表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

新星激突

 開幕の雷光刹華をあっさりと防がれ、大和は笑みを深めながらその相手、周防を見る。

 周防も大和を相手と認識しているのか、大和に対して隙無く杖を構えていた。


「開幕の速攻技。なぜそれが上位ランクの試合で行われないか分かりますか?」

「誰でも使える。逆に言えば、誰だって止める方法があるってことだろ? 今みたいにな」

「そう言うことです。つまり――」

『京間様!』『大和!』

「神風流し!」「雷光刹華!」


 二人が同時に魔法を発動させる。

 周防は文字通り、神速でレグルスを振り抜き、その鎌で大和の首を狙う。大和はそれに雷速で対応し、イクリプスで受け止めた。

 ただそれだけの動作だが、お互いの速度が生み出した衝撃波で、周りの空気が大きく揺れる。

 一秒にもみたいない時間に、数度の打ち合いをしたのち、大和たちはどちらからともなく距離を取る。

 その時点で、二人の手には次の魔法が構築されていた。


「雷砲・小葉の髄菜!」「風撃大砲!」


 やはり同時に放たれた魔法は、雷砲と風撃がぶつかり合った瞬間、お互いの進行向きを上下へと変え、地面と天井を大きく穿つ。

 フィールドのブロックは雷砲により破壊されて宙を舞い、風撃によって天井の照明が一つ破壊されて落下する。

 ただ、施設の装備が壊されたからと言って、試合が中断することはない。

 そもそも死なないように結界が展開されているのだ。それさえ消えなければ、頭上からの落下物に当たったとしても、死ぬほど痛い思いをするだけで済む。

 そもそも、それすら避けられないならば、ランク上位の人とは相手にならないのだ。

 落下してきた照明は、フィールドのブロックを破壊しながら爆発を起こす。

 フィールド中央で巨大な爆発が起きているのにも関わらず、両サイドで戦っているチームメイトたちは、自分達の戦いに集中していてこちらを見る素振りも無い。

 フィールドの中心部分が爆発の煙で覆われ、大和と周防の間に壁を作った。

 二人は躊躇なくその煙の中へと同時に飛び込む。

 もしここでどちらかが動かなければ、突然煙から飛び出してきた的に対して、防戦一方になっていただろう。いかに初撃を決めるか、相手を自分のペースに飲み込むかが試合の鍵になることは両者とも理解できていた。

 お互いの実力が高いと、試合が一瞬ということも多い。一度ペースに飲み込まれると、確殺の状況まで一気に持って行かれてしまう流れを持っているからだ。そこから抜け出すのは、至難の業である。

 だからこそ、大和も周防も煙に飛び込む。

 ガキンと一度大きな音がして、煙から両者が出てきた。ちょうど、お互いの位置を交換したような状態となり、頭上では大和には左肩に、周防には右太ももに殺傷のダメージ判定が出る。

