男達のセンチメンタルジャーニー(中編)
お借りしたお題は「アスピリン」です。
平井卓三。ある中堅建設会社の営業部の次長である。
彼は同期の梶部が彼の妻の親友であった井野弓子と不倫をしているのを知り、強引に解消させた。
それ以来、梶部は仕事に身が入らなくなり、スチャラカOLの律子がやりたい放題であった。
(梶部の事も気にかかるが、今はめぐみの事だ)
彼の愛娘のめぐみが、突然、
「アメリカに留学する」
と言い出したのだ。
「貴方がカラオケボックスに現れてからそんな事を言い出したのよ。貴方のせいだわ」
妻の蘭子に泣きながら責められ、平井は追い詰められていた。
(めぐみに訊いても何も答えてくれないし……。どうすればいいんだ?)
平井はアスピリンが欲しくなってしまった。
「そうか」
平井はあの時居合わせた香達に訊けば何かわかると思い、次長室を出た。
平井が向かっているとも知らずに律子は相変わらずスチャラカをしていた。
「ちょっといいかな、みんな」
そこへ突然平井が現れたので、律子はビクッとして机の下に隠れた。
「私は猛獣かね、律子君?」
平井が呆れ顔で覗き込む。
「おはようございますう、次長」
律子は精一杯の愛想笑いで応じた。
フロアの人間が何だ何だと集まる。
「あの時、カラオケにいたのは誰だったかな?」
平井が律子達を見渡しながら尋ねた。
香が挙手すると、出島蘭子、須坂、藤崎、そして律子が手を挙げた。
「いつの間にカラオケになんか……」
課長室から出て来た米山が涙目で柱の陰から見ている。仲間外れにされたと思ったようだ。
「私も行きました」
梶部が手を挙げた。平井は彼を見て、
「それはわかっている。全部でこれだけかな?」
香達は顔を見合わせてから頷いた。
「ちょっとこっちに来てくれるか」
平井は応接用のソファがあるパーテーションの向こうに行った。
「何?」
律子が香に囁く。
「さあ?」
香は肩を竦めた。
「すまんな、就業時間中に。只、一刻を争う事なのでね」
平井は他の社員に聞こえないように小声で言った。
「何でしょうか、次長?」
梶部が尋ねた。平井は溜息を吐いて、
「あの日以来、めぐみの様子がおかしいんだ。急にアメリカに留学したいって言い出した」
藤崎がギョッとして香と顔を見合わせた。飲んだくれていた律子にはわからない。
「何があったのか、教えてくれないか?」
平井は真剣そのものの目で香達を見た。
「もしかすると、自分のせいかも知れません」
藤崎が口を開いて、めぐみに告白された事、それを断わった事を話した。
律子は目を見開いて驚いてしまった。