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何か感じたい

俺はなぜか腹部をいつの間にか刺されていた。 冷たい金属が肌を突き抜け、鋭い痛みがみぞおちから広がる。


誰かもわからない。 ぼんやりとした視界の中、見たことあるようなないようなそんな顔のやつに目がけて、視線を送る。彼の目は冷たく、まるで深い闇に覆われている。


だが、正直どうでもいい。


気怠い意識の中、傷口から流れる温かい血がズボンに染み込んでいくのを感じながら、心は無に近い。


刺されようが殴られようが大切な人を殺されようが。 まあ、大切な人なんていないが。


これまでの人生で、誰かを本当に大切に思ったことはあっただろうか。


俺はいつもそうだ。俺は多分かなり感情が薄いんだと思う。


感情の波が海のように押し寄せては引いていく、その中に俺はただ佇んでいる。


言葉で表すのは難しい。 空虚と言うか、虚脱と言うか、虚無と言うか、もしくはその全て。


冷たく、湿った地面の匂いが鼻を刺激する。


別に死にたいとかそういうことを思うわけじゃない。


ただただ何も感じないのだ。 心の奥底では、縮こまった自分が、その感情を求めている。


理由は本当にわからない。 無数の思考の中、自分を見つめ直す。


別に親だって普通の人だし、変な風に育てられたわけでもない。


家の温かい雰囲気や、親の優しい声が記憶に残っている。


といっても何も感じないと表現するのは少し間違っているかもしれない。


俺だって様々な感情を感じる。怖い、楽しい、悲しい、うれしい。


しかし、それらはまるで遠い世界の出来事のように、俺には直接的な影響を及ぼさない。


だが、そういった感情感じたところで、俺は何も変わらない。


今、刺されているこの状況さえも、冷静に見つめることができる。


自分の体を動かすほどの感情を感じないのだ。 肉体の痛みはあるが、それさえ薄れていく。


つまり、人間としての失敗作。ゴミのクズである。 その意識の中で、ささやかな自己否定が響く。


今だって、体をナイフで刺されているが、抵抗することも、助けを呼ぶこともしない。


ただ、悄然とした時の流れの中、事が過ぎ去るのを見ている。


これは普通じゃないだろう。それは自分でもわかっている。 感情が無い自分に、少しの引け目を感じる。


まぁしょうがない。




2




終わったと思われた俺の人生だったが、どうやら俺は異世界に転生したらしい。


何事もなかったかのように目が覚めると、天井にはキラキラとした星のような模様が描かれていた。


赤ちゃんで脳が小さかったからか物心つくまで自分が転生したことに気づくことはなかった。


周りの温かい光景が、少しずつ意識を引き戻していく。


親は、普通の優しい人で名は、コルス・サルバートとニーシャ・サルバート。


彼らの笑顔は、どこか懐かしいものを感じさせた。


そしてさらに、どうやらこの世界には魔法と言うものが、存在しているらしい。


耳に響く、不思議な音色の魔法の呪文が、どこかでかすかに聞こえる。


だが、別に両親が冒険者だった。みたいなこともないので、魔法は俺の生活にあまり影響をあたえていない。


でも、この世界には、魔物という脅威が存在しているのである程度、魔物に対抗出来る力を身につけなければならない。


だから、コルスは俺に体術の練習をさせてくる。 彼の真剣な眼差しが、俺に何かを感じさせる。


「イカシス、体術の時間だ」


コルスの声が響く。


「はい、お父様」


俺は特に反抗することもなく、ただ無機質に返事をする。


そういえば俺は、イカシス・サルバートという、名を授けられた。


なんとも変わった名前だ。


これからどうしようか。


俺は普段はあまり何も感じないが、実は一つだけやってみたいことがある。


そう、それは何か感じてみたいのだ。 どんな小さなことでも、心が動く瞬間を感じたい。


かなり矛盾しているが、とにかくなにか俺を動かすほどの何かを感じたい。


それは、絶望でも喜びでも何でもいい。ただ感じたい。


だから、俺はこの異世界で何か感じる為に行動してみようと思う。

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