 お互いが通過したことで、滞留していた煙が動き、場内の換気扇も相まって、煙が少しずつ晴れていった。


「それが第二ランクの力か」

「まだまだこんな物じゃありませんよ」

「そうでなくっちゃ、面白みがねぇよな!」


 ファイアボールとサンダーボールを打ち合いながら、二人は接近する。

 お互いの魔法が顔をかすめる距離を通り過ぎ、次に杖をぶつけ合う。


『京間様、行けます』『大和、かましちゃえ!』


 愛機たちの合図に、一歩だけ距離を取って発動言語を詠唱した。


「風刃纏い!」「雷縮装槍!」


 周防の魔法で、鎌の部分に風がまとわりつき、一回り大きな風の刃が形成される。逆に、大和の魔法は、杖に雷を纏わせて、全体を輝かせる。

 そして再び激突。

 巨大な風の鎌を、足元から振り上げる周防に対して、大和は正面からイクリプスを振り下ろした。

 ガキン!と激しい音がして、両者が後方へと吹き飛ばされる。

 両者は衝撃を殺すように後退しながらも、常に相手の動きを観察し、隙あらば飛び込もうという様子だ。


「さて、そろそろ行きますよ」

「叩き潰してやるよ!」

「レグルス、A3スタンバイ」

『二秒後、完了します……2、1、どうぞ』

「イクリプス来るぞ、構えとけよ」


 レグルスへの指示を聞いて、大和の表情から笑みが消え、真剣な物となる。

 周防の指示したA3というコマンド。それが周防がイングランドバベルで第二ランクまで登る事の出来た理由の一つだ。

 光速で流れる戦闘の中で、素早くレグルスと意思疎通するために考えられた暗号である。

 アルファベットと数字。それぞれに意味を込めて、数多くの戦闘パターンにレグルスの魔法を準備させておくのだ。

 指示を待たず、状況を見極める前に魔法の構築が完成するため、相手との反応速度に大きな違いが出てくる。

 それがコンマ数秒の世界であっても、高速化している戦闘の中では勝利への重要な一手になるのだ。

 しかし、これはかなりのリスクを背負う戦法でもある。

 AIが状況を見極める前に魔法を構築すると言うことは、もしその状況にならなかった場合、構築した魔法を一度解除して、新たに魔法を組まなければならなくなる。

 魔力の消費も、構築の時間も大幅なロスとなり、上位ランクならば、それだけの時間があれば、確実に倒されてしまうだろう。

 そんな危険な技を使ってこれたのは、一重に周防の実力ゆえである。


「竜巻」


 周防が発動言語を呟き、フィールド上の風が乱舞し竜巻を形成する。

 大和は、攻め込むか迷っている様子だ。槍に雷を纏わせた状態のまま、周防の様子をうかがっている。

 次第に竜巻は強くなり、立っているのもやっとと言う状態になった。

 大和の足もとが一瞬浮かぶ。その瞬間を見極めて、周防が動いた。


「風紛れ」


 そう言って自らの発生させた竜巻へと体を飛び込ませる。瞬間、大和の視界から周防が消えた。


「どこに……『大和後ろ!』なっ!?」


 竜巻の中を注目しようとした大和は、真後ろから来る風の音にとっさに反応し横へと逃げる。直後、大和のいた場所を周防の鎌が通り過ぎる。


「よく躱しましたね」


 その声は竜巻の中から聞こえてきた。


「竜巻ん中にいるんじゃねぇのかよ」

「さあ、どうでしょうね」


 膝立ちで構える大和に、再び後方から刃が襲い掛かる。大和は予想していたかのように、その刃をイクリプスで受け止めた。

 しかし、その刃は受け止めた瞬間に風となって無くなってしまう。


「風だけ!?」

『大和、これ魔法だよ!』

「そう言うことか!」


 竜巻に紛れ、自らの姿を消し、攻撃をする一瞬だけ大和の後方へと飛び出す。その瞬間には指示を出すまでも無くレグルスは魔法の準備を終えており、発動だけして即座に竜巻の中に紛れる。

 飛び出すタイミングはいちいち指示を出すことなどできない。それをすれば、その声を聴かれて攻撃がバレる可能性がある。

 周防とレグルスの暗号作戦だからこそできる技だった。


「こうなった私を捕まえられた人はいませんよ。様子を伺ったのは間違いでしたね」


 声を響かせながらも、攻撃が続けざまに放たれる。

 縦横無尽の見えない攻撃に、大和はイクリプスの広範囲感知と勘を頼りに躱していく。

 止まっているのが最も危険だと、竜巻の周りを走るように移動しながら、周防の姿を探すが、竜巻に紛れている周防は全く見つからない。


『このままだとまずいよ、どうするの!?』

「とりあえずこの竜巻どうにかしないとな」


 とは言ったものの、竜巻は近づくだけでも一苦労の代物だ。そんなものを簡単にどうにかできるはずも無く、じわじわと攻撃を続けられる。


「早くしないとそちらのリーダーさんが危ないんじゃないですか?」

「ンな事言われるまでもねぇよ!」


 竜巻の周囲を移動しながら、ちらっとチームメイトの様子を確認した大和。志保は状況的に二人を倒すことが出来るだろうが、姉妹の情勢はかなり悪い状況だった。二人が潰されれば、強者を残した状態での三対二になってしまう。大和としては、それだけは避けたい事象だ。


