第九十二話 『計画の主』㉑
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この『全ての罪をマルセイ第二王子に着せ、リベリーナを再び貶めよう計画』には二つの意味がある。
一つ目の意味は、『再挑戦』だ。この『再挑戦』は、リベリーナをもう一度貶め今度こそ断罪することである。先ずは俺の『証言』により、リベリーナが無罪である前提を崩すつもりなのだ。そして『再挑戦』を果たす計画なのである。
そこで障害になるのは、第二王子だ。
第二王子を敵に回し、その第二王子を排除するにはそれ相応の理由が必要である。国王と宰相が第二王子を庇うだろう。それを上手く回避した上で、第二王子を排除する方法は一つだ。俺が『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』することにより、『王位欲しさにルイズ王太子殿下を嵌めたマルセイ第二王子』という意識を王城で行われるパーティーに集まった貴族たちに植え付けることが出来るのである。
黒幕であるクロッマー侯爵には、マルセイ第二王子も排除するべき存在なのだろう。第二王子は独自に調査をし、元王太子の悪行を国王と宰相に見せていた。その慧眼は、いつか黒幕であるクロッマー侯爵の下に届く。それを恐れたクロッマー侯爵は、俺に『証言』をさせることを思い付いたのだろう。
『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』すれば、全てが逆転する。正義が悪となり、闇が光へと変わるだろう。第二王子の印象と評価も『兄の愚行を諫めた優秀な弟君』から『無実の兄を嵌めた悪い弟』へと変わるのだ。
更に黒幕は俺の『証言』を踏まえた上で、卒業パーティーに国王と宰相を連れ出した第二王子の行動。兄である王太子が失脚すれば得をするのは誰か?王城に集った貴族たちに問いかけるだろう。『兄の愚行を諫めた優秀な弟君』から『無実の兄を嵌めた悪い弟』へと第二王子の印象が変わった後に、そのようなことを訊ねられれば疑念を拭うことは出来ない。
『王位欲しさにルイズ王太子殿下を嵌めたマルセイ第二王子』というイメージに信憑性を増すことが出来るのだ。
二つ目の意味はこの計画には、『復讐』の意味も持っている。
卒業パーティーで一度目のリベリーナを貶める計画を阻止した俺へ、最大の屈辱を味合わせる『復讐』の意味も兼ね備えているのだ。俺は卒業パーティーでリベリーナの冤罪を晴らした。それにより黒幕の計画を打ち砕いたのだ。そのことが黒幕であるクロッマー侯爵は気に入らないのである。
俺のようなモブが、黒幕ご自慢の計画を打ち破ったことに怒り心頭のようだ。それ故に俺を仲間へと誘い、『頼み事』という『証言』をさせようとしている。
冤罪を晴らした本人に『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』させる程の屈辱はない。俺の今迄の努力を自身で打ち崩すことになるのだ。更にリベリーナを始め、第二王子や国王と宰相の信頼も裏切ることになる。
俺が『卒業パーティーでの件は、全て噓であること』を『証言』すれば、全てが逆転する。正義が悪となり、闇が光へと変わるだろう。




