雪が舞う中散歩に行く
朝、モニター越しに見えたのは、一面雪で真っ白に染められた風景だった。
雪が降り続いている所為で遠くの景色も薄らぼんやりとしか見えていないが、昨日まで降っていた黒や灰色の汚れた雪じゃ無く、真っ白な雪。
汚れの無い真っ白な雪が舞う中での散歩を楽しもうと、用意を整える。
厚手のジャンバーに防寒スボン、鉄板入りのジャングルブーツに頭と顔全体を覆える帽子と手袋。
用意を整えながら、愛着が湧き始めている備品などを撫で回す。
薬を飲み杖を付いて外に出た。
『さ、寒い』
用意できる最上の防寒装備でも耐えられない寒さだ。
でも、もう良いんだ。
降り続く雪で進むべき方向も分からない。
だからコンパスを見て南の方角に進む。
一面真っ白で遮る物は何一つ見えない。
進んでいる南の方角の先には、首都の高層ビル群が小さく見えていたのにそれも見えなかった。
散歩を始めて20分程経った頃、飲んで来た睡眠薬が効き始め眠気がする。
真っ白な雪の上に横たわった。
半年程前、自宅の地下に造った核シェルターの中で備蓄品の整理を行っていたときに核戦争が始まる。
住んでいた市の数キロ先にあった同盟国の基地に大陸から飛来したと思われる核ミサイルが着弾して、自宅の地上部分を含めて市全体の建物全てが薙ぎ払われた。
核兵器が着弾していると思われる凄まじい振動はその後も数度続いたから、同盟国の基地だけで無く首都圏の国軍の基地や首都にも着弾したのだろう。
そういう訳で雪が舞っていなくても、首都の高層ビル群は薙ぎ払われて見えなかったと思う。
雪の上に身を横たえ雪をシンシンと降らせている空に目を向けた。
此れで数年前に亡くなった妻や、あの日に亡くなったであろう子供たちや孫の下に行ける。
押し寄せる睡魔に逆らわず雪を降らせる空を見ていた目を閉じ、私は永遠の眠りについた。