心を感じるタヌキと空を読むフクロウ
ホロウはとても賢くて、何事も論理的に考えるフクロウでした。困ったことがあれば原因を見つけ、理屈を使って説明し、きちんとした解決策を考えます。
「問題には必ず理由がある。そして正しい答えもあるのだよ」
ホロウの口ぐせでした。
一方、タヌキのポン太は、おしゃべりは苦手。でも、誰かが悲しそうな顔をしていれば、そっと隣に座って、黙って手をにぎってくれます。言葉ではなく、気持ちで寄り添うのが上手でした。
ふたりは森の隣どうしの木の家に住んでいましたが、正反対の性格ゆえに、よく口げんかになっていました。
「ポン太、それではだめだよ。泣いているウサギに、まず何があったか聞かずただ、寄り添うだけじゃ、問題の根っこは解決できない」
「……でも、震えていたから。あたためてあげたかったんだ」
「それは感情に流された対処だ。まずは、原因を知るべきだったんだよ」
「……うん。でも、落ち着いたみたいだったよ」
そんなある日、森に奇妙な変化が起こり始めました。
小鳥たちは歌を忘れ、リスたちは木の実を取り合い、モグラは地面に潜ったまま出てこなくなってしまったのです。森は、まるで心を閉ざしたようでした。
「これは、森全体の心のバランスが崩れている……」
ホロウは空から森を見下ろしながらつぶやきました。
「何か、原因があるに違いない。ポン太、調査に行こう」
ポン太はホロウの声にうなずきながら、森の地面に耳をあてました。
「……森、泣いてる」
「え? 泣いてる? 何か聞こえたのかい?」
「ううん。声じゃなくて……気持ちが、悲しんでるみたい」
ホロウは一瞬、考え込むように羽をたたみました。
「……ふむ。論理的な根拠は見当たらないが……君の“感じたこと”を信じてみよう」
ふたりは森中を探し周り、「ココロの泉」へたどり着きました。その泉は、森の心を映すといわれています。けれどその日は、泉の水がいつものように澄んでおらず、どろりと濁っていました。
「理由を探ろう。原因が、わかるかもしれない」
「きっと、さびしいんだね」
そのとき、泉の水面にぽたり、と一粒の涙が落ちました。それはポン太のものではありません。泉そのものが泣いていたのです。
「……気づいてくれて、ありがとう」
そんな声が、水の奥から聞こえた気がしました。そして、水面がキラキラと光り、いつもの綺麗な澄んだ泉に戻りました。
ホロウは目を丸くしました。
「……ポン太。きみの“感じる力”が、この泉の声を引き出したんだね」
「ううん。きっと、ホロウが僕の話を“信じて”くれたからだよ」
ふたりは顔を見合わせて、やさしく笑いました。
今でも森のどこかで、ホロウとポン太はそっと見守っています。
きちんと考えることも、
ちゃんと感じることも、
どちらも森には必要なのです。
——そして、それを、どちらが正しいと分けずに“どちらも大切にする事”が、本当の答えを見つける鍵になるのでしょう。
~おしまい~