男達のセンチメンタルジャーニー(前編)
お借りしたお題は「カラオケ」「センチメンタル」です。
律子はスチャラカなOLである。
今日も仕事をサボろうとあれこれ考えていた。
「持病の癪はもう使えないしなあ」
腕組みをして考え込んでいるのを同期の香が呆れて見ている。
「藤崎君、律子に注意できるの、貴方だけだから、何とかしてよ」
香は律子の恋人の藤崎に言った。
「ダメですよ。律子さんが一番怖がっているのは梶部係長なんですから」
藤崎はそう言って、梶部を見た。
梶部はカラオケボックスに行って以来、毎日ボンヤリしている。
律子がコーヒーを何倍も飲んでも注意しないし、トイレに行くフリをしてサボっても気づかない。
「でも、最近の係長、ちょっと変ですよね」
出島蘭子が話に加わった。
「確かに。何があったんですかね、平井次長と?」
遂に蘭子と付き合う事になった須坂も参加して来た。
「ふう」
溜息を吐いてフロアに現れたのは米山米雄。一応課長である。
「おはようございます」
香達が声を揃えて挨拶したが、
「おはようございます」
米山は覇気のない声で応じ、課長室に入ってしまった。
「大丈夫なのかしら?」
香は課の行く末を真剣に案じていた。そして、
「藤崎君、律子に『仕事をしない人とは別れます』と言いなさいよ。そうすれば少しは堪えるはずよ」
「言った事ありますけど、その場限りなんですよ。別れっこないと思ってるんです」
藤崎は溜息混じりに応じた。
「全く……」
香はムッとして律子に近づく。
「律子、いい加減にしなさいよ、もう! このままだと本当にクビになるわよ」
香は律子の前で仁王立ちになって言った。
「わかったわよ。仕事すればいいんでしょ」
律子は肩を竦めてその場しのぎの事を言った。
「藤崎君が呆れていたよ。不真面目な人は嫌いだって」
香が言うと、律子は、
「大丈夫よ。障害はないんだから」
気持ち悪い笑みを浮かべて余裕綽々である。
(平井次長のお嬢さんに藤崎君が『僕は律子さんと付き合っているから無理です』と言ったので、すっかり現状に満足しているのね)
梶部と平井がカラオケを去ってから、平井の愛娘のめぐみが藤崎にこっそり告白したのだ。
だが、藤崎は律子と別れるつもりはないと言い切った。
めぐみはその場は冗談めかしていたようだったが、香にはそうは見えなかった。
(あの子、結構本気だったよね。何もなければいいんだけど)
香の不安は的中していた。
「ふう」
平井は次長室で溜息を吐いていた。
(めぐみ、どうしていきなりアメリカに行くなんて言い出したんだ……)
平井は項垂れてしまった。