第七十九話 『計画の主』⑧
「これで、私の言葉を信じることが出来るだろう?」
自信満々に告げられる言葉に嫌悪感を抱く。
何故この様な言葉に俺が靡くと思っているのか、不思議でしかならない。国王陛下を引き合いに出せば、俺が納得すると本気で思っているだろう。安く見られたものだ。
いくら『優秀な人材』や『特別』という言葉を並びたてたとしても、言葉の軽薄さは偽れない。そして先程の『噓を吐かない』という言葉も誓いも、全てが噓なのである。国王陛下の名前を出しても噓を吐く男なのだ。黒幕であるクロッマー侯爵はそういう人物なのである。
その上、厄介なことにクロッマー侯爵は自信家だ。本人の自信ある態度からして、俺がクロッマー侯爵の言葉を信じることを確信しているようだ。自身の噓が見抜かれ、俺が従わないことなど夢にも思っていない。自身を信じて疑わないようだ。大した自信家である。
流石は無実のリベリーナを貶め、断罪しようと計画をした人物だ。比類ない自信を持っているようである。
「…………」
俺は小さく溜息を吐いた。クロッマー侯爵の自意識過剰な態度に辟易する。
「さあ! ロイド・クライン。君はご家族が大事だろう?」
クロッマー侯爵は再び『利点』として家族の話を始めた。一応表面上は『家族について話題に出されクロッマー侯爵を疑ったが、面識があることを告げられ信じるしかない状態にある』という状況だ。『利点』として家族の話を再開するのは自然だろう。
「……そうですね。王都の学園で学べたのは、家族のおかげですから……」
噓を吐くクロッマー侯爵に対して、俺は真実を話す。学園に入学し通うことが出来たのは家族のおかげである。そしてリベリーナの断罪タイムに介入することが出来た。モブである俺は学園に在籍をしていなければ、断罪タイムに介入することも出来なかっただろう。色々な意味で家族には感謝をしている。
俺が正直に話す必要はない。だがこれから行うことに信憑性を持たせる為の布石である。
噓を吐くクロッマー侯爵の発言は、全て嘘だと分かるだろう。真実ばかり話す俺の話に噓が一つ混じったとしても、それを見抜くことは難しい。
「そうだろう! そうだろう! そんな大切な家族を守りたいだろう?」
「……そうですね」
反抗的だった俺が弱気になると、クロッマー侯爵は上機嫌で声を張り上げた。家族をクロッマー侯爵の魔の手から守りたいことは確かである。俺は萎縮している演技をしつつ、同意をした。
「賢い君ならば、私の言いたいことは分かるだろう?」
「……ええ。そうですね」
機嫌が良くなったクロッマー侯爵は、俺に仲間になるように要求をする。つまり家族が大事ならば、従えということだ。そして誘いを断るならば『利点』としての家族が、失われることも含ませている。
「ならば……」
漸く俺が、誘いに同意すると確信したのだろう。クロッマー侯爵の声に、期待と驕りの色が帯びる。黒幕であるにも関わらず油断をし過ぎだ。思わず笑ってしまいそうになるのを我慢する。そして……。
「いえ。私は実家から勘当されておりますので、お断りします」
努めて明るい声で、俺はクロッマー侯爵の期待を打ち砕く言葉を告げた。




