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台湾有事始まって俺だけ徴兵!?―最弱ネトウヨ、絶望の特攻隊へ―

作者: マジ吉
掲載日:2025/12/04

俺の名は風神桜希。読み方は、かざかみ、おうき …変な名前だ、自分でもそう思う。

よほど珍しいからか、他人に読み間違えられたり、電話越しになかなか伝わらなかったり、クラスメイトにからかわれたり、…あまり良い思い出がない。

この名前がまたしても仇になるなんて…思いもよらなかった。それは、また後程に。



俺の一日の始まり、目が覚めて布団の中で携帯を手に取りツイッターを見る。(Xという名称は好きじゃない。)

低血圧なのですぐに起きる気にはなれない。

ツイッターに飽きたら、ベッドからようやく起き上がり、最初にする事はパソコンのスイッチをいれること。飲み物を用意して、起動させたパソコンでインターネットをチェック。何か面白い記事はないか探す。

5ちゃんねる、そして5ちゃんのまとめサイト、youtubeの最新動画。

いつも閲覧するサイトをくまなく見る。

政治家が失言したとか、芸能人がSNSで炎上だとか、捕まった殺人犯が新たな供述だとか、そんな最新ニュースの数々…。

気になった記事があればコメントを書き込んだり。今日のニュースはこんなもんか、ひとしきり見て満足する。


その後は…特に予定はない。これから出勤するわけでも通学するわけでもない。

ニートなので時間は気にしない。飽きるまでネットを閲覧する。youtubeの動画を見たり。

買い物する以外にほとんど外出はせず引きこもりがちである。

しばらくアルバイトすらしていない。

社会に何も貢献していない産廃人間のようだが、たまには日本のために良い事してるぞ。


例えば、2024年の兵庫県の知事選挙で、斎條を勝利に導いた事だ。

あれだけメディアで叩かれてた斎條知事が何故、再当選できたのか?

世間ではN党の立華の活躍によるものだと思われてるが、裏で暗躍していたのは、実は俺。


マスコミにはパワハラ知事やおねだり知事だの呼ばれ報道で叩かれていたが、本当は利権と戦っている知事だということを俺は知っている。

きっかけは2024年の春頃だったか。まだ百条委員会も開かれていない頃。兵庫県知事が部下の前で机を叩いたとか付箋一枚を投げたとかってパワハラ問題や、視察先で商品をねだって大量に持ち帰ったとか、あんまりにも連日で斎條知事に関するくだらない報道が出ていた。わざわざ全国ニュースで流すような事か?何か怪しいなと思ってネットでよく調べてみた。

某観光協会がHPで「ニュースの内容が事実と異なる」と公表している。

知事が観光地へ視察に訪れた後、商品を圧力で無理やり強請られたかのように報道されてしまっているらしい。実際にはそんなことは無かったとの事。

さらに調べれば、その観光協会以外にも、色んな話がもっと出てくる。だんだんきな臭く感じた。

決定打は大阪府知事の吉沢がインタビューで語っていた内容だ。

兵庫県知事の事について記者に訊ねられ、吉沢が答えていた。

「斎條知事は天下り改革のことなども含め様々な批判を受けているだろうと思います。百条委員会を通してきちんと説明責任を果たしてほしい」などと言っていたことだ。

改革で色々な批判を受けているって…

なんだ、やっぱり政治的な反対勢力が居たんだな。

俺は政治家じゃないから政界の裏事情まではわからないけど、知事目線だと色々あるのだろう。吉沢が言ってるのならきっと間違いないだろうと思った。


それから俺はネットで斎條知事に肯定的なコメントを積極的に書き込むようにした。

5ちゃんねるに斎條のニュースのスレッドが立てば擁護したし、アンチには反論した。

マスコミが言ってることは捏造だ!

天下りで税金チューチューしたい官僚どもに嵌められてるんだ!

