、シナは胸の前で両手を構え、お化けのようなポーズをしてみせる。
ふふ、シナの事だから、本当にやりそうで怖いよ。でも、それも、まだ、笑ってられる。
「あっ、ノア。待って」
「シナさん、お父さんとレオンさん、待ってるよ」
「あら。ニッキ、ノアくん、呼んで下さってありがとう。では、母上と父上も。一緒に」
ニッキには、もう息子がいる。ノアっていう子。今十歳だっけ?
ちなみに、ニッキのお相手はマリン。猫と犬のハーフって……。って思ったけど、問題なく猫になった。ってあれ? 何故?
で、シナの相手だけど……。レオンなのだ。どうしてそうなったのかよく分からないのだけれど。
私もなんだかんだで忙しかったから。こんなことになっていたなんて気付かなかったわけで。本当にびっくりしたよ。
「ふふ、今日はノアの誕生日ですものね。ゆきちゃんもそちらに行っているはずですわ。あとは母上と父上ですわよ」
「わかってるよ。じゃ、行こうか」
「ええ。ノアくん、大きくなりましたね」
幸せは、親から子へと受けつがれていく。
私たちは、それを、ずっと見続けていく事になるのだ。いつまでも、終わらない幸せを。
皆さん、今までありがとうございました! やっと完結です。いや、意外と短かったかな・・・?
まだまだ下手なボクなのに、思っていたよりたくさんのブックマークがあって、本当にびっくりしたものです!
今まで、本当にありがとうございました。