須坂君の秋(後編)&平井と梶部(前編)
お借りしたお題は「衣替え」です。
蘭子の誘いで、律子達はカラオケに繰り出した。
カラオケに着くと平井次長の愛娘のめぐみがいた。
あまりの薄着に蘭子もめぐみも衣替えしないのかと思う香だった。
皆が盛り上がる中、律子だけが酔っ払っていった。
「律子、飲み過ぎよ」
香が窘める。それでも律子は酎ハイをあおり続けた。
「大丈夫ですか、律子先輩?」
須坂が藤崎に囁いた。藤崎は苦笑いして、
「ああなるともう止められないよ」
懐が深いなあ、藤崎先輩は。感心してしまう須坂である。
「デュエットしよう、りったん」
藤崎が告げたが、
「めぐみさんとすれば」
律子はアイスボウルを抱えてその中に酎ハイを流し込み、ストローで啜るという荒技に出た。
さすがの藤崎も唖然とした。
「じゃあ、お言葉に甘えまして!」
めぐみがすかさず藤崎の手を取り、本当にデュエットを始めてしまう。
「けっ」
律子は胡座を掻いてブツブツ何かを言った。香も呆れて何も言わない。
「次は私とデュエットしよう、めぐみちゃん」
梶部がヘラヘラ笑いながら叫んだ。
「いいですよ」
めぐみは笑顔全開で応じた。須坂もその後に並びたいと思ったが、蘭子がめぐみを睨んでいるのを見てやめた。
(蘭子ちゃん、どうしてめぐみさんを敵視しているんだろう?)
女心がわからない須坂である。歌を入れるタイミングを逃したので、彼は廊下に出た。
「ふう」
折角蘭子ちゃんとデュエットしようと思ったのに邪魔が多過ぎる。俺はついてない。
そう思い、煙草に火を点けかけると、
「ここは禁煙ですよ、須坂さん」
蘭子が出て来て言った。
「ごめん」
須坂はバツが悪くなって蘭子に詫びた。
「めぐみさんと歌わないんですか? 係長まで盛り上がってますよ」
「俺は……」
須坂は蘭子を見た。少し潤んで見える彼女の目を見たら何も言えなくなる。
「俺は?」
蘭子が促すように顔を覗き込む。須坂は意を決して、
「蘭子ちゃんとデュエットしたい!」
目を瞑って叫んだ。
「いいですよ」
蘭子の声が聞こえ、唇に柔らかいものが当たった。
「え?」
須坂が目を開けると蘭子は部屋に戻った後だった。
(さっきの何?)
須坂も部屋に戻ろうとドアノブに手をかけた時、
「失礼」
いきなり平井が現れ、須坂を押し退けて中に入った。
「パパ、どうしたの?」
梶部とデュエット中のめぐみが目を見開く。平井はめぐみを見ないで梶部に近づき、
「見損なったぞ、梶部!」
いきなり殴った。梶部は舞台から転げ落ち、シートにぶつかった。
律子以外の全員が凍りついた。
終わり切れなかったので、交じり合ったお話になりました(汗)。