第百十一話 1人で冒険!
さて、冒険を始めよう。朝六時。私はいつもよりずっと早く起きて準備を始める。
移動魔法って、ほんと便利。どこに行こうかな、行きたい所は……。
「着いた」
移動魔法を使って飛んだのは、小人の国王がいる街だ。うん、一瞬で着いたよ。
イメージすることで、飛ぶ事ができる。だから、行った事のある街なら大丈夫だ。
何となく国王の顔を浮かんだ私は、その街を必死に思い出して飛んでみた。
うまくいったようで良かった。失敗して変なところに飛んだらたまったもんじゃない。魔力の無駄だ。帰れない事はないと思うけど。た、多分。
「あれ?! レルフの勇者さん? ソフィアって言ったっけ」
「王様。お久しぶりですね」
「1人なの? 珍しいね」
そう、みんな置いてきた。多分まだ気づいていないだろう。
いつ気が付くかな? でも、ジェイドだって、どこに行ったのか分からなければ追いつくはずもない。
ということで、久しぶりに1人で。追手が来たら……。まあ、その時考える。
こっちのほうが、身軽で気楽でいいんだ。好きなこと出来るし、何をやるにも許可がいらない。
例えば、誰かに戦い申しこまれても受けてやろう。それくらいの余裕は出来る。
まあ、滅多に申し込まれることはない。私に勝てるやつはそういないからね。分かりきってるんだろう。勝てない、と。
「強い魔物なら、崖の方かな。1人だと危ないと思うけど」
「そう、ですか……。どうしようかな……」
「まあ、ベテランは1人で行ってるみたいだけど。行くなら気をつけて」
ベテランが行けるなら、私も平気か? って、ベテランってどれくらいのこと言ってるんだろう。
あと、一人で行くって、準備はどれくらいだろうね? 持ち物にも、結構左右されるし。
「とりあえず行ってみれば? 勝てなそうなら帰っておいで」
来てみました。
確かに、大きな魔物がいる。ドラゴンだ。
この崖を巣にしてるんだろうか? ここに居るのは1匹だけど、実際、ここにはたくさんのドラゴンがいるそうだ。じゃあ、ほかのドラゴンはどこに居るんだろう。
海の傍だからか、青い、水属性のドラゴン。なんだか、とっても綺麗な色。
こういうのが仲間に欲しいんだよね。属性的に、アルラウネとは仲良くできそうにないけど。
試してみても良いけど、仲間に出来るかな? 結構強そうだし……。厳しいかも。
様子を見ていただけだったけど、見つかってしまったので、攻撃する事にしよう。自分に援護魔法をかけて地獄草。
ちなみに、アルラウネができたからって、地獄草が使えなくなるわけではない。ちょっと弱くなった気がするけど、気のせいか?
とりあえず、根が強くなるように設定して養分を吸い取る。うーん、あんまり効かなかったかな?
今までの経験から知っている。ドラゴンの攻撃は、相当重い。防御魔法を使っても完全には防ぎきれない。
だから、避けた方が良いだろう。援護魔法のおかげもあり、それは楽にできる。軽く跳んで後ろに避ける。いや、軽くのつもりだったんだけど、結構跳んだようだ。
そこから猛火。でも、水のドラゴンだからあんまり効かないか。
ドラゴンの爪を避けつつ、私は霹靂を放つ。こっちの方が明らかに効果がある。
けど、魔法を撃った時、そのわずかな隙に、爪はぐさっと腿に刺さった。
「う、うわああああ!」
あまりの事に慌てて、パニックになった私は何故か霹靂を乱射した。
ドラゴンは倒れた。けど、この傷どうしよう?
「あっ、ああっ、痛い……」
どうしたらいいのか分からない。もっとちゃんと回復魔法の練習しとけばよかった? 適性が無いんだ、仕方ないだろう?
それとも、いっそのことここに来なければよかったんじゃないか? もう、そうしてればよかったのにといっても、遅い。
とにかく、落ち着くまでは移動魔法を使えないだろう。短距離ならともかく、長距離の移動魔法は高度な魔法。適当に願ったんじゃ成功しない。
でも、ここに居たらまたドラゴンに見つかってしまう。どこか、隠れる場所はないのかな。私はあたりを見回しながら、左足を庇いつつ歩きだす。
足を怪我しているわけで、歩くのも結構大変。うっかりバランスを崩したら。
「! きゃあああ!」
崖から滑り落ちた私は、冷たい冬の海の中へ。
さすがに泳げないわけないけど、この状態じゃ泳ぐなんて無理だよ!
流れは速いし、足は痛いし、急に落ちたから、何の準備もあるわけない。
なんで一人で来たんだろう。私は馬鹿か。っていうか、ベテラン、どうやって倒したんだよ。私より強いってあり得ないよね? どうして?!
海に落ちた時に岩に頭をぶつけたせいなのか、目の前の水がどんどん赤く染まる。腿の治療も、出来なかったし。こんなところで、何やってるんだか……。
溺死かな、出血死かな? あ、凍死って言うのもあるね。
そんな馬鹿な事を考えつつ、私は海に流されていく……。
「ねぇねぇ、あれ、みてよ」
「あれ? アストレイアーの言ってた子?」
「ちょっと見てみようよ」
海に棲む者たちは、ゆっくりと彼女に近づいて行く。
「さて、この子はどの程度の価値があるのかな?」