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コンビネーションそして圧倒

「イクリプス!」

『行けるよ!』

「雷光刹華!」

「レグルス、風薙ぎ!」


 開始直後、大和は雷光刹華を発動させ、一気に的の懐へと飛び込もうとした。しかし、大和の魔法が発動するとほぼ同時に、相手の、周防の魔法が大和の行く手を阻む。

 風薙ぎによって放たれたカマイタチは、大和の目の前を通り過ぎて強引に足を止めさせる。そして足を止めた所に、敵チームの魔法が殺到した。


「大和!」

「問題ない!」


 殺到する魔法に思わず奏が声を上げるが、いまだ雷を纏う大和は、殺到する炎弾や氷弾、風の刃を全て躱す。


「ピッツ、こっちも行く」

『どうぞ』

「炎弾、水針」


 相手の魔法が大和によって全て躱され、一瞬相手側の攻撃が止む。その隙をついて、志保はマルチマジックを使い、二種の魔法を新たな魔法を構築しようとしている敵に向けて放つ。

 志保から放たれた二種類の魔法に、魔法使いたちは同規模の魔法をぶつけて相殺した。

 それと同時に、中央で武器のぶつかり合う音が響き始める。奏が前線に到着したのだ。

 奏は予定通り、麗華と田中のタッグに相手を挑む。田中が奏の初撃を受け止め、麗華がその後ろから蛇腹剣独特の鞭のような動きを使って、攻撃を仕掛ける。奏はそれに捕まらないよう、田中とのつばぜり合いを避けて、ヒット&アウェイ戦法で常に動き回りながら攻撃を仕掛け続けた。

 そこに、麗華の挑発が入る。


「ずいぶんと元気に走り回りますこと。まるで野山を駆け回る猿の様ですわね」

「あんたは一歩も動かないなんて、まるで大仏よ。前より太ったんじゃない?」

「ああ、確かに胸周りは最近苦しくなりましたわね。そのせいかしら」

「このっ!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」


 後方から矢を放つ響が、ヒートアップする姉を諌める。


「分かってるわよ! 田中どきなさい! たたっ切るわよ! ティアラ、火炎装武」

「守るのが俺の仕事だ。アルタイル、金剛仁王」


 ティアラの刀身から炎が噴き上がり、田中の体が淡く輝く。

 噴き上がる炎によって加熱された刀身は、触れる物全てを焼き斬るように赤く染まり、田中に向かって振り下ろされた。

 田中はそれを、アルタイルを使わず、自らの腕で受け止める。

 観客は一瞬、田中の腕が吹き飛ぶのを幻視しただろう。しかし、田中の腕はガチンと腕とぶつかったとは思えないほど重い音を立てて、ティアラの斬撃を受け止めた。


「相変わらず固いわね」

「お嬢様には触れさせない。それが俺の今の仕事だ」


 恵まれた体躯と、魔法による身体強化。それを使った防御スタイルの田中は、このバベルでも有数の防御力を誇る。

 その防御を抜くには、トップランクのメンバーでも苦労すると言われていた。


「けどそれを通すのが、私の仕事よ! 炎爆!」


 田中の後方から、麗華が蛇腹剣を振るのを見た奏は、魔法によって田中と触れている刀身部分に爆発を発生させる。田中は一歩だけ下がり、奏は衝撃を利用して蛇腹剣の攻撃範囲外へと避難した。

 当然田中は追撃を仕掛けようと前に出るが、その出だしを響の矢が飛来して潰す。


「シルバリオン、ヒールを」


 田中の足が一瞬止まるのを見た響は、爆発の衝撃をもろに受けた姉にヒールを飛ばし、そのダメージを回復させる。

 回復魔法+3のアビリティーを持つ響のヒールで、奏の火傷やかすり傷分のダメージは瞬く間に治療された。


「ありがと」

「サポートは任せて、お姉ちゃんは全力で」

「突っ込むわ!」


 再び麗華に向かって突撃する奏。当然その行く手は田中が阻むが、奏はそれに正面からぶつかりに行く。どの道この壁を突破しなければ、満足に麗華を攻撃することはできないのだ。ならば、最初に叩くのも後で叩くのも同じと考え、響のサポートを信じて田中と対峙する。

