Butterfly Kiss
目が覚めると、そこは深い闇の中だった。
俺は上も下も右も左もない、その世界をまるで何かに流されるようにフワフワと漂っている。
その世界は出鱈目なほど暗いから、時折俺は何かにぶつかって酷く痛い思いをしたり、またあるときは何かを壊してしまって罪悪感を抱いたりする。
そんな時いつも思うのだ。なぜ俺はこんなところにいるのか、そしてどうしてこんな目に遭わなければならないのだろうかと。だけどそんな想いとは関係無しに、俺はいつまでも流され続ける。相変わらず真っ暗な世界の中を、ただひたすらに……。
いつしか俺はそんな理不尽な状況に慣れてしまったのか、何かにぶつかっても以前ほど痛くもないし、嫌な気持ちも感じなくなっていた。それどころか何かを考えることも、闇の中を見極めようとすることも止めていた。馬鹿らしくなってしまったのだ。こんな世界じゃ何をしても無駄だ。そう思うようになっていた。
遥か先の方に仄かな光を纏う何かを見つけたのはそんなときだった。
(蝶だ!)
俺はそう直感した。
闇の中をヒラヒラと舞う一匹の蝶はとても美しく、そして幻想的だった。俺にとっては真っ暗なだけのこの世界を、あの蝶はまるで光の海の中を飛ぶかのように力強く、優雅に羽ばたき続ける。
気がつくと俺は蝶を追いかけていた。時には抗う事が無駄のように思われた流れにも背き、時には何かにぶつかって酷く傷ついても、蝶を追い続けた。
憧れていたのだと思う。この暗闇の世界を自由に羽ばたくその姿に……。
(あの蝶のようになりたい)
蝶を追ううちに、ずっと空虚だった心が強くそう願うようになっていた。ずっと見る事をやめていた闇の向こうが見たいと思うようになっていた。
そんな俺の気持ちが通じたのか、それとも偶然だったのかは分からない。
今まで俺から逃げるようにして飛んでいた蝶がヒラヒラとこちらに向かってきた。そして伸ばしかけた俺の手にゆっくりと降り立った。それはまるで柔らかで暖かい口づけのような感触だった。
「大丈夫、今の貴方ならきっと飛べるから」
どこかから声が聞こえたその瞬間、世界に光が溢れた。俺はあまりの眩しさに堪えきれず目を閉じた。
次に目を開くと、俺は一匹の蝶になって光の満ち溢れる世界を飛んでいた。
地平の果てまで続く花畑。
すべてを包み込むような優しい風。
そしてどこまでも蒼く澄みきった空。
ずっとくだらないと思っていた世界はとても美しかった。どうしようもない程に綺麗だった。
今なら分かる。ただ俺は世界を本気で見ようとしていなかっただけなのだ。最初から流れに身を任せ、自分で羽ばたこうとしなかった。それが俺の世界を暗くしていた原因なのだ。
俺はずっと先まで広がる美しい世界をもっと見たくなった。そして今ならそれができることを知っている。俺の背には空を自由に飛ぶための翅があるのだから。
まず、読了お疲れ様でした。
そして稚拙な内容・文章で読み難くてすみません(泣)。
作者的なテーマは『世界に対して諦めのような気持ちを抱いている人が、ある種の夢や希望を見つけて、今まで気づかなかった世界に飛びたっていく』というような感じです。
抽象的・象徴的な書き方をしているので分かりにくいかもしれませんが……(汗)
えっと、話は敢えて逸らしますが、蝶ってなんだか幻想的な印象受けますよね。蛍の次くらいに(苦笑)。
目を閉じて、闇の中で仄かに光を放つ蝶を思い描いてください。ほら、幻想的ですよね?ですよね?その辺の意見も含めて、感想大募集です。
ある人に『幻想的というより、不気味』と言われてちょっと凹んでるのは内緒です(泣)。