表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デュラハンが行く!! 〜異世界漫遊記〜  作者: 八嶋ユナ
第一章 クエルタム大森林編
16/16

15話 ミルシャの回想【決断】

守護者も村の防備も整えて、いつ厄災の波が来てもいいように備えた翌日。

門の近くでアーディ師匠と待機していたのですが、魔物が来る影すら見えず、厄災種は生まれてなくて、たまたま魔物が来ただけで厄災は起こらないのかもという考えが心に浮かんできた頃。


「誰か近づいて来るぞぉ~!!」


物見やぐらから村の周辺を見張っていた村人の一人が何者かの来訪を告げました。

しばらくすると、


「ミルディアの民よ、我はクエルタム氏族が族長、ルエルタである!今すぐに門を開けよ!」


来訪者は村の門の前で高らかに自己紹介し、

村人全体に動揺が走りました。


「何でクエルタム氏族長が...?」

「何かあったのか?」

「厄災が起きるかもなんだぞ..」


村の皆々が何故クエルタム氏族長がここに来訪したのかわからず、混乱していました。

厄災が起きる兆しが見えたら、護り手を有する氏族は、大森林のエルフをまとめるクエルタム氏族長へ情報を共有し、氏族長は、魔物が接近する危険性を氏族全体に知らせる決まりがありました。

厄災の魔物は護り手しか狙わず、他の氏族は厄災が鎮まるまで村に籠るというのが決まっていて、大森林のまとめ役である人物が、こうして厄災が起きるかも知れない村へ来るなんて今までありえなかったことでした。


「門を開けよ」

「は..はいッ!」


先方の声を聞き、門前まで出てきていたミルディアの族長が門番にそう言い放ち、門がゆっくりと開いて、多くの護衛を連れたクエルタム氏族長ルエルタ様の姿が見えてきました。


「これはルエルタ様、ミルディア氏族長のルミアでございます。ここへは何用で?」

「先日、ミルディア氏族の者から厄災の兆しを確認したと報告があった」

「ええ、確かに遣いを出しましたが、何かありましたかな?」


族長がルエルタ様に疑問を投げると、ルエルタ様は目を細め、私を一瞥すると、


「クエルタム氏族を代表し宣言する!!ミルディア氏族、護り手ミルシャは厄災を引き起こす魔女であり、我らクエルタム氏族は祖クエルタムへ魔女の魂を捧げ、厄災を鎮めることとする!!」


ルエルタ様が高らかに突拍子もないことを宣言し、村に静寂が訪れました。


「おいッ!!一体どういう事だッ?!」

「……」

「おいッ!何だてめぇッ!!」

「婆様っ!!」


遅れて婆様がルエルタ様へ食いかかり、すぐに動いた護衛に拘束されてしまいました。

ルエルタ様はその一部始終を見終えるとゆっくりと口を開き、


「言葉通りだ。護り手は、厄災を引き起こす魔女である!クエルタム大森林を治める者として、この地に巣食う悪の源は絶たねばならん!そこで、魔女を祖クエルタムへの生贄とし、厄災を鎮める。これはクエルタム氏族の総意である!」