 響は田中に集中した姉の代わりに、周囲からの脅威を対処していく。

 麗華は当然田中の背後から攻撃を仕掛ける。響は場所を移動しながら、麗華に向けて矢を放ちけん制する。

 麗華も、さすがに響を自由にさせすぎるのは不味いと考えたのか、狙いを奏一人から響にもシフトした。


「少し眠っていなさい!」

「簡単にやられると思わないでください!」


 麗華から放たれた風の魔法を、響は防御障壁で受け止める。ズシンと重い衝撃が響を襲うが、風の魔法は障壁によって全て受け止められた。


「守りと回復。サポート専門のあなたが私に勝てるとでも?」

「一人じゃありませんから!」


 矢を放ちながら、田中の攻撃で傷ついてきた姉にヒールを掛ける。


「そうよ、私が攻撃、響が防御。あんたらと同じでしょうが!」


 回復魔法を受けた奏が、再び炎爆で田中と自分の距離を取りながら煙で姿を隠す。回復直後で、ほとんど傷の無い奏は、炎爆の衝撃で後方ではなく横に転がり、立ち上がりざま田中の脇を抜けるように駆け抜けた。

 炎爆の煙から突然目の前に飛び出してきた奏に、麗華は一瞬目を見開き驚きを示す。その間に奏はティアラを振りかぶり、麗華へと振り下ろした。


「貰った!」


 しかし、奏の攻撃は、大剣によって受け止められる。その巨躯からは想像もつかないほどの速さで、田中が奏と麗華の間に割り込んだのだ。


「させないと言っただろう」

「けどこの距離なら! 大炎爆!」


 先ほどとは比べ物にならないほどの巨大な爆発が、フィールドを揺らした。

 そして黒煙が立ち込める中、奏が爆風に吹き飛ばされて響のもとまで転がってくる。結界のおかげで怪我こそないが、頭上のスクリーンには全身にダメージ判定が出ており、かなりの痛みを発しているのが分かる。


「お姉ちゃん!」

「大丈夫」


 奏にヒールを掛けながら、響は油断なく黒煙の中の様子を観察する。黒煙の動きに変化があれば、すぐに姉に伝えるためだ。

 ヒールを受けた奏は、立ち上がり剣を構える。響のヒールでも全てを回復できたわけではないが、大分マシになったといった所だろう。全身からはジクジクと痛みが発しているが、我慢できない程度ではない。


「これでやられてくれたら楽だったんだけどね」

「そんな訳がないだろう」


 黒煙の中から声がしたかと思うと、その煙は一気に周囲へと霧散した。

 その中心に立つのは田中だ。耐火加工してあるはずの服はボロボロになっており、所々すすけている。しかし、田中自身はピンピンしていた。ダメージ判定も背中に多少火傷のダメージが発生している程度だ。

 そして麗華。彼女は無傷だった。爆破の瞬間、田中に庇われたのだ。


「ふふ、多少は腕を上げたようですが、まだまだですわね」

「突っ立って守ってもらってるだけの奴が何言ってんのよ」

「守られるのは淑女として当然のことですわ。まあ、山猿さんには関係ない事かもしれませんがね」

「お姉ちゃん、落ち着いて。挑発に乗っちゃダメだよ」

「分かってるわよ。あの鬱陶しい縦ロール、できることならバッサリ切り落としてやりたいわね」

「ふふ、できない夢は見る物じゃありませんわ。さて、そろそろ終いにしましょうか」

「できると思ってんの」

「できますわ。ああ、そう言えば先ほどあなたはこう言いましたわね。あなたが攻撃、響さんが防御。それが私たちと一緒だと」

「ええ言ったわよ」

「それが間違いであることを、教えて差し上げますわ! 行きますわよ、田中! 契約プランB」

「承知しました」


 今まで田中の後ろにいた麗華が動き出す。田中と並走して奏に向かって走って来たのだ。

 奏は一瞬麗華と田中のどちらに向かうか悩むが、すぐに麗華を狙うことに決める。

 個人的な感情もあるが、今まで後ろにいた麗華が前線に来たのをチャンスだと感じたのだ。ここでリーダーを潰せれば、チームの士気は下がるはずだと考えた。

 それを読んだ響は即座に田中へと弓を向ける。


「させませんわよ」

「あんたの相手は私でしょ」


 田中へと弓を向けた響に、麗華の蛇腹剣が襲い掛かる。奏がそれをティアラで弾き、お返しとばかりに炎弾を放った。

 それは田中の一振りによってかき消されるが、ふりぬいた跡の田中は無防備だ。

 そこに向けて、響が矢を放つ。


「ふふ、私は後ろに隠れてるだけの女じゃなくてよ」


 無防備になった田中の前に出たのは麗華だった。麗華は跳んでくる矢を蛇腹剣で打ち払い、鞭状だった蛇腹剣を剣状へと戻し奏に切りかかった。


「あんたの攻撃なんてね!」

「受け止められるかしら!」


 切り結ぶ瞬間、蛇腹剣が再び鞭の形に戻った。ぶつかる衝撃に備えていた奏はそれに不意を突かれバランスを崩す。しかし、崩しながらも、剣という盾が無くなった麗華に向けてティアラを振り下ろした。