「イクリプス、突っ込むぞ。開花させる!」

『突っ込む!? うぇ、それやるの!?』


 開花の意味を知っているイクリプスは、思わず驚きの声を上げる。


「ダメージ覚悟! 盛大に自爆すりゃいいってことだ!」

『じゅ、準備完了』

「雷光刹華!」


 槍先を竜巻へと向けて、全身に雷を纏い躊躇なく飛び込む。

 竜巻に突入した瞬間、強烈な風の連打に全身を殴打されるような痛みが走る。頭上のディスプレイでも、大量の攻撃を浴びせられているのが分かるように、全身に赤くダメージ判定が出ている。

 突入して数瞬、風が途切れ、竜巻の中心へと到着する。そこに周防の姿はないが、それは予想通りだった。

 そして新たな魔法を発動させるため、イクリプスに魔力を注ぎ込む。


「くっ……」


 さすがの連撃に、大和も痛みに眉をしかめる。


『あぁもう! やけくそだ! やっちゃえ大和!』

「爆雷開花!」


 発動言語を呟くと同時に、竜巻が眩い光に包まれ、一気に吹き飛ばされた。

 そして、チュドーンッ!っとまるで爆撃でもされたかのような巨大な音が場内に響き渡り、観客席までもびりびりと震える。

 その光景に、観客たちは思わず息を飲む。

 それほどの爆発など、上位ランクであってもなかなか見ることが無いからだ。そして、結界が張られているとはいえ、心配になってしまうほどの物である。


「なんてことをするんですか!」

「ハハハ! さすがに竜巻吹き飛ばされりゃ出て来るか!」


 爆発した竜巻の中心で、大和と周防は杖をぶつけ合っていた。

 両者の服はボロボロになっており、ダメージ判定では全身に火傷や打撲、擦傷などが数えきれないほど表示されている。一般人ならば、痛みで気絶してもおかしくないほどの痛みが二人の体をむしばんでた。

 しかし、その二人ともが、そんな様子を感じさせない動きで、杖をぶつけ合う。


「むちゃくちゃすぎますよ! 下手すれば自爆で終わったんですよ!」

「結果はこれだ! つまり成功したってことだよ! 結果良ければ全て良しってな!」

「結果論過ぎるでしょうが!」


 振り抜かれる鎌を屈んで避け、石突きを突き出す。周防はダンスでもするかのように軽く横に割けて、体を回転させながら、もう一度鎌を振り抜いた。

 それは、大和の杖で受け止められる。鎌のため、その刃が大和の顔のすぐ横まで来ていたが、大和の表情に焦りはない。むしろ、楽しくて仕方がないと言わんばかりに、その顔には笑みが浮かんでいる。


「とりあえずこれで振り出しだな」

「そうでもありませんよ」

「なに?」

『大和、二人がマズイよ』


 大和が苦戦している内に、奏がかなり劣勢に追い込まれていた。響も頑張ってはいるようだが、イマイチ効果が出ていない。


「よそ見の暇はありませんよ」

「くっ」


 注意が奏たちに逸れた瞬間、周防が攻めに出る。それを受けて、大和は下がりながら魔法を放つ。


「電苔」


 それは地面を走り、周辺に広がる雷の波だ。

 床全体を覆う稲妻に、さすがの周防も攻撃の手を休め、後退する。

 少しの距離が開いた所で、響の「お姉ちゃん!」という声が聞こえた。それに合わせるように、視界の隅に奏が転がって場外に落ちるのが見える。その様子に、大和は奏が破れたことをとっさに悟った。