何を言っているのか理解ができませんでした。

厄災を鎮めるには厄災種が護るコアを破壊し、瘴気を浄化せねば収まらないとは誰もが知る常識です。

ルエルタ様はすでに、いくつかの厄災の経験があるはずなのに、こんな荒唐無稽な事を言っているのに激しく動揺していました。

そんな私にルエルタ様は、


「魔女ミルシャ、今ここで生贄になると宣言しろ」

「え..」

「さもなくば...」


ルエルタ様が手を挙げると、引き連れていた多数の護衛が村人を囲む様に陣を取り始め、村の人達にどよめきが起こりました。


「...人質ですか?」

「何だ?こちらの方がお好みかな?」


ルエルタ様が護衛の一人に目配せをすると、

護衛がルエルタ様の傍らに婆様を乱暴に座りつけ、ルエルタ様は短剣を抜き、婆様の喉元に当てました。


「―ッ!..これ以上はルエルタ様でもっ..!!」

「ほう?撃てるかね?」


ルエルタ様へ風魔法を放とうとしましたが、婆様に当てられている短剣に力が込められ、血がじわりと滲み出しました。


「ミルシャ、遠慮すんじゃないよっ!!」

「―ッ...!」


滲み出す血を見て、婆様の死を否応にも想像してしまうと、途端に体が動かなくなりました。


「これで返事はしやすくなったか?」

「.....私...は..」

「よしなッ!!」


あと少しで生贄を認めかけて、婆様に止められてしまいました。


「ミルシャ、コイツの言うことなんざ、聞くんじゃないよ!」

「でも..でも...婆様も..皆も..」

「ミルシャ、お前は護り手だろう?大事な大事な役目を背負った私の娘さ」

「婆様....」

「ミルシャ、あんたは生きなきゃ駄目だよ。果たさなきゃならない役目があるんだから」

「私..私...」


私はその場に立ち尽くし、どうしていいかわからなくなっていました。


「茶番は済んだか?さぁ、聞かせてもらおう、魔女の答えを」

「え..ぁ..私..」

「従うんじゃないよッ!」

「少し、お静かに願おうか」

「うぐっ...」

「婆様っ!!」


婆様がルエルタ様にお腹を蹴られ、気を失ってしまいました。

その光景を見た瞬間、体がふわふわとした心地で、今、私は立っているのかすら頭も真っ白で何もわからなくなってしまいました。


「沈黙か?是非がなければその沈黙は是とみなす」

「..う..ぁ..―フッ!―..え?」

「頃合いだろうな」―キィン―

「チッ..」


突如として現れたアーディ師匠がルエルタ様の後ろから奇襲を仕掛けたのですが、ルエルタ様が軽々と短剣で受け流していました。


「導き手...レベリエムの元魔女、アーディ。姿が見えんので、奇襲を警戒しておいて正解だったようだ」

「ルエルタ殿、何を乱心しておられるのかっ?!」

「乱心ではない。これは大森林を護るために必要な措置を取っているに過ぎない」

「護り手の生命を奪うことがこの森を救うことだと本気で考えているのですかっ?!」

「あぁ。私はいつだってこの森の平穏を考えて動いているよ」


アーディ師匠がルエルタ様と何か言いあっていましたが、私はその場に呆然と立っているだけでした。


「シア姉弟!村人達を!」

「「おうッ!!」」


アーディ師匠の合図で、同じく姿を隠していたシア姉弟さんが村人を囲っていた護衛に片方は拳、片方は剣で次々と攻撃をかけていきました。


「……」

「こいつらなんか不気味だ..なっ!」

「無駄口言わない...のっ!」


淡々と自分達に攻撃してくる存在に応対する護衛達を、シア姉弟さんは素早く無力化し、

村人達を囲っていた護衛は皆倒されました。


「ほぅ、見事な手際だ。どの程度やるか様子を見たが、なかなかではないか」

「何を余裕ぶっているのですか?」

「ふむ。なら、見せてやろうか」

「―ッ!?」


アーディ師匠の煽りに応えるように、ルエルタ様の両手に紫色をしたモヤが纏い始め、その両手を差し伸べるように前に出すと、村全体に一気にモヤが広がっていきました。


「うわっ、何だ..こ..r...」

「レェルッ!ちょっと..へぃ...」


モヤが村の人達やシア姉弟さんを通過すると、すぐに倒れて眠ってしまいました。


「二人に....ルエルタ...何を..」

「私を呼び捨てた無礼は、まだ意識を保てている貴様に免じて許そう。私が何をしたか知りたいか?これは私がある方より授かった力だ。貴様らでは到底、太刀打ちなどできんよ」

「そん...な..こ..」

「ぁ..アーディ師匠..」


私だけを残して、周りの村人もアーディ師匠でさえも皆、眠ってしまいました。


「少し耐えたことは褒めてやろう。さて、事態も落ち着いたようだ、改めて問おう」

「ぅ..」

「魔女ミルシャ。貴様は、祖クエルタムへの生贄となることを認めるか?」

「………」

「ふむ...まだ決断できんか」


ルエルタ様が足元に倒れていた婆様の髪を乱暴に掴み、自らの胸元付近へと頭を持っていき、


「あまり何度もしたくはないのだがな」


先程と同じ様に婆様の喉元に短剣を浅く当てました。


「ぁ..婆様..」

「これ以上待たせるならば、次は元魔女、村人となっていくぞ」

「うぅ...」


私は婆様にも、アーディ師匠にも、村の皆にも生きていてほしかった。


「もし、色良い返事が聞けるのなら、ミルディア氏族及び元魔女共の安全を保証しよう」

「...婆様達は...村の皆はちゃんと助けてくれますか..」

「もちろんだとも。解放もやぶさかではない」


本当に皆の安全が保証されるかなんてわかりません。だけど私は、少しの可能性に縋ってしまいました。


「……生贄として、この身を捧げます」

「それは何よりだ。安心していろ、ミルディアの民はちゃんと生かしといてやろう」

「...はい」

「執行はすぐには執り行わん。少し準備があるのでね。だが、とりあえず今の装備等は着替えてもらおう。何、正装のようなものだよ」


ルエルタ様が護衛の一人に合図すると、ボロボロの布の服が私の前に置かれました。


「しばらくの後、ここに執行者を送る。それまではこの村から動かず居ろ。ゆっくりと心構えをしておくといい」

「.....婆様達は..」

「生贄の執行を終えるまでは、この村で拘束する。解放は執行後だ。まぁ、眠っていてはもらうがね」


自分の背負う役目を棄てて、私は生贄になることを認めてしまいました。

皆を守るために私にはこれしか思いつきませんでした。

着替えが終わると手錠をかけられ、自分の力が抑え込まれるのを感じました。


「...ごめんなさい」


それから見張りもつけられ、かなりの時間が経った後、数人に村の南にある祭祀場へ連れて行かれました。

これが事のあらまし。

ロクローがいなければこれで終わっていくはずの、私の不甲斐ない人生でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