新しい世界
-山道-
ひたすら走った
どれだけ走ったのかは3日目で数えるのをやめた
たぶん5、6日は走っていると思う
直輝「そろそろ俺、足限界」
瞬「俺も・・・」
二人は地べたに座った
瞬「まさかこんなところであの地獄みたいなマラソンの成果が出るとはな」
直輝「あれがなかったら多分3日前に干からびてたよ」
瞬「あぁ、つか山多すぎてもうこの風景も見飽きたな」
直輝「そうだよなぁ」
周囲は山に囲まれている。
目立つものはなんですか?と聞かれたら山としか答えられないくらいに。
瞬「さ、行こうか」
直輝「あいよ」
立った瞬間後ろから話しかけられた
??「君たち、何をしている?」
瞬「え?」
声の主を見ると警官だった
直輝(しまった・・・身分明かしたら学園に逆戻りだ!)
瞬(だからって学園のジャージ着てるし、ここまでボロボロだと誤魔化せないって!)
直輝(しかも、今は普通なら学校の時間だから補導されるぞ)
警官「何をこそこそ話している!とりあえず、身分証を見せなさい」
直輝「逃げるぞ!」
直輝の掛け声と共に全力で走った
もうとにかくがむしゃらに。
こんなところで警官に捕まって学園に逆戻りなんてつまらな過ぎる。
それを考えるだけで恐ろしいので死ぬ気で走る。
とにかく速く・・・速く・・・速く・・・
-山の麓-
直輝「逃げ切ったな・・・」
瞬「危なかった・・・」
二人が足を休めようとした時、
??「なぁ君たち?」
また後ろから話しかけられて、警官だと察した。
直樹も俺もすぐ立とうとしたが足が言うことを聞かなかった
終わった。と思った。
こんなつまらない終わり方をして俺はいいのか?と思い、足に力を入れる。
しかし、思いとは反対に全く力が入らない。
瞬「直輝、今までありがとう」
直輝「あぁ、俺もお前に感謝してる」
??「感動に浸っているところ悪いが、ちょっといいか?」
瞬「はい・・・」と後ろを振り向くと、警官ではなく黒髪でヒゲを生やしたおっさんが立っていた。
瞬・直輝「へ???」と間抜けな声が出た
??「あ、君たちがさっき戦ってた警官じゃないし、君たちに何かしようとも思ってないから安心して
よ」
瞬「は、はい・・・」
不意打ち過ぎてうまく言葉が出ない。
??「俺の名前は町田幸雄だ。で、そこにある桜蘭高校の陸上競技部顧問をしている」と、町田さんが指
した方向を見ると遠くに校舎があった。
町田「ここは桜蘭高校から近いし、坂道ダッシュは陸上では有効な練習なんだ」と説明されたが話が急で
少しついて行けていない。
直輝「あ、あのところで、町田さんは俺たちに何の用でしょうか?」
直輝が俺も気になっていた質問をしたところ、
町田「あぁ言い忘れてたね。ここでちょうど陸上部の練習してて、部員がバカ速い二人が坂を下ってきて
いるって聞いてね。そんな速い人がいたら、陸上をやっている身としてはどこの高校か気になってしまっ
て・・・」
直輝(どうする?)
瞬(悪い人ではないようだけど俺たちの事情話してどうなる?)
直輝(どっちにしろ、もう金も尽きて俺らは保たない。少しこの人に相談してみよう。いいな?)
瞬
直輝「ひそひそと話してしまって申し訳ありません。実は僕たちは今高校から逃げています」
町田「高校から逃げる、とは?」
直輝「學王学園高等部はご存知ですか?」
町田「あぁ、山梨の陸上強豪校か、あそこの強さは全国区だよ」
直輝「はい。そこは勉強、スポーツ、生活・・・何にしてもスパルタで俺たちに自由はなく、俺たちが入
学してからもう30人以上が退学しています」
町田「完全寮生活とは聞いていたが、内部はそんなことになっていたのか・・・」
直輝「なので夜逃げして5日間近く走ってここまで来ました」
町田「山梨からここ栃木まで走りできたのか?」
直輝「はい。」
会話が終わると町田さんは少し考えて、
町田「君たち、親は?」
瞬「勉強をやれとしか教わったことないので、親かどうか分からないレベルです」
直輝「俺もです」
町田「そうか・・・」
人呼吸置いて町田さんはこう言った
町田「この世界は広いぞ!お前たちが今まで過ごしてきた世界の何倍も何十倍も何百倍も!!陸上はその努力次第でどこまでも行ける。地区を超え、県を超え、関東を超え、日本を超え世界までも行ける。お前たちにもその可能性があるんだ!」
さっきとは違い、とても明るく子供みたいな顔でそう言って
町田「お前たち、うちの高校の陸上部に来ないか?」
瞬・直輝「え???」
町田「うちは私立だから陸上のスポーツ特待生として入れるからな。俺は、お前たちの走りと根性を見て思った。お前たちは陸上で大成する!」
瞬「そんなこと言っても俺たちは走りなんて周りより遅いですし・・・」
町田「お前は内しか見てない。言ったろ?世界は広いってな」と言いながら笑った
町田「どうだ?入らないのか?」
瞬「直輝、俺走りたい」
直輝「奇遇だな、俺もだ」
瞬「あぁ、一緒に走ろう」
気のせいかどうかは分からないが、俺たちに追い風が吹いた気がした。