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論破してみたら一石二鳥した~乙女ゲームに入りこんだモブなので、婚約破棄の場面に乱入してみた~  作者: 星雷はやと


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第七十一話 急展開⑫


「……っ」


 如何やら、嫌な予感が的中したようだ。


 俺の胸中に渦巻くのは僅かな焦りと、歓喜である。しかしそれを悟られてはいけない。冷静さを欠いてはいけないのだ。わざとらしい拍手に紛れて俺は息を整える。


 ハリソン伯爵が階段を上ってきた際に、足音は二つ分あった。一つはハリソン伯爵の分。もう一つの足音は護衛か或いは、ある可能性を秘めた足音だ。今まで沈黙を守っていたが、此処で口を出したということはそれだけの理由がある筈である。そしてこの行動により、もう一つの足音は単なる護衛ではないことを証明しているのだ。

『もう一つの足音』の人物には、見当がついている。発した声にも心当たりがあり、一度だけ聞いたことがある声だ。

 此処で発言をした理由にも見当がつくが、慎重に行動をしなければならない。『秘密の抜け道』を使い、穏便に此処から去ることが難しくなった。加えて、『もう一つの足音の主』が発した先程の発言も気になる。此処で俺が取れるのは『もう一つの足音の主』から、より多くの情報を集めることが最善の策だ。


「如何かしたのかね?」

「…………」 


 わざとらしい拍手が止む。すると『もう一つの足音の主』が、白々しく俺へと問いかける。この声に答えようが答えまいと、俺には逃げることは許されない。いや、『もう一つの足音の主』を逃すわけにはいかないと言った方が正しいだろう。


「おい! ロイド・クライン! 質問に答えろ! この方を何方だと思っている!? 失礼だろう!?」


 『面倒な駄犬』が無駄吠えを始めた。


 虎の威を借りる狐とは、正にこのことだろう。先程まで『計画の主』ではない証明を行い、まともに返事をすることが出来なくなっていた。その様な不利な状況から、『もう一つの足音の主』が発言をしたことにより態度が一変したのだ。まるで水を得た魚のように、直ぐに態度と声が大きくなる。流石は『面倒な駄犬』だ。

 だが、その態度は本来ならば取るべきではない。俺の神経を逆撫でするからではなく、『もう一つの足音の主』の正体を確定させてしまうからだ。

 しかし『もう一つの足音の主』が止めないところを見ると、知られても問題がないということだろう。つまり『もう一つの足音の主』は自身の正体を隠す気がないのである。俺が『もう一つの足音の主』の正体に気が付いていると推察しているのかもしれない。


 一つだけ明らかなのは『もう一つの足音の主』に、俺が舐められ虚仮にされていることである。


「ハリソン伯爵。私は彼とゆっくり話しがしたい。君は『プレゼント』を取りに行ってくれないか?」

「……っ! はい! 畏まりました!」


 不意に『もう一つの足音の主』は、ハリソン伯爵をこの場から退場させる。喧しい『面倒な駄犬』が居なくなることは大変喜ばしい。だが逆に言えば『面倒な駄犬』に聞かれては困る話をするということである。

 好機でもあるが、下手をすれば取り返しのつかない結果になるだろう。俺だけならばどちらの結果になっても良いが、今はリベリーナの無実を証明する証拠品を所持している。これだけは守らなければならない。服の上からリベリーナの無実を証明する証拠品を撫でる。


 更に気になるのは『プレゼント』についてだ。ハリソン伯爵と『もう一つの足音の主』は仲間であり、その『プレゼント』を渡す相手はこの場には俺しか居ない。黒幕派からの『プレゼント』など絶対的に碌な物ではない筈だ。受け取らないに限る。『面倒な駄犬』が戻ってくる前に、情報収集をして『秘密の抜け道』から脱出をするしかない。

『もう一つの足音の主』の正体に関して見当がついているからか、奴が言葉を発する毎に気が重くなるのを感じる。


「……さて、これで我々の会話を邪魔する者は居ない。腹を割って話そうじゃないか?」

「…………」


 ハリソン伯爵の足音が遠ざかる。そして完全に聞こえなくなると、『もう一つの足音の主』が再度語り始めた。腹を割って話すとは言ってはいるが、その声色は威圧的である。自身がこの場の絶対的な強者であると信じて疑っていないのだ。


 確かに、俺は現状を何一つ詳しく知らない只のモブである。


『もう一つの足音の主』からすれば、俺は脇役中の脇役だ。捻り潰すことなど厭わないモブだろう。だがそれで良い。傲慢で高慢で偏見で居てくれ。『もう一つの足音の主』は、そうでないといけないのだ。


「嗚呼、私の突然の登場に驚いているのだろう? 仕方が無いことだ。そうだ自己紹介をしよう。ロイド・クライン」

「…………」


 俺が返事をしないことを、俺が驚愕から声が出ないと判断をしたようだ。吞気に自己紹介の提案をする。俺が『もう一つの足音の主』正体に気が付いていると推察しているのかもしれないと、予想していたがその心配はなかったようだ。考えていた以上に俺は舐められているようだ。

 驚きから俺は声が出ないのではない。そうしないといけないのだ。そうしなければ現状を堪えられないからである。


「私は……」

「いえ、ご紹介には及びませんよ。クロッマー侯爵」


 『もう一つの足音の主』が名乗ろうとした声を止める。そして『もう一つの足音の主』の名前を口にした。


「……っ……」


 息を飲み驚愕する気配が、扉越しに伝わる。


「……いや、『計画の主』とお呼びした方が宜しいでしょうか?」


 続けて俺は、『もう一つの足音の主』の正体を口にした。



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