第百二十九話 魔力解放
そこに居たのは、アリシア、セシリア、エステル、マルセル、それと、桃色魔法衣のみんな。
「う、嘘! どうしてっ?! アリアン、みんな!」
「ダークエルフを解かれても、魔王様への忠誠は変わらないのですからね?」
「演技をしていただけ。まんまと騙されましたね」
「じゃあ、なんで?! どうして、私なんかに……」
酷いよ、そんなの。みんな、私の事を尊敬して、付いて来てくれてたんじゃないの?!
もう、何が本当で、何が嘘なのか分からないよ? いったい何を信じればいいの?!
「ソフィアちゃん。きみはこの子たちを殺す事が出来るかな?」
「あう……。それは……」
「この子たちは、どう思ってると思うかい?」
みんなの杖は、明らかに『私』を向いている。ここに居るみんなは、確実に、私と戦う気でいる。つまり、この子たちは、私の敵だ。
でも、私に忠誠を誓う、かわいい弟子みたいな存在だったのに……。
もはや、どうしていいのか分からない。私は、この子たちに杖を向けなくてはいけないっていうの?
「私たちは、ずっと、復讐の時をねらっていたのですよ」
「そんな……。そんなの、気がつかなかった」
「ソフィア様の事は、信頼してましたけど、それでも、魔王様の方が正しいと思います」
何が、正しいって……? そんなの、分かるわけないじゃない!
この世界に、正しいも正しくないも無い。それも含めて、全てを捻じ曲げてしまうのが、魔法なんだから。
確かにね。アリシアを見た時に、魔力がそっくりだったから、少しは気づいてたよ。
アルラウネとかゆきちゃんも、桃色魔法衣には近づかなかったり、ちょっと警戒してる時もあったから、それでも分かってた。
だけど、信じたくなかった。だから、何もしないうちは、気にしてなかったのに!
「じゃあ、私と戦うってことかな……」
「そうなります。ソフィア様には、たくさんの事を教えていただいていますし」
『負けるつもりはありません』
酷いよ。
私は、敵を育ててたっていうわけ?
私は、敵になる人にたくさんの事を教えてあげてたっていうわけ?!
「もう……。もう分かんないよ! いったい、私は誰を信じればいいの?!」
「そ、ソフィ……」
エベリナ、リリアーナ、マリアの三人がそっと俯いた。これが、演技かもしれない、なんて考えちゃう私が怖い。もはや、私に味方なんていないのかもしれない……。
でも、それでもいいや。もう、なんだっていいのさ。
「ジェイド……。解く。制御、頑張ってね?」
「えぇ?! ソフィア様、それはまずいんじゃ……」
「もう、なんだっていいんだよ! ……味方を巻き込むかは、ジェイドにかかってるから」
「そんなぁ……。全部私に投げないでくださいよ……。いや、分かりました」
私はいつもの様に魔力を開放させる。これだったら、制御はである程度できる。
それに加えて、建物を保護しながら、というのも可能。もっといえば、魔力の波動をアリシア達だけに当てる、なんていうのも、ある程度は可能だ。
けど、問題は次。もう一段階、解放をする。
私は今まで、本当に全魔力を解いた事など、なかったらしい。
実は、人の体の中の魔力は、五割、つまり半分は、眠っているらしい。能力の、半分も使えていないのだ。
それを、解放できるのが、勇者。私は勇者魔法に目覚めてから、全魔力解放ができるようになっていた。
けれど、問題がある。何回かやってみようと思っていたのだけれど、結局、全部は解放出来なかった。
なぜなら、途中で、魔力に飲み込まれてしまうからだ。私ではない何かが、私の体を乗っ取ってしまう。
そうなれば、私には、もう、何をしでかすか想像すらできない。
これは、普段ひょっこり出てくるソフィアの人格以上に危なくて、制御ができない。私には、もう、どうする事も出来なくなってしまう。
ただ、一回解放してしまえば、解く方法を見つけることは出来るだろう。ただし、それまでの間が問題なんだ……。
私は魔力を開放する動作に入る。出来れば、一気に解放したくないのだけれど、この場合、それが効かない。全ての魔力を、一度に解放するしかない。
でも、五割か……。私の魔力の倍の量。私も、想像できないよ。ただでさえ、馬鹿みたいに魔力持ってるのに。
でも、多分、この子たちと戦うには、これしかないよね。このままじゃ、戦えない。さあ、暴れまわって。
本当の『ソフィアちゃん』?
知っているんだよ。前のループのソフィアが、どんな人だったのか。聞いてるんだから。
残酷で、冷酷。人を殺すことに、何の躊躇も覚えない。
だけど、仲間を大切にする。仲間を殺された時の怒り様は、想像を絶するものだったとか。
あ、あと、両親が好きだったらしいね。これも、たまに見える所がある。
もう、だいぶ魔族に対して怒ってるんじゃないかなぁ?
リーダーのみんなも、さんざん傷つけられてるし、もしかしたら、シナモンも。あの医者、グルだと思うよ? ほら、どう思う? ソフィア?
さて、準備はこんなもんか。出来るだけ制御できるようにはしたけど、無理だろうなぁ……。
でも、いいよ。もう、どうだっていいのさ。巻き込まれたらそれまで。
「全ての魔力を解放。さあ、出ておいで、ソフィアちゃん!」