 その攻撃は、予想していたように麗華にあっさりと躱される。


「まだまだ猪突猛進ですわね。二人の息も完璧とまでは言えませんわ! そんな程度で私たちに勝とうだなんて、百年、いえ、千年早いです事よ!」


 剣を振り抜いて無防備になった奏に田中が迫る。響は弓で援護しようにも、麗華と奏の距離が近すぎて撃てずにいた。

 田中の大剣が振り下ろされる。そのコースには、田中に背中を向ける麗華がいる。

 観客たちは一瞬同士討ちかと思った。しかし、その振り下ろしがまるで分かっていたかのように、麗華は体を横に向ける。

 それだけで、大剣の起動は奏への直撃コースに変化した。

 ガンッと奏の耐刃服に大剣がぶつかり激しい音を響かせる。直撃を受けた奏は吹き飛ばされ、手から離れたティアラがあらぬ方向へと滑って行き、奏自信もフィールドの外へと転がり落ちてしまう。


「コンビネーションというものは、こういう物ですわ」


 麗華はゆっくりと立ち上がり、蛇腹剣を剣状に戻して頭上を見上げる。

 スクリーンには、奏の肩から腹部にかけて、剣で斬られたダメージ判定が出ている。

 即死判定だった。




 奏と響が戦っている時、反対側のフィールドでは苛烈な魔法合戦が行われていた。

 お互いに放つ魔法は、速度を重視して威力こそ弱いものの、その物量に観客たちは魅了される。

 そして、この試合の解説役、観客たちの中に混じる魔法使い、そしてテレビでこの試合を見ていた魔法使い達は、別の意味でこの撃ち合いにひきつけられていた。

 その原因は志保だ。

 志保の放つ魔法。どれも確かに威力は弱い。少し魔法を齧っている者なら誰でも使えるような魔法だろう。

 だが――


「なんだよこれは!」

「私にわかる訳ないじゃない!」


 最も驚いているのは、志保と対峙している魔法使い達だろう。

 二対一の圧倒的有利なはずの状況で、五分の試合をさせられている。こちらが放っている魔法は全て志保の魔法によって相殺され、威力の高い魔法を放とうとすれば、速度の速い魔法で妨害される。

 二人で放つ魔法の量と、志保一人が放つ魔法の量。それが同じ理由が分かる訳が無かった。


「とにかく、あんたは威力重視にして。私が前にでてかく乱するから」

「分かった」


 チーム夕凪の二人が、タイミングを合わせて魔法を放つ。それと同時に、女性の魔法使いが前へと出た。

 放った魔法は当然志保のマルチマジックによって相殺されるが、駆けてくる自分にまで対処はできまいと考えた。

 しかし、志保のマルチマジックはその程度でどうにかなるような物ではない。

 向かって来た相手を見て、志保は即座に魔法の選択を変える。

 杖には大威力の魔法を構成させ、自分の中では視認しにくい風属性を高速で組み上げ発動させる。


「エアブラスト…………アースウェーブ」


 エアブラストに寄り、駆け寄って来ていた女性の体が押しとどめられる。その隙に、完成したアースウェーブを奥に留まっている男に向けて放った。

 大威力の魔法を構成していた男は、志保に対抗するように魔法を放つ。


「大丈夫か! ブラストファイア!」

「私は大丈夫。威力は無いから!」

「そうとは限らない」

「なっ!?」


 ブラストファイアがアースウェーブを相殺する。その時には、志保は新たな魔法を自分の中で構築し終えていた。


「弱くても、この距離ならキツいでしょ」


 志保はアースウェーブを放った直後に、自分も駆け出していた。女性の元へと。

 そして、二つの魔法を放った後と言うことで、少し気が抜けて、チームメイトと声を掛け合っていた女性の目の前へと現れる。その手にエアブラストを携えて。


「エアブラスト」

「なんでそんな……」


 なんでそんなに早く魔法を連発できるのか。そう言おうとした女性の顔面に向けて、志保は容赦なくエアブラストを放つ。

 ほぼゼロ距離で放たれた魔法は、低威力と言えども人一人を吹き飛ばす力は容易に携えている。

 女性はフィールドの外にまで吹き飛ばされ、そのまま気絶した。


「くそっ! ファイアランス!」

「アースウォール」


 女性を吹き飛ばした直後、男の魔法が飛んできたが、杖に構築させたアースウォールで平然と受け止める。


「後はあなただけ」

「なんなんだ! お前は何なんだ!」

「ただの魔法使いよ」


 男から放たれた魔法を、杖の魔法で相殺し、右手に握った魔法を発動させる。


「アイスランス」


 放たれた氷の槍は、男の胸に直撃しフィールドの外へと弾き飛ばす。

 それと同時に結界は、男の即死判定を表示した。


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