それに匿名のパワハラ報告はたくさん有っても、パワハラの証拠が何ひとつ無いのも、そもそもおかしいじゃないか。

改革が進むと困る勢力に足を引っ張られてるんだという事を伝えた。

初めのうちは「本人乙」などと返され嘲笑された。世間の風はなかなか厳しい。それでも俺はネット上での啓蒙に励んだ。

それからというもの、ツイッターに「#斎條知事がんばれ」というタグがトレンドに入った。その辺りから風向きが変わり始めた。ネットでも薄々何かマスコミの報道が怪しいと気付きはじめている人が増えだした。

そして迎えた兵庫県知事選挙、斎條は開票すぐにトップ当選した。

自ら出馬して真実を公に伝えた立華もよくやってくれたが、半分は俺の功績だな。兵庫県民たちは俺に感謝してほしいくらいだ。

まぁ、裏で暗躍…は大袈裟に言い過ぎかもしれんが、有権者の誰かの1票くらいは俺によって動かされたかもしれん。


要するに俺は世の中のためには少しは役に立っているという事だ。


そんな事からもお分かり通り、俺はネットの話題のなかでも政治のニュースは特に好きだ。

売国奴の政治家は徹底的に叩くし、日本のため頑張ってる政治家のことは応援している。

youtubeで政治家の配信だってよく見る。

最近の政治家はyoutubeの自身のチャンネルで生配信をやってたりもする。

国民民衆の玉地や維信の吉沢は生配信をするが、スパチャを募集していない。…つまらない奴らだ。

表向きは支持者とのコニュニケーションをとってるように見えるが、チャット欄から都合の良いコメントだけを拾って読んでいるだけだ。あれで国民の意見を汲み取ってるつもりになっているのか。あいつらはネット配信の醍醐味というものをてんで分かってない。


一方、東京都知事選挙2位で有名になった丸石(どっか田舎の元市長)もよく生配信をしている。

丸石はスパチャ機能を解放している。しかも金額の大小に関わらず時系列順に丁寧に読み上げ、視聴者からの質問等に答える。

性格はいけすかない野郎だが、その配信スタイルはなかなか認める。

支持者と真摯に向き合おうとするその姿勢は高く評価できる。

そうはいうものの、正直、丸石の配信自体はそれほど面白いものではない(熱烈なファンから見ればきっと面白いだろうが)

見ていると、まるで中身のうっすい自己啓発本を読んでいるかのような気分になる。

丸石が説教風に何か物申せばチャット欄では視聴者が「その通り!」「さすが丸石さん」と絶賛する声が滝のように流れてゆく。

信者たちに囲まれチヤホヤされて楽しかろう。

スパチャも質問文以外は応援メッセージがほとんどだ。

「丸石さんが作る日本の未来に期待してます!」という応援や

「丸石さんの配信を見ていると勉強になります!」などと賞賛スパチャが飛び交う。

丸石がそれらを読み上げ、返答するだけの配信だ。

なんとも、なまぬるい配信だろう。

こういうのを見るとムズムズしてくる。

少しのいたずら心が沸くものだ。丸石に批判スパチャを投げてみようと思う。

信者たちが群がるチヤホヤ甘い空間に一石投じてやる。

批判といっても、別に悪質な誹謗中傷をするわけではない。自分では的を射た内容だと思うものをスパチャに書く。丸石の作った新党が都議選と国政選挙で惨敗を喫した理由について厳しく批評するつもりだ。

