腕
『×月三日 月曜日』
最近寝ていると、なんだか息苦しくて目が覚める。
一ヶ月くらい前から始まって、今では毎日そうだ。寝直せばそのまま朝まで大丈夫なので最初は気にしていなかったが、最近はどうにもストレスが溜まっていけない。仕事の疲労が凝り固まっていくような気がする。
『×月七日 土曜日』
今日、病院に行ってみた。睡眠が十分に取れていない。このままでは仕事に支障が出てしまう。
眼鏡をかけた中年の医者にあたった。どうせなら最近来たという若い人のほうがよかったと、少しだけ思う。
医者曰く「身体に異常はありませんね。恐らく精神面のことが原因ではないかと」とのこと。心当たりは無いと言うと、睡眠薬を処方された。この薬にはあまり良いイメージがないが、仕方ない。今夜使ってみよう。
『×月八日 日曜日』
久しぶりにぐっすり眠ることができた。朝洗面台の前に立つと、何故か首のところが少し赤いような気がする。まあ、気のせいだろう。
『×月十六日 月曜日』
睡眠薬が無くなったが、恐らくもう大丈夫だろう。そう判断し、飲まずに寝ることにした。だが、また夜中に目が覚めた。やはり駄目なのだろうか。もう、諦めてしまおうか。
『×月十九日 木曜日』
首の辺りが赤い。何か被れるようなものにでも触っただろうか?だが手には異常が無いし、何故首だけが。仕事先で同僚に見て貰うと、「なんだか指の痕みたいね」と言われた。笑えない。
『×月二十一日 土曜日』
枕を替えてみることにした。
奮発して、低反発というものを買ってしまった。今日はよく眠れるといいのだが。
『×月二十二日 日曜日』
朝、すっきりとした目覚めを迎えた。最初からこうすれば良かったのだ。病院に行く前にやればよかった。しかし、枕如きでこうも変わるものなのか。
『×月三十日 月曜日』
枕を変えてから一週間ほどが経過したが、特に問題はない。首の赤みも引いてきている。安心した。
同僚には「隈がなくなりましたね」と声をかけられた。できていたのか。自分では気付かなかったが、随分追い詰められていたようだ。本当によかった。
・・・・・・・・・
『×月×日 ×曜日』
「ぐ、がっ」
苦しい、息が、いきができない。
首が絞まる。絞められている。何かの指に!絡みつく指を引き剥がそうとしても、全く歯が立たない。次第に力が抜けてゆく。
生理的な涙の滲む視界にのっぺりとした白い腕が映った。細い、女の腕だ。
一体誰が。
せめてその腕の主を一目見ようとし、腕を視線で辿る。だがそれは叶わなかった。
―――その腕は、私の枕の下から伸びていた。
初めてホラー書きました。臨場感なくてすみません。