第九十四話 『計画の主』㉓
「……さあ、私は全てを話した。今度は君が応える番だ。私の仲間となり、『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』したまえ!」
クロッマー侯爵は俺に仲間になるように声を上げる。勝手に計画の内容に関して話したのは、クロッマー侯爵だ。計画の内容を訊いたら仲間になるという約束もしていない。勝手に話しを優位に決め、話を進めないで欲しいものだ。
だが黒幕であるクロッマー侯爵が、王城で行われるパーティーで何を企てようとしているのか知ることが出来た。そのことに関しては吉報である。しかし、今の状況は非常に厳しい。
最高の結果は、穏便に黒幕であるクロッマー侯爵に俺が仲間になることを諦めてもらうことだ。そして穏便に帰ってもらうことである。これは間違いなく不可能だろう。黒幕は明日王城で行われるパーティーにて、第二王子とリベリーナを貶める計画だ。その為に俺の『証言』が必要である。何を話したところで引くとは考え辛い。
クロッマー侯爵とハリソン伯爵の注意を他に向け、その隙に『秘密の抜け道』から逃げることも考えたがこれも難しいだろう。二人の意識は完全に、俺を仲間に引き込むことに集中をしている。二人の意識を逸らすには、第二王子が部下を連れて此処に突撃するぐらいのインパクトがなければ不可能だろう。だが残念ながら、黒幕の陽動作戦に嵌められこの場に駆け付けることはない。万事休すである。
「ですから……私は……」
クロッマー侯爵から逃げることは出来ない。しかし黒幕の仲間になり、第二王子とリベリーナを貶める計画などに協力をすることもしたくないのだ。
モブである俺には、本当に此処が限界のようである。謎の気分の悪さから眩暈がするが、俺は唸るように否定をしようとした。
「安心したまえ! ルイズ王太子殿下へは私が取り計らう。『君はマルセイ第二王子に利用され、裏切らないように監禁されていた』被害者だ。王太子殿下も納得していただける!」
「……っ!」
何の勘違いをしたのかクロッマー侯爵は、元王太子を話題に出した。この期に及んで、俺が『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』することを拒んでいる理由を自身の保身だと思っているようだ。
自身が可愛いならば元々、卒業パーティーで介入しない。敵対するのが、王太子とそのお気に入りのイリーナだ。下手をすれば俺は不敬罪で断罪される。そして変に介入した所為で、リベリーナの立場をより悪くする可能があった。
リベリーナの断罪回避は、完全に俺の私情である。
それに家族を巻き込む訳にはいかない。加えて、家族にも俺の撒いた火の粉が飛ぶ可能性があったのだ。それ故に絶縁状を送った。
クロッマー侯爵はリベリーナを貶めようとした『計画の主』だ。第二王子を陽動作戦に嵌めて、こうして俺を苦しめている。確かにクロッマー侯爵は、作戦や計画を立案することには長けている。そのことは敵ながら、認め得よう。
だが元王太子を解放し『王太子』に返り咲かせることは断固反対である。
あれだけリベリーナを罵り、苦痛を与えられた人物だ。何の罰も受けずに、元の地位に戻るなど許すことは出来ない。クロッマー侯爵の口調からして、あの『てんさい』である元王太子が『王太子』になることは確定要素のようだ。
俺に『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』させ、元王太子を『王太子』に返り咲かせようとしている。
卒業パーティーでの問題行動があり『王太子』の任を解かれた元王太子だが、俺の『証言』ならば元王太子を復活させることは可能性だ。何せ俺の『証言』により真実が噓に、白が黒に変わる。
そして第二王子を悪役に仕立て上げ、リベリーナの罪を証明して二人を排除するつもりなのだ。『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』の成功である。
更にクロッマー侯爵は、元王太子に罪が無いことを主張し責任問題を提起するだろう。それにより邪魔であるリベリーナの宰相を失職に追い込み、今後国王にも口出しをし辛い状況を作るつもりだ。その後は『王太子』に返り咲いた元王太子の補佐官か、宰相として名目で実権を握るつもりだろう。
窮地を救ったとして元王太子に恩を売り傀儡とし、この件に関与していると都合の悪い要職や高官を辞めさせるだろう。代わりに自身の配下を要職に就かせ、誰も口を出すことが出来なくなる状況を作る筈だ。
つまり……クロッマー侯爵は、この国を乗っ取り支配することが目的である。