選挙後会見で悪びれない態度しやがって、自らに非が無いとでも思ってるのか。新党が大敗した理由は丸石の戦略に問題があったからだ。

丸石にとっては痛い正論を火の玉ストレートで投げつけてやろう。


俺はキーボードに指先を走らせカタカタとキーを叩き始めた。

まずはパソコンのメモ帳に文章を書き込み、保存した。コピーすればいつでもスパチャに貼り付けられる用意はできた。

この手厳しいスパチャを今週末の配信で投げてやろう。

丸石のやつ、どんな反応をするのか楽しみだ。

あとは投げるタイミングを見計らって待つだけだ。


実の所、丸石の配信はスパチャを投げるタイミングがシビアである…。

必ず読まれるとは限らない。丸石は隔週日曜の晩9時ごろにyoutubeで配信するのだが、その時間は約一時間。

配信内になんとか読まれたい。

丸石はスパチャを先着順に読むからなるべく早いほうがいい。

大量のスパチャが来るため、順番が遅いと配信内に読むのが間に合わなくなる。

配信枠が立ち上がってるのを見つけ次第、生放送が始まる前からすぐに投げないといけない。

しかし投げるタイミングは早すぎてもダメだ、これには理由がある。

たまに、丸石が前日から配信枠を立ち上げている事がある。

この時にスパチャを早めに投げても無駄だ。どうやら前日に投げたスパチャは当日までに消えてしまう事があるらしい。

丸石はああ見えて機械音痴だから消えたスパチャを読む方法を知らない。

だから、投げるタイミングは早すぎてもダメ、遅すぎてもダメ、これが難しい。


だが幸いにも丸石の今週の配信は当日の夕方から枠を立ち上げた。これは投げやすい。

当日俺はyoutubeを開いて丸石の配信枠が立っていることを確認した。夕方、まだ誰もスパチャを投げていない…。まさか俺が一番乗りになるとはな。ただ、今すぐ投げてもいいが、あえてちょっと待つことにした。別に大した理由はない。開幕すぐではなく、信者たちのチヤホヤ甘いスパチャを読んでいい気分になってる最中にぶち込みたいと思ったからだ。その落差を楽しんでやろう。

少し待ち、数人ほどのスパチャを見送った。頃合いを見て俺は文章をコピーペーストした。

アナカルジンという名前の人がスパチャを投げ、その後に俺もスパチャを投げた。

長文になったので2000円かかった。我ながら丸石如きにだいぶ奮発したものだ…。

俺の批判スパチャに視聴者たちの反応はどうだろうか…

視聴者たちは俺のスパチャに呑気にナイスパと返信していた。こいつらは本当に俺の文章を読んだ上でナイスと言ってるのだろうか。まあ、投げ銭に対するただの定型文だろう。

俺の後には「和平の使者」という名の視聴者が赤スパを投げていた。

和平の使者…見たことのある名前、こいつは丸石の配信の常連客だ。

この和平の使者という視聴者は、いつも丸石に高額の赤スパを投げてる謎のオッサンだ。しかし、かわいい美少女Vチューバーに投げるならともかく、丸石なんぞにこんなに大金を使うなんて何者なのだろう、よほど金持ちなのか。…それかホモなのか?こいつが何者なのか知ったことじゃないが、なんにせよ俺には関係ないことだ。



9時から配信が始まった。

挨拶から始まり丸石はビールを飲んだり今週の出来事を呑気に報告してグダグダ喋っている。

はやくスパチャ読めよって感じだ。

10分ほど経って、ようやく丸石が視聴者からのスパチャを読み始める。さっき俺も読んだ先着のスパチャたちだ。たわいもない内容ばかりだ。

「ありがとうございます。つぎ、アナカルジンさん」

丸石がアナカルジンからのスパチャを読んだ。俺の前に投げてた奴だ。俺のはもうすぐだ。

俺の心臓がドクンドクン鳴っている…。やばい、なんか無駄に緊張してきた。

スパチャを投げることは初めてではないが、有名人に自分の文章が大勢の前で読まれるとなると、どうしても気持ちが昂ってしまう。鼓動が速まり、手先や足が小刻みに震えた。

アナカルジンの次が俺の番だ。丸石は俺の批判にどう答えるだろうか…。

すると途中で何かを思い出した丸石が急に個人的な雑談を始めた。「サンフレッチェ広島おめでとう」とか何やら言ってどうでもいい話をしてやがる。

はよスパチャに戻れ!って感じだ。


話題を切り上げた丸石が再びスパチャの読み上げに戻った。

「どこまでだったかな?」と言いながら画面をスクロールする動きで探している。

俺の心臓がドクドクと高鳴る。

そして丸石が読み上げた。

「あった、次これかな?和平の使者さん」


…あれ?


飛ばされた?


順序でいうと次は俺のスパチャだったはずだが…

丸石は和平の使者からのスパチャを読み上げ、答えていた。

そして、その後も、他の視聴者から貰ったスパチャを読み上げていた。


なんという事だ、どうやら俺のスパチャは読み飛ばされてしまったようだ…!

