第六話 追撃③
「私は事実を述べているだけですが? それに、リベリーナ様が無実であることを証明して何か問題でも?」
俺は苛立つ気持ちを抑えつつ、モブ特有の笑みを向ける。王太子とイリーナたちを吊し上げたい気持ちはあるが、冷静さを欠いてはいけない。ことを急いては事を仕損じるからだ。
「……っ、それがしつこいと言うのよ! 王太子殿下とイリーナ様が間違うわけがないじゃない!」
怒鳴り声を上げる彼女は『イリーナのドレスが破られ、それがリベリーナのロッカーから出ている事件』の証言者であるエマ・バボラ。バボラ孤児院出身で平民ながらも成績優秀の為、初の奨学生としてこの学園に通うことを許された者である。
しかしながら、成績優秀者とは言い難い発言と態度である。スケルに続き盲目的な信者だ。もう少しだけ論理的な会話を期待していたが、無駄な期待だったようだ。
「間違いは誰にでもあるのでは? お二人とも人間ですから」
「……っ! だったら、クラインだって人間だから間違うのではないかしら? ほら記憶違いとかその本とかだって、何かの間違いの産物なんじゃない?」
ほんの少しだけ毒を吐けば、エマは得意げに俺の揚げ足をとる。
「…………」
「ほら! 黙ったということは、その線が否めないからでしょう? やっぱり『リベリーナ様がイリーナ様を階段から突き落とす事件』はあったし、イリーナ様のドレスはリベリーナ様に破られたのよ!!」
エマは俺が反論しないことをいい事に、大声を上げた。
俺が沈黙したのは、エマの愚かさに驚きを通り越して呆れているからだ。これだけの証拠は間違いで生み出される物では決してない。そのことは分かっているから王太子とイリーナとスケルは慌て、苦し紛れの言い訳を口にしたのだ。
そのことを目の当たりにしているというのに、現実逃避をしてまでの盲目的な信仰心。これは最早、病気としか言い表すことが出来ない。
勿論『リベリーナ、イリーナを階段から突き落とす事件』の冤罪を晴らしたというのに、こんな信者の譫言でそれを反故にされるなど、我慢ならない。だが病人に正論を説いたところで、有耶無耶にされるのが落ちである。
病人に効くのは薬だろう。
それもとびきりの劇薬をくれてやろう。