第百三話 レルフィアの人間関係
「お願いします、ジェイド様! 話を聞いて欲しいんです」
「あ、酷い! 私もお願いします!」
「ダメもとで良いから!」
あれから数カ月。魔族はエンドレスでやってくる。
もしかしたら、隙を作ろうとしているのかもしれない。とにかく、みんな疲れてはきた。
いつ死んでしまうか分からない。そんな状況のせいか、ジェイドの周りにはいつも人がいる。
……まあ、何をしようとしているかは、男女比で分かる。つまりは、告白タイムってことだろ。
「えぇ……。聞かなきゃだめですか?」
「お願いします!」
ジェイドは助けを求めるようにこっちを向いた。一応首を横に振っておくと、ちょっと残念そうな顔をする。
でも、これをどうやったら鎮められるって? っていうか、ジェイドが私のそばを離れてくれるから結構私はこのままでも良いけれど?
「そんなぁ、ソフィア様ー!」
ジェイドは強引に連れて行かれた。断末魔みたいな声が聞こえてきたけど、まあ無視しよう。って、本当に毎日毎日……。良く飽きないものだ。あんな奴のどこが良いんだろう。
確かに、悪魔だし、顔は結構いい方だろう。
でも、エルフだってみんな整った顔をしている。種族がらだ。
あいつの性格の悪さを知らないからのんきなことやってられるんだろうな。
「ちょ、リリアーナ、また来たの?」
「んー? いいじゃなぁい」
「付き合わされる私たちのことも考えろよ」
最近、リリアーナはよくレルフィアに来る。まあ、理由は明確。視線の先。
フェリオスとレオンが稽古中のようだ。最近は、そんな姿はよく見る。
で、リリアーナは、フェリを気に入ってしまったようで。
「あんな剣、良く振れるなぁ。かっこいいよねぇ」
「リリ……。どうしてよりによって……」
「それに、彼はソフィに夢中だよ」
まあ、そうだろうな。あいかわらず、遠回しに何度か試みてるようだけど、一応すべて回避しておいた。リリアーナのことは、多分見てない。
フェリオスだけじゃなくて、レオンも、ヴェリも、サウルもやってくるんだ。迷惑極まりない。
仕方ないよね。こうなっちゃったら。いつ死んでしまうか分からないって思ったら、今しかないって思ったら。こうなるわけだ。いまや、国の中ではカップル数急上昇中だよ。
「お姉ちゃん、大変だね。ひとり分けてよ」
「出来たら苦労しないよ。マリンはいないの?」
「うーん……。ほら、エルフって長生きだし、私とじゃ、さ」
まあ、確実に先に亡くなることだろう。戦死じゃなければ。
この村のエルフは割と若い人が多いしなぁ。マリンには合わないか。
「それより、ジェイドさん、すごいね。さっきも、ほら」
「みてたの? すごい勢いで連れてかれてたね」
「インディゴさんとか、スカーレットさんもだよ。クララちゃんたちも結構すごいけど」
まったく、この忙しい時期に……。私は出してもらえないしさ。
「あれ、ゆきちゃん。どうしたの?」
「あ、お姉ちゃんの雪豹」
真っ白な猫くらいの大きさの雪豹がこっちに歩いてくる。口には、手紙のようなものが。
これを渡しに来たようで、口の手紙を私にぐいと押しつけた。
レルフィアの女王、ソフィア女王
我は、魔族の王、つまり魔王だ。
そろそろお目にかかりたいと思い、手紙を渡すことにした。今読んでいるなら、届いているだろうな。
今から一年後、城まで来い。来年の秋に来てくれれば、それで構わん。
約束は、果たすように。
「なっ……?!」
「何が書いてあるの?」
マリンは読むと、呆れたような顔をする。
まあ、わざわざこんな手紙を送ってくるなんてね……。準備は出来るけど。
って、なんでゆきちゃんが持ってきた? どこにあったんだろう。
そんな事を考えていると、ゆきちゃんはもう一枚、私に紙を渡す。
手紙は届きましたか? 門の前に落ちていましたので、届けるように言いました。
スカーレット
「あ、なるほど。ありがとね、ゆきちゃん」
「にゃーあ」
「可愛い……」
マリンはゆきちゃんのことを気に入ったか。抱きしめてるけど、まあ、私が躾けたから、何があっても引っ掻いたり、噛むようなことはないだろう。
私はその場を後にする。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「お前こそ何があったんだよ?!」
あの戦いのあとから、ナタリアがニコライにべったりだ。
私にとっては問題ないけれど、ニコライにとっては大問題。妹が離れてくれないんだからな。
「ナーターリーアー」
「はっ?! なんですか?」
「ううん。ずいぶん楽しそうだなって思って」
「なっ?! 別に、そんな気は全くありませんけど?」
なんか、レルフィア中で人間関係が……。
まあ、ほどほどにしてくれれば、何をしたって構わないけどさ。
ただ、ちょっと、なんとなく、ジェイドに近づいて欲しくないような気もするけど……。なんでだろ。