ふざけんな、クソ。くそ丸石2000円返せよ!!わざとか?俺の辛辣な批判に日和ったか?怖気づいてわざと無視しやがったな!?


いや、多分ただの…単純な見落としだろう…。

見落とすなよ!!

この…若作りの、老眼、機械音痴、独身中年男が

くそ、くそ、くそくそくそくそくそくそ


落ち込んだ…。その日はリハックの動画だけ見て、ふてくされるように寝た。


一晩寝たら、なんとか気持ちを落ち着けた。

ふん、丸石なんかどうでもいい、しょせん旬の終わった政治家だ。

今政界で熱いのはなんといっても高壱総理だろう。

俺は高壱政権を応援している。

その前の、あの気持ち悪いセルポ星人みたいな顔の総理大臣が辞めてくれてせいせいした。

あの政権は本当に無駄な一年だった。だが、バネは縮めば縮むほど、よく跳ねるからな。

駄目な政権の後ほど、良い政権は支持率がよく伸びる。

高壱を引き立てる役として必要な一年だったという事にしておこう。


前の政権時、2024年の衆議院選挙では日本保主党か迷って国民民衆党に票を投じた。少々リベラル寄りだがクレバーな経済政策案を出す国民民衆が今の情勢には妥当だろうと考えた。

俺は右翼じゃないからな、参勢党とかいう頭のおかしい政党なんかに入れたりはしない。


2025年の参議院選挙では少々悩んだがグループみらいに入れた。グループみらいは少し胡散臭い集団だと思うが、どうせ大勝する事はないだろう、1議席あればいいと判断した。若い新星の政党が現れることは良いことだ。利権まみれの古い政党なんかよりよっぽどいい。

利権ズブズブの自泯党は好かん。国賊の立憲眠衆党も嫌いだ。

しかし次の衆議院選挙では自泯党に入れてやってもいいなと思う。なんといっても高壱政権で自泯と公萌党の連立関係が切れたのがでかい。日本の癌である公萌党が連立解消してくれて本当に良かった。このチャンスを逃してはならない。公萌と組んでいなくても選挙に勝つ事が出来ることを自泯議員たちに分からせてやらないといけない。

あえて連立の維信に票を投じて与党支持を示すという手もあるだろうが、俺は断固高壱総理支持だから投票先は自泯だと決めた。


高壱内閣の顔ぶれにも注目している。

ネット上では散々、頭が悪いと罵られまくっていた子泉進二郎が防衛大臣に就いてから覚醒した。

国会でカンペ無しでも防衛について答弁できているではないか。

最初はどういう意図で役職につけたものか理解に苦しんだが、実際なってみればこんなにも適任だとは思わなかった。

子泉は将来的に総理大臣になるかもしれないから、今のうち高壱内閣で鍛えてもらいたい。

他には、鈴本農水大臣。こいつは初めて見た。知らない政治家だったが今回の内閣入りで初めて存在を知った。若い政治家を抜擢とたというのは目の付け所がいい。

見た目は干からびた丸石みたいな奴だが、有能なのだろうか?しかし今懸念される米問題というものはどうしても難しい、天候や需給に左右される問題だから簡単に解決できるものではない。まだ期待半分として見ておこうと思う。

そして斧田経済安全保障大臣。芯がしっかりしていて、筋が通った人だ。強気な態度がとてもいい。パワフルでしかも美人だ。正直、俺の好みのタイプだ。こういう女騎士みたいな猛々しい女性が俺は好きだ。まだ独身らしい。嫁にしたいぐらいだ。さすがに俺には高嶺の花だが、周りの男性が放っておかないだろう…。

とまぁ、この内閣にはなかなか期待している。安部政権の上位互換にもなりえるだろう。


高壱政権はまだ始まったばかりだがなんとも良い兆しが見えている。

スマホぽちぽちのぼっち外交(まるで学生時代の俺みたい)の元首相とは違う。前首相とはうってかわって海外で笑顔の外交デビュー。他の首相たちと仲良くしている様子が素晴らしい。

