第九十五話 了承①
「はぁ……」
俺はクロッマー侯爵の目的に溜息を吐く。侯爵という身分ながら、国の為に仕えるどころか国家転覆を狙うとは大胆不敵である。
この国を我が物とことを目的に、色々と計画を立てたようだ。一度失敗したリベリーナを貶める計画だが『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』という改良版を計画した。その根性と努力を国の為に使えないことは残念である。
「大丈夫だ。私が付いている。それに……『罪の意識から正直』な『証言』を行う君を、ルイズ王太子殿下が責めるわけがないだろう?」
クロッマー侯爵は、俺が仲間になることに疑いがないようだ。そして元王太子が『王太子』に返り咲いたことを前提として話を進める。
「…………」
吐き気のする台詞に思わず、口元を押さえる。
黒幕の協力以上に安心出来ないものはない。
加えて、元王太子が『王太子』に復帰することが出来たとしても、俺を責め立てるだろう。何せ元王太子を『王太子』の座から引きずり下したのは俺である。元王太子自身が悪いのだが、リベリーナを断罪する際に元王太子の愚行を周知させたのだ。目の敵にされていることだろう。
俺が『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』し、『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』が成功した場合。元王太子が『王太子』に復帰すれば、俺は元王太子のサンドバッグにされるだろう。
クロッマー侯爵はそんな状況になっても庇うと言っているが、それは噓である。黒幕であるクロッマー侯爵も、俺に一度計画を潰された側だ。俺の存在が邪魔であり、『復讐』の対象者である。そうでなければ『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』の核として『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』させようとしない筈だ。
返り咲いた元王太子に俺が責め立てられれば、クロッマー侯爵は元王太子の背中を喜んで押すだろう。そして元王太子に俺を処分させる筈だ。何故ならば邪魔者であり一番報復したい相手を、生かす理由が無いからである。『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』が成功すれば、俺は用済みだ。処分させるだろう。
だが俺を処分することにさえ、元王太子を御するのに利用する筈だ。元王太子が俺を屠れば、その事実と罪はこの国にとって酷い醜聞になる。つまり元王太子が国王になったとしても一生、クロッマー侯爵に頭が上がらなくなるのだ。
そしてクロッマー侯爵は自身の手を汚すことなく、俺を排除することが出来る。更には、元王太子を傀儡とする理由を手に入れるのだ。完全に黒幕であるクロッマー侯爵が得をする流れである。加えて、俺はクロッマー侯爵が得をするように導く『幸運のアイテム』扱いだ。
「何も心配は要らない。ご家族のことも、職業も住む場所も、伴侶も将来も……」
クロッマー侯爵は『利点』という名の『障害』を再び口にする。これは現段階においてではなく、『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』が成功した後のことを示唆している。つまり現状では家族は無事だが、黒幕の配下を実家に襲撃させ害を齎すことも出来るということだ。脅しである。
だが残りは、作戦成功後も俺を生かしておくという安心感を与えようとしているだけである。実のところ、俺を生かすメリットがない。元王太子のことも考えると噓である。
しかし『何も心配要らない』という発言は本当だろう。勿論、悪い意味である。クロッマー侯爵が言いたいのは、『抵抗も反撃も何も出来ずに処分されるのだから、何も心配要らない』という意味だろう。
「君なら出来るさ。いや……君にしか出来ないことだ。ロイド・クライン! さあ! 偉業を成し遂げるのだ!!」
クロッマー侯爵は仕上げたとばかりに声を高らかに、俺に『証言』をするように迫る。現段階でクロッマー侯爵が取れる行動はこれしかない。黒幕の計画を成功させる為には、俺しか適任者はいないだろう。俺に選択肢はない。如何やら『偉業』を成し遂げるしかないようだ。
「……分かりました。それでは私は『証言』をしましょう」
俺は『証言』をすることを承諾する旨を口にした。