『大和、志保が二人潰したよ!』

「志保! こっちに!」

「分かった」


 ほぼ同時に、志保が魔術師二人を倒したのをイクリプスから聞いて、すぐさま呼び寄せる。今の状態で志保が孤立するのは危険だからだ。

 大和は志保の動きを援護するように、周防の魔法から志保をカバーする。その間に、響が吹き飛ばされ、場外へとはじき出された。意識自体はあるようだが、判定的には死亡判定が出ていて戦線に復帰することはできない。


「大和君、ごめんなさい」

「いい、響は奏を看病してやれ」

「分かりました。後をお願いします」

「任せとけ」


 とは言ったもののと、敵の様子を確かめる。

 大和のすぐ後ろには志保が控え、すでに両手に魔法を待機させている。だが、志保と合流する間にも、周防が麗華と田中と合流してしまった。

 麗華たちは多少疲れている様子だが、ダメージ自体はそこまで多くないのか、まだ平気な顔をしている。

 そうなると、形勢は圧倒的に不利だ。

 どうした物かと考えながら、構えを取れば、足先に何かが当たった。


「これは……」

「奏の杖。滑って来たみたい」


 大和が敵チームから視線を外せないため、少し後ろにいてそれも視界に入っていた志保が答える。

 それを聞いて、大和は笑みを深めた。


「なるほど、つまりこれを使えってことだな」

「どういうこと?」

「ずっと言えなかった、俺のアビリティーの出番ってことだよ」


 つま先で奏の杖を引っ掛けて、自分の手元へと引き寄せる。

 その様子は、勝利への確信に満ちていた。




「確かにあの志保ってこはこれから伸びるかもしれないわね。けど今回は私の勝ちかしらね」

「ああ、この状態から勝つのは俺でも厳しいぞ」


 リリルと郷戸が部屋にドンと鎮座するモニターを見ながらそんなことを呟く。

 マルチマジックによる魔法の連射を見た時こそ、リリルは大慌てで健翔にその方法を聞き出そうとしていたが、試合がリンブルの劣勢になるにつれて、余裕を取り戻してきていた。


「うーん、健翔の予想が外れるとは」


 二人の言葉に、一真もこればかりはどうしようもないかと腕を抱える。

 そんな中、健翔だけが楽しそうに試合の成り行きを見守っている。


「健翔さんの兄弟もイマイチパッとしませんし、あの姉妹は完全に実力が足りていません。志保という魔法使いは凄いですが、私たちのライバルになりえるかと言われれば、疑問を持ちますね」

「ふふ、フルコースの注文してこなくっちゃ」


 もう試合は終わったと言わんばかりに、リリルがソファーから立ち上がり部屋を出て行こうとする。それを健翔が止めた。


「まあもう少しだけ待ってよ。本当に面白いのはこれからだって」

「これからって……確かにマルチマジックは強いけど、あのコンビネーションは抜けないわよ? 大和ってやつも、須郷を押さえるのが精一杯見たいだし、試合は決まったようなもんじゃない」

「そうでもないよ。ほら、大和が剣を持った」


 それは、大和の足もとに落ちていた奏の杖だ。

 その様子に、リリルが眉をしかめる。


「なに? 二刀流になったから勝てるっってこと? 所有者以外の言うことなんて、AIは絶対に従わないし、あれじゃただの棒になるわよ」


 AIの挿入された杖は、AIによって設定された、主人に最適の武器に変化する。もしその状態で主人以外の物が武器を持った場合、ただの白い棒へと変化し、AIチップの挿入口がロックされる。この状態になると、杖を破壊してもチップが取り出せなくなるのだ。これは武器を失った主人への殺傷能力をゼロにするためと、盗難防止のためである。

 リリルも郷戸も一真も、ただの棒に変わると思っていた。

 しかし、画面の向こうで、大和の持ったティアラが変化する様子は無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