外交といえば…最近マスコミメディアが何やら騒ぎ出した。


国会で高壱総理が台湾有事が起きた際の日本側の対応について答弁で語ったが、中国がやたらそれに噛みついてくる。

怒って日本のアニメ映画の中国上映を打ち切るとか、パンダをレンタル止めるだとか、何やらくだらない経済政策をごちゃごちゃやっている。中国は国民に渡航自粛をうながしているが、かえってオーバーツーリズム対策になっている、これは幸いだ。

観光地からマナーの悪い中国人どもが消えてせいせいした。

高壱首相にはぜひとも強硬な態度のままでいてほしい。


日々ネットでは高壱アンチの左翼どもが総理を叩いている。

布団の上で寝転がりながら携帯でツイッターを見てると「高壱信者はそんなに中国と戦いたければ志願して前線に行って戦えばいい」など宣っているツイートが目に入った。

プロフィールを見ると、世界平和/憲法9条を守ろう/スパイ防止法反対/ワクチン強制に反対!と入っている…お察しだな、俗にいうパヨクってやつか。普段ならスルーしてる所だが暇だし少々かまってやろう。

「武力を駆使せずに平和が保てる自信があるならお前が前線に行って話し合いで解決してこいよ」とリプで書いておいた。ブロックされた。相手は逃走した。都合の悪い意見は遮断か…こんな奴らが普段、世界平和だの対話を重視だのと言ってるなんぞ片腹痛いわ。

まぁよくある事だ、ネットでは口先だけの奴らばっかりだ。

こんなレスバは日常のようなものだ。

俺は枕元に携帯を置き、寝る準備をした。


 

202X年、台湾有事が始まった。


眠りから覚めていつも通り布団の中で携帯を見ていたが、ツイッターで国際ニュースを見ると俺はすぐに起きてパソコンを起動させた。

中国の軍隊が台湾に侵攻したらしい。

台湾で戦争…?日本はこれからどうなるんだ?


高壱首相が緊急記者会見を開くようだ。

気になって俺も配信サイトで会見の生放送を見ることにした。


官邸の記者会見室が映り、高壱総理が登場した。

「台湾海峡において武力衝突が発生しました。日本政府は、これを国際社会の平和と日本の安定を著しく損なう存立危機事態と認識しています」


それから総理は日本側の対応を説明した。

「自衛隊は米軍とともに、台湾周辺での警戒任務にあたります。これは太平洋そして地域の平和を守るための行動です」


総理は台湾に自衛隊を派遣すると宣言した。

おお、それは良い!よくやった!台湾を中国の侵略から守ってやらねばならない。

世間の反応を見ようと、携帯を手に取り5ちゃんねるの実況板を開いた。

スレッドには賛否両論の意見が入り乱れていた。「余計な事に首突っ込むなよ、台湾なんかどうでもいいだろ」とほざく奴も居た。

俺は返信を飛ばした「馬鹿か、シーレーン封鎖されたら石油輸入できなくなるだろ。日本は他人事じゃない。それに、台湾を拠点に次は尖閣、沖縄を攻めてくるだろ、中国の太平洋進出を阻止するために派兵は必要だ」と理路整然に反論しておいた。


俺は携帯で実況スレを閲覧しながら同時にパソコンで中継を見続けた。

「国民の皆さんに改めて申し上げます。政府は、国内の安全と日常を守ることを最優先にしています。現時点で国民生活に直ちに影響が及ぶ状況ではありません。落ち着いて、普段通りの生活を続けてください。」


戦ってくれる自衛隊員は本当ありがたい。しかしなるべく一般人が戦争に巻き込まれることがなければいいが…


それから総理は続けて言った。

「政府は責任をもって日本国民の安全を守ります。…ただ一人を除いて」


ん?


「自衛隊を派遣するに伴い、日本国民の中から一名徴集します。」


え?


「政府としても熟慮を重ねたのち、前線での戦闘を前提にした徴兵に特定の国民を指名します。対象となる方は一名です」


え、徴兵…?しかも何だ一名って…?


