第九十三話 『計画の主』㉒
「如何だ? 私の素晴らしい計画に声も出ないか?」
クロッマー侯爵は急に沈黙した俺に対して、気分を良くしたようだ。勝利に酔いしれるような声で俺を煽る。
自身が計画した『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』に確固たる自信があるようだ。そしてその全容を俺に伝えたことにより、俺が『頼み事』という『証言』をすれば最大の『復讐』を成し遂げることが出来る。『復讐』をする際には相手が観衆側に居るよりも、相手を利用して大逆転を謀る方が効果的だ。
つまり俺はクロッマー侯爵の『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』に最大限利用され、この上ない屈辱と共に『復讐』を成されようとしている。クロッマー侯爵の嫌な自信はこれだったようだ。
「…………」
この場に前世のような録音をする機器や、会話を記録出来る魔法が無いことが大変残念である。それらがあれば、クロッマー侯爵の悪事を証明することが出来るのだ。
黒幕であるクロッマー侯爵は自身が、リベリーナを貶める計画をした『計画の主』だと自白し認めている。
加えて俺への執拗な勧誘に、『利点』としての『障害』の脅迫。『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』することを強迫。更には『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』の内容まで本人が語っている。
それらの発言を録音することが出来れば、クロッマー侯爵を捕らえる動かぬ証拠品になるのだ。絶好の機会である。だがそれらの便利な物は存在しない。
現段階では、クロッマー侯爵が黒幕であるということを証明する品は何もないのだ。
今迄のクロッマー侯爵の発言に納得をする。『合格』・『優秀な人材』・『特別』全てこの『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』させることに対しての言葉だ。
『合格』は誰が黒幕であり、俺が従うべき相手を理解しているかの確認である。これにも『復讐』の片鱗が見え、屈辱に耐えながら俺が従うのを信じているのだろう。
そして『優秀な人材』とは『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』することが出来るのが俺だけだからだ。黒幕であるクロッマー侯爵にとって俺ほど、『再挑戦』と『復讐』に利用出来る『優秀な人材』は居ない。
最後に『特別』だが、これは『優秀な人材』と同じく『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』することが出来るという意味がある。それに加え、俺が第二王子に軟禁されていた事実により、第二王子を『王位欲しさにルイズ王太子殿下を嵌めたマルセイ第二王子』を信じさせる材料にもなるのだ。クロッマー侯爵は、俺がリベリーナと第二王子を貶める為の『特別』だと言いたいのだろう。
全てを理解した上で、クロッマー侯爵は、敢えて俺に『証言』をさせようとしているのだ。その為に『障害』を『利点』と偽り、粘り強く執拗に勧誘を行っている。相当『復讐』に燃えているようだ。
そうでなければ、『復讐』の対象者に無下にされて食い下がらないだろう。クロッマー侯爵は大変気位が高い人物だ。本来ならば俺のようなモブに『頼み事』などしないだろう。黒幕としてのプライドが許さない筈だ。
しかし俺が『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』を成功させるキーパーソンである。従って『利点』という名の『障害』を持ち出し、脅してまで自身に従えよう躍起になっているのだ。
黒幕にとっては『再挑戦』と『復讐』を同時に果たすことが出来る最高の計画である。
だが、俺には全てを失う最低最悪の計画だ。