「風神桜希を徴兵として指名します」


え、俺?

俺の名前?…聞き間違いか?いや、テロップに出てる…。風神桜希…。

同姓同名?いや、俺と同姓同名の奴なんか居るわけない。エゴサしたって出てきたことないし、同じ苗字の奴すらいままで会った事もない。


え…俺を指名!?…俺だけ徴兵?なんで!?

まさか政府の緊急声明会見に自分の名前が出てくるとは思わず、唖然とした。

しばらくパソコンの中継画面に釘付けになっていたが、手にしていた携帯の方に目をやった。

「誰?」「誰だよ」「徴兵一人でワロタ」「かざかみ頑張れw」「変な名前だな」「名指しで草」

などと書き込みが流れていくのが見えた。

携帯を握る俺の手はだんだん震えはじめた。


その時、ピンポーーーンと勢いよく鳴った。ビクッと体が震えた。

玄関の呼び出し音が鳴っていた。俺はしばらくその場から動けないでいた。

ピンポーンピンポーンポンポーン

けたたまなく何度も鳴り響いた。うるさい…一体誰だ…俺は足を震わせながらゆっくり玄関に向かい、インターフォンを覗きにいった。


インターフォンのカメラ越しに軍服姿の人が見えた。

「風神さん、徴集です。応答をお願いします」

軍服姿の人はカメラの前に赤い紙を差し出して見せた。

「繰り返します。応答をお願いします。扉を開けてください」

「え、嫌です…」思わず言ってしまった。


徴集?一体何が起きてるんだ?冷汗が全身からじわじわ滲み出てきて伝っていった。

「これは正式な命令です。応じないままでは済みません。開けてください」

軍服の人は扉をドンドンドンと激しく叩いた。


俺は驚いて後ずさりした。

わけもわからぬまま、家の真ん中で立ち尽くした。何だこれ?こんな事ってある?嘘だろ?夢?これ夢か?俺はまだ寝てて夢を見てるのか?

心臓の鼓動が大きく鳴り、全身は震えていた。


ガシャーーーーーンとガラスが割れる音が聞こえた。

ふりむくと、窓ガラスを割って軍人らしき人が突入してきた。

戸惑ってるうちに、俺は後頭部に打撃を食らって気絶した。



気がつくと、倉庫のような基地のような、うすら寒い広い空間に居た。

椅子に座らされている。

なんだここは…。俺どうなった?


「おはようさん、よう来てくれはったなぁ」

足音が聞こえ、目を向けると黒服の護衛たちを引き連れた何者かが俺の前に現れ声をかけてきた。


青いスーツに身を包んだ、見覚えのある姿、この人は…

高壱総理…!


「風神桜希くん、これから日本のために戦ってもらいます」

「え…待って、なんで俺?」

「そら名前が縁起良いからな。日本は有事の際は神風が吹くって言うやろ?」

「縁起…がいい…!?」

「風神くん、名前がカミカゼ特攻隊の桜花みたいでかっこいいやん。だから験担ぎに君が選ばれたんやで」


そんな… 名前のせいでこんな目に遭うなんて…

今までだってこんな名前のせいで碌な思いをしなかったというのに…またしても…

眩暈が起きるほどショックだ。視界が揺らぐ…


「国民を徴集するなんて胸が痛むけどな、風神くん家族と友達おらんやろ?死んでも悲しむ人もおらんし、別にええかなって」

「えぇぇ…そんな…」

「それに納税もしてないみたいやし。今働いてないなら丁度いいやん。給料出るで。」

「いや、あの…えっと…」

「あとインターネットの閲覧履歴と今までの書き込みも調べさせてもらったわ。」

「え」

「なかなか愛国心ありそうでええやん。ほんなら、日本のために、命かけてくれるよね?」

「…」

笑顔で問い詰められ、俺は高壱総理の気迫に気圧され縮みあがった。

いままで画面越しには気さくなオバちゃんぐらいにしか見えていなかったが、生で見る高壱総理からは、凄まじいオーラを感じた。

まるで総理の背後に靖国の英霊たちがズラッと整列してこちらを睨みつけてるかのような威圧感があった。

近くで見る高壱総理のその凄みに、思わず小便をチビりそうになった。


「君ネットだと威勢のいい事言ってるみたいやけど、それにしてもなんか弱そうやなぁ…ほんまに戦えるやろか」

「戦えませんよ」


体躯は160cm、47kgの貧弱なスペック、どう考えても戦闘向きではない。

「俺なんかがどうやって戦えっていうんですか?」

「まぁそれは知らんけど。詳しいことは防衛大臣に聞いてもらって。ほな、交代や」


高壱総理は立ち去り、入れ替わりざまに自衛隊員を数人引き連れた凛々しい姿の人物が颯爽と現れた。

「徴兵されたという事は、自衛隊に入隊するという事です。」

この見慣れた顔は… 子泉進二郎…!

「ようこそ、自衛隊へ!」

子泉はとびきりの爽やかな笑顔を見せた。

子泉…、顔が、かっこいいな… イケメンなのは知っていたが、実物はより精悍な顔つきをしているように見えた。


「風神君の力やパワーには期待していません。ですが、小柄で華奢な体格も生かせば長所になります。こちらをご覧ください」

ウィーーーン  カシャーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

けたたましい金属音が響き渡り、ずっしりと厳つい黒い兵器が姿を現した。

「これは最新モデルの人間魚雷です。風神くんはこれに乗り特攻してもらいます」

「特攻!?」

「狭い兵器の中では、むしろ体格が小さい方が有利なんですよ。いざとなったらこれで中国の空母を爆破してください」

「いや、無理です。閉所恐怖症で海洋恐怖症なんで無理です」

「大丈夫!自衛隊で訓練や特訓を積めば克服できますよ」

子泉大臣は自信に満ちた笑みで答えた。

「いやいや…そうじゃなくても、今時、特攻はないでしょ…。俺じゃなくても、AI使うとか、遠隔で操作すればいいじゃないですか」

「これ日本国民にはまだ知られていない事なんですが、実はサイバー技術は中国の方が上なんですよ。遠隔操作はハッキングされてしまう可能性があるんです。だから人間のマンパワーが必要なんです。結局のところデジタルに対抗するにはアナログが強いんですよ。」

「えぇぇぇ…」

「じゃあ風神くん、まず乗り心地をテストしてみましょう」

子泉大臣は自ら魚雷に手を伸ばし開閉ハンドルを回しハッチを開けた。

「ここに入ってください」

「い、嫌です!」

周りの自衛隊員に拘束され、俺は無理やり魚雷の中に押し込まれてしまった。

「嫌だあぁぁぁ!!」

抵抗も虚しく、無情に外からハッチは閉められた。中にはハンドルらしきものは無く、内側からは開かないようだ。

操舵室から無線で子泉大臣の声が聞こえてきた。

「どうですか、乗り心地は?サイズは合いますか?この後は魚雷の調子を調べるため、横須賀で試験的にテストしてみます。」

魚雷ごとそのまま港まで運ばれ、横須賀の海で潜水テストが始まった。

俺を乗せた魚雷は勢いよく海に沈められた。

窓越しには、海面からさし込む光が泡と共に遠ざかってゆくのが見えた。

どこまで深く沈められるのだろう…。

息苦しさを感じるほど窮屈な空間の中、やがて暗闇に包まれ、コックピットの計器の光だけが薄明るく灯っていた。


こんな事になるなんて…思いもよらなかった。もう日常には戻れないだろう…

ただネットに触れるだけのくだらない生活の日々さえ今となっては恋しく感じる…

まさか徴兵されるとは…しかも俺は特攻させられるんだ…



…俺は別に死ぬのが怖いわけじゃない。

命なんか惜しくない。

俺のくそみたいな人生なんか、もう終わらせたってかまわない。

日本のために死のうが、なんだっていい。


でも痛いのや苦しいのは嫌だ…!

やっぱり怖い…!


…せめて最後は、痛みや苦しみを感じずに、一瞬で逝ける事を願う。


              おわり

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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